映画「BETTER MAN ベター・マン」公式サイト

映画「BETTER MAN ベター・マン」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

ロビー・ウィリアムズの波乱に満ちた人生を大胆に映し出した、半自伝的なミュージカル映画が「BETTER MAN ベター・マン」である。監督は『グレイテスト・ショーマン』で華やかな映像美を手がけたマイケル・グレイシー。本作ではなんと、主人公であるロビー自身を“サル”として描き出すという離れワザに挑戦している。

伝記映画といえば「実際にどれほど本人に似ているか」が話題になりがちだが、そこをあえて外し、完全なCGIのサルを使うことで独自の魅力を打ち出しているわけだ。しかも本人の動きや歌声がしっかり投影されているため、観始めは違和感を抱くかもしれないが、気づけば画面に引き込まれ、ロビーの人生に肩まで浸かってしまう。どこまでが事実でどこからが創作かを考えるのではなく、とにかく鮮烈な演出のなかで主人公の葛藤と音楽への情熱を追体験するのが、この作品を楽しむコツだと感じたので紹介したい。

映画「BETTER MAN ベター・マン」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「BETTER MAN ベター・マン」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからはストーリーやキャラクターの核心に触れるため、あらかじめ注意してほしい。とはいえ本作の魅力は、細かい事実関係よりも登場人物たちの心情とパフォーマンスの迫力にあるので、多少のネタバレもむしろ味付け程度のものだろう。以下は筆者なりに感じたポイントを、率直かつ砕けた調子で綴っていく。

まず強烈に印象に残るのは、やはり「ロビーがサルとして描かれている」という事実だ。サルの姿でありながら、しっかりとロビー本人が歌い、踊り、演じている様子がリアルに伝わってくるのだから興味深い。実際、モーションキャプチャーによって表情や仕草を正確に再現しているようで、サル然とした動きのなかに人間的な繊細さが感じられるのだ。序盤では「なぜサル?」と疑問に思う観客も少なくないだろう。しかし、観進めるほどに「ああ、こういう表現手法もアリなのか」と納得させられる演出が詰まっている。

その背景には、ロビー・ウィリアムズ本人が抱いていた自己評価の低さや「自分は見世物として踊り続けるサルだ」という思いがあったという。トップスターとして一世を風靡する一方で、心のどこかに「自分は人間扱いされていないのでは」というコンプレックスを抱えていたのかもしれない。本作では、その心の叫びをメタファーとして映像化し、サルの姿で自己を表現することになったようだ。こうした経緯を知ると、一見突拍子もない設定も説得力を帯びてくる。

ストーリーは幼少期のロビーが、自身も歌手として活動する父に複雑な思いを抱きながら成長していくところから始まる。舞台はイギリスのストーク=オン=トレント。天真爛漫に跳ね回る少年ロビー(サル)が舞台で堂々と歌い踊る一方、父は彼の舞台をあまり見に来ない。その父が家を離れたことで、ロビーの心には常に「自分は大切にされていないのでは」という疑念が刻み込まれる。そこを振り払うように歌への熱を深め、ついにボーイズグループ「テイク・ザット」のオーディションを受けるチャンスを得るわけだ。

「テイク・ザット」での成功はまさに快進撃そのもの。イギリスを代表するアイドルグループとして大ブレイクし、10代から圧倒的な支持を集める。しかし、目標としていた成功を手にしたはずのロビーが、なぜか精神的な満たされなさを拭いきれずに苦しむ場面が描かれる。コンサートで大歓声を浴び、雑誌の表紙を飾り、ファンから熱い声援を受けているのに、家に帰ると孤独感が襲いかかるのだ。ファンやメンバーが見る華やかな世界の裏で、アルコールやドラッグに依存する姿は見るにしのびない。ここで強調されるのが父との確執である。満たされない心を誤魔化すための派手な行動が、かえって自分を苦しめてしまうという悪循環に陥っているようだ。

やがてロビーはグループを脱退し、ソロアーティストとしての道を歩み始める。ここから本作は、さらに派手なミュージカル演出によってパワーアップしていく。監督マイケル・グレイシーの持ち味である、疾走感あふれる振り付けときらびやかな映像が存分に活かされているのだ。ロビー本人が放つ歌声と、サルの肉体が動くビジュアルのギャップによって、妙に引き込まれるシーンが連発する。「テイク・ザット」在籍時代のヒット曲やソロ転向後の名曲も続々と登場し、そのたびにショーステージさながらの熱気が画面を埋め尽くす。

