映画「BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」公式サイト
映画「BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
少年院で出会った二人の若者が“1分で最強を決める”という斬新な格闘技イベント、ブレイキングダウンに挑戦する姿を描いたバトルアクション映画であるが、まず驚くのは、エグゼクティブプロデューサーに格闘家の朝倉未来と起業家の溝口勇児が名を連ね、さらに「クローズZERO」の三池崇史監督がメガホンをとっている点だ。ぶっ飛んだヤンキー映画が得意な三池監督と、リアルファイトで世を熱狂させる朝倉未来という異色タッグの組み合わせからして、どう考えても刺激的な作品になる予感しかしない。
とはいえ、ただの“ケンカ映画”で終わらず、友情や夢を追う若者たちの葛藤まで一気に描く点は侮れない。スクリーン上には青春の美しさと厄介な不良同士の骨太バトルが入り乱れ、正直、笑いながらもドキドキが止まらない場面が多数だ。今回はそんな本作を激辛テイストでぶった切りつつ、魅力やツッコミどころを存分に語っていきたいと思う。
映画「BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」の個人的評価
評価: ★★★☆☆
映画「BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作は「少年院」という限られた空間で出会った二人の青年・イクトとリョーマが、朝倉未来の熱いスピーチに心を打たれ、「いつかブレイキングダウンで頂点を目指す」という目標を胸に刻むところからスタートする。タイトルの“BLUE FIGHT”が示すように、彼らの未熟さや葛藤、そして若さゆえの必死さが青々しくも眩しい。それに加え、「ブレイキングダウンは1ラウンド1分で最強を決める」という超短期決戦ルールをどう映画に落とし込むのかという興味もあって、観る前からワクワクしてしまう作品である。
まず特筆すべきは、主人公となるイクト役の木下暖日とリョーマ役の吉澤要人というフレッシュすぎるキャスティングだ。総勢2000人が参加したオーディションから選ばれたという触れ込みは伊達ではなく、演技経験が浅いからこその生々しさや純粋さを醸し出している。良く言えば“荒削りな魅力”、悪く言えば“演技がぎこちない”とも受け取れるのだが、それが逆にキャラクターのリアルな若さや不安定さを際立たせているように思う。何かとんでもない不良映画の世界に足を踏み入れた新星たち…という感じで、その初々しさが作品の持ち味になっているのだ。
次に、この映画を語るうえで外せないのがやはりバイオレンス描写だ。三池崇史監督といえば「クローズZERO」のイメージが強烈で、イケイケな不良たちがド派手にぶつかり合う喧嘩シーンはお手の物。今回も期待を裏切らず、アクションはアドレナリン全開といった趣である。見ていると「おいおい、それやりすぎだろう」とツッコみたくなるシーンも多々あるのだが、そこは三池映画らしい“過激さ”が全開で、むしろゴリ押し感がクセになる。中盤から終盤にかけての集団乱闘シーンは、とにかく勢い重視でカメラもワチャワチャ動き回り、誰がどこで何をしているかわからなくなる瞬間も正直ある。だが、そこがまた「ケンカって実際こうなるよね」とリアル感をもたらしている気もする。スマートさはあまり感じないが、とにかく血湧き肉躍る格闘・乱闘シーンが見たい人にはたまらないだろう。
とはいえ、本作はただの“不良の殴り合い”で終わらないところが面白い。なぜなら物語の軸には「ブレイキングダウンに出場する」という明確な目標があり、イクトとリョーマはそれを夢見て腕を磨く。彼らは孤独な少年院の中で出会い、仲間となって互いを高め合うのだが、社会に戻るや否や、己の過去や因縁に引きずられながら、想定外のゴタゴタに巻き込まれていく。そのあたりの人間ドラマは、意外と王道の青春映画に近い要素が含まれていて、友情や家族愛といったテーマもさりげなく盛り込まれている。けれども、決して説教くさくないのが三池演出の妙といえるだろう。泣かせにかかるようなシーンもあるが、テンポが早いのでクドさはあまり感じない。
一方で、ちょっと残念なのは、物語のツイストや展開が王道すぎる点だろうか。濡れ衣を着せられたイクトが不運な境遇に追い込まれていく過程や、リョーマとの友情が芽生える流れなど、ある意味で想像通りに進んでしまう。善と悪がはっきり分かれているわけではなく、ライバルにも彼なりのドラマがあるのは良いが、それぞれの背景を深堀りし切れていない感じもある。三池作品にはよくあることだが、登場人物が多いぶん、一人ひとりのドラマが散漫になりがちで、もっとキャラを掘り下げられたらさらに引き込まれたと思うところはある。
また、“ブレイキングダウン”という人気格闘技イベント自体の魅力が、映画の中で十分に描かれているかというと、そこは人によって評価が分かれそうだ。映画を観る前からブレイキングダウンの存在感や朝倉未来という人間のすごさを知っている人には、「あの熱気がスクリーンに広がっている!」と胸アツになるだろう。一方で、ブレイキングダウンをよく知らない観客からすれば、「そもそも1分間の試合ってどんなもの?」といった疑問がスルーされたままストーリーが展開されるので、やや置いてけぼりを食らうかもしれない。イベントの背景や魅力をもっと映像として提示すれば、格闘技に疎い層も巻き込めたのではないかと思う部分がある。
