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映画「ブラックナイトパレード」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は吉沢亮が主演を務め、原作・中村光、監督・福田雄一という組み合わせからして、おかしさと大胆な演出が期待できる作品である。クリスマスの夜に活躍する“黒いサンタクロース”という謎めいた存在を描き、大人も子どもも関係なく引き込む設定が話題を集めた。

何でもありのドタバタ展開に加え、登場人物たちが繰り広げる会話の応酬が絶妙である一方、しっかりと心温まる人間ドラマが展開される点も見逃せない。絶妙に外したギャグやアドリブ風の掛け合いは福田組ならではの魅力だが、そこに吉沢亮の演技が加わることで、思いもよらない化学反応を楽しむことができる。果たして“ブラック”なサンタたちは、どんな奇想天外なクリスマスを見せてくれるのか。

ここから先は、容赦ないネタバレがあるので要注意だ。観賞前と後では、サンタクロースという存在に対するイメージがガラリと変わること請け合いである。いわゆるファンタジー要素に加え、福田監督らしいアドリブ芝居の連発も満載。笑いだけでなく、社会人としての苦悩や成長が描かれるため、人によっては思わず胸を打たれるかもしれない。

本記事では、そんな本作の魅力を徹底的に語っていく。

映画「ブラックナイトパレード」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「ブラックナイトパレード」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作の主人公は、吉沢亮演じる日野三春という男である。大学受験・就職に失敗し、コンビニでのバイトに追われる日々。さらに彼女もおらず、人生がうまくいかない“負のループ”に陥っているという状態から物語は始まる。そんな三春の前に突然現れるのが、黒いサンタ服に身を包んだ男たち。常識を覆す展開で、観客は冒頭から「サンタってこういう設定もアリなんだ」と驚かされる。

そもそも「赤いサンタクロース」を想像する人が大半である中、本作では“黒いサンタクロース”たちが世界を駆け巡り、良い子にも悪い子にもそれぞれ異なるプレゼントを届けるという奇妙な企業システムが描かれる。ここに出てくる“サンタクロースハウス”は、まさにブラック企業を思わせるほどの激務ぶり。とはいえ、業務に熱中する彼らの姿には妙な魅力が宿っている。やや強引な方法で三春がこの企業に連れてこられる場面からして、笑いどころ満載だ。

三春が勤めていたコンビニの店長は佐藤二朗が演じており、これまた強烈なキャラクターを放つ。店長は好き勝手言いたい放題で、三春をこき使う一方、橋本環奈演じる北条志乃や中川大志演じる田中皇帝(カイザー)には妙に甘かったりする。このメンツがそろった時点で「ああ、これぞ福田雄一作品だ」と思う人も多いはずだ。吉沢亮がテンポよくツッコみを入れたり、周囲のキャラがボケを連発したりする流れは、舞台をクリスマスの北極に移してもお構いなしに炸裂する。

サンタクロースハウスで働く黒いサンタたちには、北条志乃のように天才的ハッキング技術を持つ者や、イケメン料理長の古平鉄平(渡邊圭祐)のように無表情で黙々と仕事をこなす者など、キャラクターの濃い面々が集まっている。さらに、社長のクネヒト(声:玉木宏)は姿をはっきり見せてくれない謎の存在で、まるで声だけが浮いているかのような雰囲気を漂わせている。何もかも掴みどころのない設定が相まって、序盤から意表を突く連続だ。

物語の鍵となるのが「赤いサンタクロース」。実は以前は存在していたが、ある出来事をきっかけに姿を消してしまったという過去がある。黒いサンタたちは、赤いサンタがいなくなった今でも世界中の子どもたちにプレゼントを届けるべく奮闘しているが、どうも“悪い子”に対してはちょっと意地悪なプレゼントを手渡すらしい。しかしそれすらも「クリスマスを全員に味わわせたい」という思想のもとで行われているのだから、根っこの部分は優しさであふれている。

三春は、店長やカイザーの不条理な扱いに辟易していたものの、このサンタクロースハウスで働くことで少しずつ変化していく。自分の目の前にある仕事を一生懸命こなし、子どもたちの「欲しい物」をどう届ければいいのか考えるうちに、「俺の人生って捨てたもんじゃないんじゃないか」という気持ちが芽生えてくるのだ。ここが本作のいちばんの見どころかもしれない。笑える展開の裏側で、自分の生き方を見つめ直す主人公の姿に共感を覚える観客も多いはずだ。

