映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作はジェームズ・キャメロン監督が手がける大作として、前作から長い年月を経て帰ってきた一品である。まず言えるのは、映像表現へのこだわりが段違いということだ。雄大な自然や異星パンドラの海洋生態系が目の前でうねるように広がり、スクリーンに釘付けになるほどの迫力を覚えた。一方で、あれこれ言いたくなる部分も多々あるのが面白い。登場人物の行動原理やストーリー運びにやや突っ込みどころを感じる場面が少なくないのだ。総じて「美しい映像が心を奪う一方で、ドラマがやや置いてきぼりでは?」と思わされるところもあり、そのギャップがむしろ語り甲斐のある作品になっている。
とはいえ、海の描写を中心とした新たな世界観は目に焼き付く素晴らしさで、スクリーンでの体験は他では味わいにくい。前作が好みであろうとなかろうと、やはり劇場の大画面でこの壮大さを浴びる価値はあるだろう。ここでは映像美や物語、登場人物の動きをあれこれ語りながら、本作が投げかける要素をじっくり掘り下げていく。
映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の個人的評価
評価: ★★★☆☆
映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作について何より目を引くのは、やはり壮大な海の世界観である。パンドラの海が持つ独自の生態や文化が非常に丹念に作り込まれており、観ているだけで「ああ、ここに実際に行ってみたいなあ」と思わせる力がある。そもそも前作「アバター」はジャングルや空を舞台に、地球上にはない異世界をリアルに感じさせてくれたのが大きな魅力だった。それが今回は海に広がっており、サンゴのような幻想的な植物や不思議な形状の海洋生物が縦横無尽に泳ぎ回る姿を見るだけで、「すごいものを観ちゃってるな」と得した気分になる。
監督のジェームズ・キャメロンといえば、かつて「タイタニック」で海をドラマの大きな舞台に描いた実績がある。彼自身が水中撮影に並々ならぬ情熱を持っていることも周知の事実で、ドキュメンタリー制作や深海探索に関わっていたりと筋金入りだ。本作でもその強みが存分に発揮され、画面の隅々まで海のリアリティや神秘に満ちているのは確かである。波の揺らめきや生き物の質感、水の中から見上げる光の差し込み方など、どれもがまるで本物の海に潜っているかのような臨場感を与えてくれる。
しかし、物語の内容に目を移すと、どうしても疑問を感じる面が出てくる。要するに、3時間を超える大作のわりに「そこ、そんな簡単な考えで大丈夫?」と思わせるような展開が続くのだ。主人公ジェイク・サリーは地球人として生まれながら、ナヴィ族の一員として生きることを選択した存在だが、彼は地球からの再侵略が迫っているという状況にもかかわらず、家族とともに逃れようとする。森の民を危険に巻き込みたくないという大義名分は理解できるが、その結果、別の部族を余計に危険にさらしていくような場面が多々あるわけだ。
さらに地球人サイドにも「なぜそんな行動をとる?」という動機の薄さが散見される。新たな肉体で蘇ったクオリッチ大佐は、ジェイクへの復讐を最大の目的に掲げて動いているように見えるが、地球人全体としては惑星パンドラの資源を求めているはず。侵略を進めたければさっさと大規模作戦を実行すればいいのに、やたらと回りくどい手順を踏むのが不自然に感じられる。もちろん、エンターテインメント作品として「宿敵同士の対決」を盛り上げたい意図は分かるが、もう少し説得力を持たせても良かったのではないかと思う。
このあたりは、前作でも「大雑把に言えば米軍と原住民の戦い」みたいな図式で批判された部分でもある。地球側があまりにもステレオタイプな侵略者として描かれ、ナヴィ族が一方的に虐げられる構図は分かりやすい反面、「どうしてそこまで単純な仕掛けにするのか?」と首をかしげる向きもあった。今回はそれをさらに家族愛や自然との共生をテーマにのせているため、なおさら「家族を守りたいジェイク」「かつての自己を引きずるクオリッチ」の対立が核にあるものの、説得力を補うエピソードが薄く、行動のつじつまがちょっと甘いと感じるのだ。
