映画「BAD LANDS バッド・ランズ」公式サイト

映画「BAD LANDS バッド・ランズ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は安藤サクラが特殊詐欺グループの一員を演じるというだけで、なかなか刺激的な匂いがぷんぷんする。実際に観てみれば、あちこちに転がる危ない人間模様と、予想を裏切る展開の連打によって、スクリーンの向こう側からざわざわと迫ってくるような迫力を味わった。詐欺という題材ゆえに金の匂いがそこらじゅうを漂い、さらに血の繋がらない姉弟が大金をめぐって翻弄される流れには、思わず「え、そこまで踏み込むのか?」とドキドキさせられる。しかも笑える部分と恐ろしさがワンセットで襲ってくるため、観終わったあとには奇妙な後味が残る。

社会の底辺を泳ぎながらも、どこか吹っ切れたように走り回る登場人物たちの姿は、見る者を複雑な感情に引きずり込むはずだ。ここからは物語の核心に触れた意見を包み隠さず書き綴っていくので、未視聴の方は先に本編を堪能してほしい。

映画「BAD LANDS バッド・ランズ」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「BAD LANDS バッド・ランズ」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作を観終わったあと、真っ先に感じたのは「なるほど、詐欺をめぐる暗黒劇というのは、こんなにもかき乱されるものか」ということだ。詐欺映画といえば騙し合いや頭脳戦を連想するが、本作の場合は明らかに“欲望”や“暴力”といった直接的な衝撃が前面に押し出されている。いわばクライムサスペンスとバイオレンスドラマの中間にあるような作品でありながら、登場人物たちがお互いを切り崩す駆け引きをしつつ、ちょっと笑ってしまうようなかけ合いも混在していて、観客を翻弄する作りになっている。

主人公の橋岡ネリ(安藤サクラ)は、特殊詐欺グループ内で「三塁コーチ」という役割を担う。野球用語のようでいて、実際の詐欺現場ではとても重大なポジションだ。受け子と呼ばれる実行担当を現場でサポートしつつ、危険な雰囲気を感じたらすぐ中止の指示を出す。つまり、危機管理能力が高くなければ務まらない。ネリ自身は左耳の聴力を失っているが、それを補って余りある勘の鋭さと度胸の良さを発揮する。その姿がまさに“天性の詐欺師”という感じで、見ていてハラハラしながらも惹きつけられるのだ。

ネリの一番のやっかいな相棒(というより荷物?)が、血の繋がらない弟・矢代ジョー(山田涼介)。このジョーは短絡的かつ衝動的な行動が多く、一歩間違えれば周囲を巻き込んで共倒れしかねない。だからこそネリは常にジョーの尻ぬぐいをしているように見えるわけだが、そこには複雑な背景がある。もともとネリは育った家で暴力や虐待を受けていた。そんなとき、ジョーがとある事件を起こすことで結果的にネリを救ったという経緯があるのだ。以来、2人は縁を断ち切れず、今作の冒頭でも再会してしまう。いわば「前科持ち+トラブルメイカー+借金まみれ」という最悪の予感がする弟を、ネリはなんとか見守るしかない状況なのである。

一方、ネリたちのボス的存在である高城(生瀬勝久)は、いわゆる詐欺の番頭役として暗躍している人物だ。この男がまた胡散臭さ全開で、上には権力筋や警察とのパイプを持ち、下にはいくつもの現場班を抱えて金をまきあげるという、なかなか黒いネットワークを築いている。ネリはそんな高城を頼る一方、どこか心にわだかまりを抱えているように見える。なぜなら高城はネリの実父だった、という衝撃的な事実が物語の要所で明かされるからだ。しかし親子愛など微塵も感じさせないのがまた悲しいところで、むしろネリは利用されている側面が強く、高城自身も娘を愛する気配はあまりない。金と欲と支配、そんな暗い欲望がうごめくだけの関係がベースにあるように映った。

そこに追い打ちをかけるのが、資産家の胡屋(淵上泰史)だ。彼はネリの過去を握っており、歪んだ支配欲によって彼女を追い詰め続けている。殴る蹴るは当たり前、暴力によって相手をコントロールするタイプの男で、「おれの持ち物を奪って逃げた女はどこだ」と執念深く探している。ネリが左耳を失ったのも、その暴力が原因というわけだから、彼女にとっては因縁の相手であり、再び見つかったら最後という絶望的な存在である。物語の終盤、ジョーがネリを守り抜くために選んだ行動は過激であり、そこにはある種の純粋さも感じられるが、ついにジョーの人生が無残な形で終わりを迎えてしまう展開には息をのんだ。弟が必死に守ろうとしたのは「姉の自由」か、それとも「ずっと助けてもらってきた自分の負い目」か。複雑な愛憎が渦巻く瞬間である。