キャストについて言及すると、脇を固める俳優陣がなかなか豪華だ。高橋克典、篠田麻里子、土屋アンナ、金子ノブアキ、GACKTなど、「おいおい、こんな有名どころまで出ちゃってるのか?」と驚かされる。中でもGACKTが演じる因縁の相手側のキーパーソン御堂は、不気味な強さとカリスマ性を漂わせつつ、なぜかどこかお茶目さもにじませている。常に超然としているようで、戦いの最中に何か企んでいそうな雰囲気があり、本作の“ラスボス感”を担っている存在だ。とはいえ、クライマックスの決着シーンでは「あれ、意外とあっさり?」と思わなくもないが、そこは多分にエンターテインメント性が重視されているのだろう。
アクション演出に関しては、決して“格闘技映画”として本格的かと問われると、純粋なMMAやボクシング映画のような精緻さや技術的描写は少なめだ。むしろツッパった不良同士のストリートファイト要素が強く、体格差やスピード感で圧倒する“漢(おとこ)バトル”が中心といった印象である。いわゆる“ガチの試合”というより、喧嘩アクションのノリが強いため、そこを期待しすぎると拍子抜けするかもしれない。一方で、三池監督らしい痛快さや迫力のある演出が炸裂しており、画面の熱量は高い。血しぶきこそ控えめだが、殴り合いのエネルギッシュさは充分だ。
物語全体を通して強く感じるのは、「夢を追う若者の泥臭さとまっすぐさを描きたい」という製作陣の意気込みである。朝倉未来や溝口勇児がエグゼクティブプロデューサーとして名を連ねるだけあって、「不良だろうが、家庭が複雑だろうが、可能性は誰にでもある」というメッセージを込めたかったのだろう。それは映画の随所に散りばめられた台詞や演出からも伝わってくるし、彼らが大事にしている“夢”や“挑戦”という価値観がスクリーンを通じて熱く語りかけてくる。作り手の熱量は相当だと感じるので、そこに共感できる人は心を揺さぶられるはずだ。
もっとも、ストーリーの骨格がシンプルなため、観る人によっては「もう少しヒネリが欲しい」「ご都合主義な展開が多い」と思うかもしれない。主人公たちが成長していく過程をじっくり描かず、あくまで格闘アクションをド派手に見せるスタイルを選んだ感じがあり、そのためにキャラクター同士の関係性がやや薄味になっているところは否めない。とはいえ、深く考えず、若さ特有の熱量やアグレッシブなバトルを楽しむならこれくらい突き抜けた方が良いのかもしれない。とにかく鑑賞後には妙に元気になれる、そんなパワーを秘めた映画であることは間違いない。
総括すると「BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」は、不良アクションと青春映画の要素をゴリゴリに掛け合わせ、そこに“ブレイキングダウン”という時代のキーワードを織り込んだ作品だ。良くも悪くも熱血度120%な仕上がりなので、頭を空っぽにして目の前のバトルに没頭したい人にはピッタリだろう。王道中の王道とも言える展開が逆に気持ちよかったり、三池監督らしいケレン味たっぷりの描写に「ああ、やっぱりこの監督好きだわ」と思うファンも多いはずだ。個人的には、もう少しブレイキングダウン特有の刺激やドラマの深みがあれば一気に化けたかもしれないが、素直に楽しめるエンターテインメントとしては合格点と言ってよい。青春とは血が熱く、そして青い――タイトルに込められたその思いは、画面を通して十分に伝わってきた。
映画「BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」はこんな人にオススメ!
本作をオススメしたいのは、まず“熱い不良バトル”という言葉にピンとくる人だ。三池崇史監督の手がける喧嘩アクションはパワフルなので、ヤンキー映画が大好物な方にはド直球で刺さるはず。次に、格闘技イベント「ブレイキングダウン」のファンにも一見の価値がある。朝倉未来や溝口勇児らの名が製作陣に並んでいるだけに、リアル格闘技のエッセンスがうっすら漂っており、「1分間で最強を決める」破天荒なイベントの雰囲気を映画化したらどうなるか興味がある人にとっては外せない作品だと思う。
また、新人俳優のエネルギッシュな“伸びしろ”を目撃したい人にもおすすめしたい。主演二人の演技は洗練されているわけではないが、そこには絶妙な生々しさがある。いわゆる“演技派”とは異なる、これからどんな化学変化を起こすのか想像もつかない若手の粗削りな姿を応援したくなる人なら、きっと彼らの初々しさにキュンとするだろう。
一方で、ワンカットずつ緻密なアクションを堪能したいという人や、格闘技のテクニカルな駆け引きをじっくり観たい人には物足りない可能性もある。どちらかというとストリートファイト寄りで、若さと勢いで殴り込みをかけるような作風だからだ。それでも「とにかくド派手なケンカ映画を楽しみたい」「熱い青春の汗と涙を浴びたい」「夢を追いかける不器用な若者たちの姿に共感したい」という人には十分響くものがあると思う。要するに、アクション映画と青春映画のどちらも大好物で、考えるよりも感じるエンタメを求める人にはもってこいの一本だ。
まとめ
「BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」は、そのタイトル通り若さと熱さが突き抜けた作品である。
多少の荒削り感は否めないが、それさえも青春バトル映画の醍醐味として楽しむ懐の深さがあれば、存分に盛り上がれるはずだ。特に少年院で出会ったイクトとリョーマの友情と成長、そして彼らを待ち受ける過酷な運命に対して、なんだかんだ応援したくなる展開が痛快である。バトルの量も多く、喧嘩上等な若者のエネルギーをどっさり浴びられるので、観終わったあとに妙に元気が湧いてくるのも嬉しいところだ。
王道ヤンキー映画+格闘技イベントという異色の組み合わせが思いのほか馴染んでいるので、気軽に熱血青春ドラマを求める人に打ってつけ。最後には“青い炎”のごとく燃え上がる若者のパワーに圧倒され、思わず心の中でガッツポーズを決めてしまうこと請け合いである。