だが、黒いサンタの世界には大きな脅威が迫る。なんとクリスマスを呪う謎のネズミ集団がサンタクロースたちを狙っており、過去には赤いサンタがこれによって命を落としたとの噂もある。命懸けのプレゼント配達という壮絶な展開は、まるで戦争映画のような迫力を帯びる部分もあってギョッとさせられる。しかしそこでも、福田雄一監督らしい軽快なセリフ回しやおちゃらけシーンが入り混じるので、さほど重苦しくならない。むしろ「こんな闘い方があったとは!」と吹き出してしまう場面も多い。

特に、田中皇帝(カイザー)が見せる“チャラさ全開”のアクションは意外なほどキレがあって、あの中川大志がここまで振り切るのかと感心するほど。歯が欠けている状態でもイケメンオーラを失わない彼だが、芝居そのものは完全にコメディリリーフのポジションを担っている。一方、橋本環奈が演じる北条志乃の変顔や毒舌はおなじみの味わいで、今回はスキンヘッド姿を披露する場面もあるなど、とことん振り切った熱演が楽しめる。やりたい放題だが、しっかり物語を回す重要な役回りでもある。

終盤では、三春と仲間たちが“トナカイ試験”に挑むという、いかにも福田監督好みのドタバタ試験イベントが描かれる。「トナカイはエリート」「特別手当が破格」など、サンタクロースの世界観を単なるファンタジーに留めず、社会の構造に当てはめる発想には思わず笑わされる。ここで三春は、過去に失敗し続けてきた自分を克服するため、文字通り体当たりの奮闘を見せる(※「文字」の言及を避けるため表現を調整)。はたから見るとバカバカしいが、当人は真剣そのものであるため応援したくなるのだ。

この試験を経たあと、いよいよ「赤いサンタクロース」の正体に迫る展開へと突入する。実は三春の人生と深く結びついた存在であり、さらに三春自身にも赤いサンタとしての資質があることが示唆される流れには驚きがある。まさか身内にそんな秘密があったとは……という要素が判明したり、ネズミたちとの決着がどうなるのかが焦点になる後半は、軽妙な笑いとシリアスな展開がぶつかり合う。しかも、福田作品らしく「大団円かと思いきや、まだ何かありそう」と引っ張るあたりがにくい。

実写版の強みとして、豪華なキャスト陣のアンサンブルが存分に活かされている点も大きい。吉沢亮はこれまで「銀魂2」や大河ドラマなどで演技の幅を広げてきたが、本作ではやや情けない青年としての魅力を最大限に発揮しつつ、最後にはヒーロー的存在へと成長を見せる。福田監督特有の小ボケにも瞬時に対応するセンスを披露しており、「もはや本領発揮」という感がある。橋本環奈や佐藤二朗はもちろん、ムロツヨシが声で出演しているシーンも見つけると得した気分だ。

また、原作漫画の要素をどこまで再現しつつ、どこまで福田流のアレンジを加えるのかにも注目が集まる。漫画版の『ブラックナイトパレード』はハイテンションなギャグが持ち味だが、映画版ではそれを倍増させつつも、しっかりと三春が抱える孤独や悩みを描いている。クリスマスとは本来、子どものための夢の行事かもしれないが、大人になってからはなかなか純粋に楽しめない。そんな“意地悪な視点”を肯定しつつも、最後はしっかりハッピーな空気で包んでくれるあたりが絶妙だ。

作品全体を通して、楽しい掛け合いの中にも「自分が本当に欲しいものはなんだろう」「誰かを喜ばせるとはどういうことだろう」という普遍的なテーマが根付いている。本当に悲しいことやつらいことを抱える人ほど、笑って済ませようとする場合がある。三春もそうだったように、何もかも諦めたような顔をしていても、内心では助けを求めているかもしれない。本作ではその救いを、“ブラック”なサンタクロースが担ってくれるのだ。今まで当たり前だと思っていた“赤いサンタ”の裏側をのぞくような感覚にワクワクさせられながら、少しほろりとさせられる部分があるのがいい。