さらに、本作の注目ポイントとして挙げたいのが、ふれあい荘を拠点に暮らすホームレスや貧困層の人々だ。彼らは詐欺の“受け子”として利用されたり、裏社会の資金源にささやかに加担したりする立場なのだが、決して全員が極悪人というわけではない。そこにはままならない生活を送るなかで、わずかな日銭を得るために踏ん張る悲哀や、互いを助け合う温かい交流がある。特に印象的なのは曼荼羅(宇崎竜童)という元ヤクザの老いた人物。アルコールと薬の影響でふらふらだが、ネリにとっては人生の師匠のような存在だ。表面的にはボケ老人にしか見えないのに、いざというときには凄みを放ち、ネリの逃亡を手助けする。彼の献身ぶりには目頭が熱くなるし、同時に「この世界の人間関係は“金”と“暴力”だけでは断ち切れない不思議な紐帯があるんだな」とも思わされる。

しかし、本作のストーリー展開自体は決して道徳的な教訓を与えてくれるわけではない。詐欺に加担する人間が逮捕されるか、天罰を受けて後悔するかといえば、そう単純にはいかない。むしろ欲望に突き進んだ者勝ちの要素が色濃く、犯罪の末に大金を得ようとする者は多い。警察の佐竹刑事(吉原光夫)たちが地道に捜査を進めてはいるものの、上層部の圧力やら権力者の思惑やらが邪魔をして、本丸に簡単にはたどり着けない。こうした裏社会と表社会ががっちり手を結んでいる現実を見せつけられると、観る側としては「正義って一体なんだ」と言いたくもなる。

とはいえ、ネリは金を追い求めながらも、どこかで「ここを抜け出したい」「普通の幸せを手に入れたい」と切望しているように見える。ジョーからすれば、そんな姉を守り抜くことで、自分の生きる意味を見いだしたいのかもしれない。この姉弟が厄介なのは、単なるチームワークや信頼で結ばれているわけではないという点だ。血が繋がっていないからこそ余計に不思議な縁で結び付けられていて、それゆえに衝突も激しい。最後にはジョーが自らの命を賭してまで姉を逃がそうとするが、その裏には「本当に姉を自由にしてあげたい」という願いと、「自分が起こしてきたトラブルへの償いをしたい」という後ろめたさが混ざっているように感じた。そう考えると、ジョーという人物はめちゃくちゃに見えて実はピュアで、そこが悲壮感をより強くしている。

本作にはまだほかにも目立ったサブキャラクターがいる。賭博場を仕切る林田(サリngROCK)は狂気をはらんだ風貌と哲学的な趣味が混在する女性で、悪人だが妙に勉強家なのが面白い。新井ママ(天童よしみ)のように、いかにも大阪のオバチャン的な明るさをまといつつ裏社会を行き来する存在も印象深い。それぞれが異なる動機と欲を抱えており、ストーリー中盤以降は彼らの思惑が交錯してカオスを生む。誰が最終的に笑うのか、もしくは全員が泥沼に沈むのか。普通の詐欺映画なら「最終的には騙された人間の逆転勝利」みたいな締め方もありそうだが、本作はそういった枠組みをいい意味で裏切るからこそ先が読めない。

最終盤に至っては、ネリが大金を海外へ持ち出そうとする計画が淡々と進んでいく一方で、胡屋の追撃や警察の包囲網がじわじわ迫る。ジョーが単独で行動を起こし、胡屋を暗殺する展開は衝撃だが、さらに衝撃なのはジョーがそのまま警察に射殺されてしまう結末だ。「まさかあの弟がこんな幕切れを迎えるなんて」と驚く人も多いだろう。一方、ネリは曼荼羅の犠牲的な行動に支えられ、最終的には逃亡を果たしそうな様子で物語が締めくくられる。ここで感じるのは爽快感と虚無感の奇妙な混在だ。ひとりだけ先に未来へ向かうネリの姿を見れば、「これで本当に解放されるのか」と安堵したい反面、「結局この人も犯罪に手を染めたままどこへ行くのだろう」と複雑な思いが湧き起こる。