特に盛り上がるのは、ロンドンのリージェント・ストリートで繰り広げられる大規模なパフォーマンスだ。街が丸ごとダンスフロアになったかのような映像は壮観であり、まさにミュージカル映画だからこそ可能な表現だといえる。中盤では恋愛面にも触れられ、パーティー会場や豪華な船上でのロマンチックなシーンが描かれているが、あくまで主役はロビー自身の内面だ。父とのわだかまりから生じる孤独や、メディアやファンの期待に応え続けることへの疲れなどが、ドラマチックな音楽に乗せて次々と映し出されていく。

終盤では音楽的成功の絶頂期にいたロビーが、精神的にどん底へ落ちていく姿が強烈だ。ネブワースでの巨大ライブを前に、自分の過去の姿に襲われる幻影や、子どもの頃の自分にすら否定的な感情を抱く様子は痛々しいほどリアルである。サルの姿でありながら、あたかも生身の人間が叫んでいるような迫真の表情が印象深い。派手なショーアップシーンの裏側で、自分が望んでいたはずの名声や富が、思いも寄らぬ苦しみを生むことを示しているのだろう。

そこへ、父との再会が訪れる。憎しみと尊敬が入り混じり、どうしても乗り越えられなかった壁をサルのロビーが必死に乗り越えようとする場面にはグッとくる。自分の人生を振り返りながら、サルという姿で世間の注目を浴びたロビーが最後に手にするものは、圧倒的な成功でも、完璧な親子愛でもない。むしろ「一人の弱い人間としての自分を認める」という等身大の気づきだと感じた。華やかなショーを見終えたあと、ふと心に残るのは、人間の弱さや愛の行方をめぐるほろ苦い余韻である。

ビジュアルエフェクトの奇抜さはもちろんだが、ミュージカルとしての完成度も高く、大音響の劇場で鑑賞すれば、ロビーのパフォーマンスに身体ごと包み込まれるような感覚を味わえるはずだ。CGIでサルを作り出すというリスクに挑みながら、観客の感情を揺さぶる作品に仕上がっている点は見事としか言いようがない。アカデミー賞で「視覚効果賞」にノミネートされたのも納得である。実在の歌手を描く伝記映画は数あれど、これほどぶっ飛んだコンセプトでありながら、エンターテインメントとして成立している作品は珍しい。ロビー・ウィリアムズをよく知らなくても、これを機に彼の曲を聴きたくなるだろうし、ファンならばなおさら感慨深い発見があるはずだ。

以上、かなりの長文になってしまったが、この作品の核心は「サルとしての自分を通じて、自分の過去や人間関係を見つめ直す」という点にあると感じた。最終的には、波乱と成功の果てに見えた小さな希望が、観る者の心をあたためてくれる。きらびやかでありながら生々しい痛みも隠さない、そんな刺激的な映像体験を味わいたい人にこそおすすめしたい。

映画「BETTER MAN ベター・マン」はこんな人にオススメ!

本作は「奇抜な設定でもしっかりドラマに落とし込んでいる作品」が好きな方に向いていると感じた。ロビー・ウィリアムズの半生をあえてサルというCGIキャラクターで表現するという発想自体が、一種の挑戦状みたいなところがある。普通の伝記映画に飽きてしまった人には斬新なインパクトをもたらすだろう。一方で、音楽のパフォーマンスシーンが好きな人も見逃せない。グループ時代やソロ転向後など、実際にロビーが生み出してきた名曲の数々に彩られた派手なショー演出が豊富なので、ライブ感を満喫できる。特にミュージカル映画に抵抗がないなら、軽快なステップと壮大な歌声にいつのまにか身体が揺れてしまうかもしれない。

また「スターの華やかな活躍の裏側にある苦悩や葛藤に興味がある」という人にもおすすめである。名声を手に入れながらも自分の存在意義に疑問を抱き、孤独を紛らわそうとする姿は胸に迫るものがある。ロビー本人の体験に基づくからこそ、表面的な成功譚だけでは終わらない深みがあるのだ。さらに「家族との確執」や「自身のアイデンティティ探し」の要素が強めなので、ただ明るく歌って踊って終わるだけではなく、感情移入しながら観る楽しみも大きい。ビジュアル的にも驚きの連続で、観たあとの話題にこと欠かない作品である。

まとめ

「BETTER MAN ベター・マン」は、サルのCGIでロビー・ウィリアムズの人生を描くという独創性が目を引く。

それだけを聞くと突飛な映画に思えるかもしれないが、蓋を開けてみればミュージカルとしての完成度が高く、ドラマパートも引き締まっている。何よりも本人が歩んできた苦悩や痛みをしっかり映し出しているため、演出の派手さに頼るだけではない芯の強さを感じる。

ファンなら「こんなエピソードがあったのか」と胸に沁みる場面もあるだろうし、初めてロビーの名を知る人にとっては、ちょっと奇抜でありながら興味をそそられる入門編になるはずだ。鑑賞後にはきっと、彼の曲を改めて聴き返してしまうのではないかと思う。