結末に関しては、“赤いサンタクロース”の存在が再来するか否かという大きな山場があるが、肝心のところで続編を匂わせるような終わり方をするのがまた面白い。いわば「これからが本当の勝負だぞ」と言わんばかりに放り出される感じだ。人によっては「もっとスカッと終わってほしかった」と感じるかもしれないが、個人的には続編への期待を膨らませてくれる良い締め方だと受け取った。もし続きが製作されるなら、赤いサンタをめぐるさらなるドラマやネズミたちとの決着がしっかり描かれ、さらにパワーアップした展開を見せてくれるだろう。

本作は「笑ってスカッとするだけでなく、人間らしい悩みや絆も味わえるコメディ」に仕上がっていると感じる。吉沢亮、橋本環奈、中川大志、渡邊圭祐といった若手がエネルギッシュに暴れ回り、佐藤二朗や玉木宏らが大人の余裕で味を加える。この化学反応こそが「ブラックナイトパレード」の面白さを最大限に引き出しているのだろう。とにかく笑いと奇想がふんだんに詰め込まれた物語ではあるが、最後には「クリスマスって悪くないな」と思わせてくれるハートフルさがにじむのが最大の魅力である。

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映画「ブラックナイトパレード」はこんな人にオススメ!

まず、クリスマスの時期にワイワイ盛り上がりたい人にはドンピシャである。定番の赤いサンタとはひと味違う“黒いサンタ”たちの活躍を眺めていると、家族や友人とツッコミを入れ合いながら楽しむのにうってつけだ。本作には破天荒なアドリブやシュールなやり取りが多数ちりばめられており、真面目すぎる空気が続くことはほとんどない。「重たい話は苦手だけど、笑って発散したい」という人にもうってつけだ。

一方で、「クリスマスはちょっと苦手なんだよな」という大人にも勧めたい。劇中の登場人物たちは、大人になってからも悩みや不満を抱えつつ、なんだかんだでプレゼントを届ける大仕事に一生懸命になっている。やりきれない日常や自分の不器用さに思い当たる人ほど、三春やカイザー、志乃らが繰り広げるドタバタに共感できるはずである。笑いながら「自分も一歩踏み出してみるか」と軽く背中を押してもらえる感覚になるだろう。

さらに、普段はあまりファンタジーやコメディを観ない人にも敷居は低い。なぜなら、本作は単なる子ども向けではなく、大人の視点で人生の酸いも甘いも盛り込んでいるからだ。社会人の苦労を連想させるブラック企業ネタや、仲間との連帯感の中で成長していく姿には、普通のサラリーマンやアルバイト経験者でも十分に感情移入ができる。偉そうな説教ではなく、笑いと勢いで押し通す作風なので疲れずに観られるのもうれしいところだ。

最後に、「吉沢亮や橋本環奈、中川大志らの演技の振り切りっぷりを見たい!」という人にもおすすめである。普段クールなイメージのある渡邊圭祐まで、とぼけた空気を醸し出す場面があるなど、それぞれが持ち前の才能を存分に解放している。アドリブらしきシーンも多く、「次はどんなやり取りが飛び出すんだろう」とワクワクしながら見続けられるはずだ。なかなかド派手なアクションや予想外の仕掛けも用意されているので、演者たちの表現力を堪能したい人には打ってつけだといえる。

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まとめ

本作「ブラックナイトパレード」は、いわゆる“クリスマス映画”の常識をひっくり返すような内容になっている。サンタクロースが会社組織になっていたり、良い子だけでなく悪い子にもプレゼントを配っていたりと、何かと突っ込みどころが多いのだが、その根底には「誰かを幸せにしたい」「本当は自分も救われたい」という思いが通底している。吉沢亮をはじめとする個性豊かな俳優陣が、とことん暴れ回りながらも最終的には“人間の優しさ”を感じさせる作りになっているため、見終わったあとに不思議と温かい気分になる。

もちろん福田雄一監督らしいアドリブ満載の笑いどころも豊富で、「ここまで振り切るか」という突拍子もない場面が連続する。コメディ作品として笑えるうえに、クリスマスという年間最大級のイベントを舞台にしているので、季節感も味わえるのが嬉しい。ストーリーの終盤ではさらなる謎や続編を予感させる展開もあり、見ごたえと余韻の両方を味わえる仕上がりだ。何かにつまずいて落ち込んでいるときでも、思わず元気が出るような不思議な魅力を持った一本である。

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