本作では「正義」に対する答えなど提示されないし、どの人物も闇を抱えたまま生きていく。それでも一瞬だけ見える“人間味”や“仲間への思い”が、本作のドロドロとした世界観に鋭い刺激を与えてくれるのだ。悪党ばかり登場するようで、実は誰もが「自分だけの幸せ」を求めてあがいている。その必死さが痛いほど伝わり、観終わった後には変な熱量が体に残る。これこそが「BAD LANDS バッド・ランズ」の最大の魅力ではないかと感じる。

結論として、本作は詐欺映画を見慣れている人にも一味違ったパンチを与えてくれるだろう。荒涼とした世界に散りばめられたキャラクターたちの行動を追ううちに、いつの間にか目が離せなくなってしまう。そのうえ主演の安藤サクラが醸し出す絶妙な存在感や、山田涼介の危うい雰囲気が混じり合い、生瀬勝久や宇崎竜童といったベテラン勢の怪演も手伝って、中盤から後半にかけての盛り上がりはなかなか手加減なし。さまざまな視点で裏社会を映し出す点においても「こんな闇があるのか…」と考えさせられた。

詐欺がテーマということで、お年寄りや弱者を食い物にするなんて最低だ、と感じる場面も多い。だが、そこに生きる人間が本当に望んでいるものは何なのかを考えると、単純な善悪だけで切り分けられない。観客の善悪観や価値観を揺さぶる作りだからこそ、いわゆる“後味”の割り切れなさが癖になる。ラストでネリが街を飛び出すシーンにはわずかな希望が感じられるものの、彼女が大金を手に入れた先に楽園が待っているのかは誰にも分からない。だからこそ、観る側としては「人生なんてそんなものだ」と思わされる部分もあるし、かすかな救いを信じたくもなる。最終的には、良くも悪くも映画の余韻に身を浸しながら、自分自身に問いかけるような鑑賞体験になるはずだ。

映画「BAD LANDS バッド・ランズ」はこんな人にオススメ!

この作品は、正義や倫理観をどっしりと求めるような“スカッと感”を味わいたい人にはあまり向かないかもしれない。むしろ、犯罪ドラマの湿った空気感や、裏社会でうごめく人間模様をとことん見たい人にこそ薦めたい。ネリとジョーの姉弟が詐欺や暴力、裏取引に翻弄されるさまを追っているうちに、「人間は悪に手を染めてもなお、何かを守りたいんだ」という切実さがビシビシ伝わってくる。その切実さこそが本作の見どころであり、登場人物全員が“自分勝手だけど生きるために必死”な姿勢を示しているのも興味深い。

特に、「クライム要素が強い作品が好き」「社会の闇を体感してみたい」「強烈なキャラクターがぶつかり合う物語に惹かれる」という人にはドンピシャだと思う。暴力表現や詐欺の描写がリアルなところもあり、苦手な人は距離を置くほうがいいかもしれないが、その分、作品が投げかけるメッセージ性は重みがある。さらに、ベテランと若手のキャスト陣が入り乱れることで生まれる相乗効果も見逃せない。安藤サクラや山田涼介の演技力にしっかり浸りたい人、生瀬勝久の怪しげな存在感を楽しみたい人、宇崎竜童の渋さを堪能したい人にもうってつけだ。

「あらゆる価値観を揺さぶられたい」「ヒーローは登場しないけど救いようのない世界が見たい」「だけど最後にはかすかな希望を探したくなる」――そんな人にこそ、この作品の熱量がきっと刺さるだろう。悪党ばかりが入り乱れるのに、妙に人間臭くて憎みきれないという不思議な後味を楽しんでほしい。

まとめ

詐欺をテーマにしながらも、表面的には金と暴力が入り乱れるフィルム・ノワールのような雰囲気を漂わせた本作は、良い意味で肩すかしを食らわされる魅力に満ちている。誰かが正義の鉄槌を下すわけでもなければ、完全無欠の悪人が罰を受けるわけでもない。だからこそ、観終わった後には何ともいえない衝撃が残るが、それがまた次の瞬間には妙な爽快感や切なさに変わるのだ。

ネリとジョーが背負う過去や、それぞれが守りたかったものを考えると、この映画はただの犯罪活劇以上の人間ドラマとしても読める。家庭環境や社会構造に押し潰され、逃げ出す先もまた裏世界。それでも二人は自分なりに生きようと足掻きつづけた。その姿に胸が締めつけられつつ、いずれ訪れる破局的な結末からは目が離せない。危険な臭いがプンプンしながらも、人間の底力と哀しみが詰まった作品であると断言したい。