ただ、そんな葛藤や粗めの構成すらも「圧倒的な映像の力」で押し切ってしまうのが本作の強みといえよう。パンドラの海を舞台にすることで、新種の海洋生物や独特の文化を持つ“海の民”メトカイナ族が登場するわけだが、彼らの風習や暮らしぶりがまた面白い。尾びれの形や体格が森の民とは異なっており、泳ぐことを前提に進化した体を生かしたアクションは斬新だ。特に、メトカイナ族のリーダー格がジェイク一家に「海での生き方」を教えるシーンは、見る側も未知の世界に足を踏み入れるかのようなワクワクを感じられる。
水中戦闘の描写もまた大きな見どころになっている。森の民が飛竜のような生き物と空を舞った前作に対して、今作はさらに複雑な水中アクションを実現していて、射撃、潜水、乗り物(海洋生物)との連携などがダイナミックに描かれる。CG技術の進歩も相まって、現実と見分けがつかないような迫力だ。こういうシーンこそ劇場で観る価値があるというか、大きなスクリーンと音響で沈む船や爆発シーンを目の当たりにすると、普通の映画では得られない没入感に包まれる。
物語の中心にはジェイクの子どもたちが大きく関わっており、「父親としてのジェイク」の苦悩や、子どもたち自身の葛藤が多く描かれる。ここに本作の新たなポイントがある。子どもの中にはナヴィと地球人両方の血を引く者、養子として迎えられた者もおり、「自分の帰属先はどこにあるのか?」という悩みを抱えている。物語を通じて彼らが勇気を出して行動し、それが仇になってしまうこともあれば、家族を救う方向に働くこともある。こうした家族ドラマは決して嫌いではないが、どうしても失敗が続く展開がくどく見える部分はある。何度同じトラブルが起きるんだ、という気持ちになってしまう点は否めない。
一方で、親としてのジェイクとネイティリも完全無欠ではなく、ときに厳しく叱り、ときに子どもを助けるために大暴れする。ナヴィ族の戦士としての誇りや伝統を守りたい気持ちと、愛する家族を失いたくない切迫感がぶつかり合っており、その葛藤が演じられるシーンはそれなりに見応えがある。とりわけ、後半でジェイクとクオリッチが直接対峙し、さらには子どもたちの命が天秤にかけられる場面では、両者とも引くに引けない意地と執着がむき出しになる。正直言って、ご都合主義的な展開は少なくないのだが、クライマックスの盛り上がりだけは否応なくヒートアップしていくのだ。
そして「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」を語る上で外せないのが、その圧巻の映像技術である。カメラが水中に入っていくカットや、光の当たり方のリアルさなど、「こんな映像、本当にどうやって撮ったんだろう?」と考えさせられる。まるで実写とアニメの境目が消失するようで、純粋に観賞していると、そこが映画館であることを忘れてしまいそうになるほどだ。確かにストーリー面でのツッコミどころや物足りなさを感じるかもしれないが、それらを吹き飛ばしてしまう“映画体験”という意味では極めて高い完成度だろう。
他方で、前作のエッセンスが大好きだった人からすると「やっぱりこの路線で良い!」と思うかもしれないし、前作のストーリーに難色を示した人からすると「映像はすごいんだけどな…」と同じ感想になる可能性が高い。そういった意味で、本作は前作で感じた評価がそのままスライドしてくる部分が大きいと思われる。設定の妙や異文化のコントラストに興奮する人にとっては、さらに海という新たな世界が広がることで満足感を得られるが、物語としての奥深さを求めるなら、「もう少し練れなかったのか」という不満も湧いてくるかもしれない。
また、登場人物の行動理由や心情がストレートすぎて、ある種のご都合感が強い場面も気になる。例えば、クオリッチがあくまでも「個人的な復讐」に執着しているように見えるのに、それを軍全体がどこまで重視しているのか曖昧だったり、ジェイクが「家族を守りたい」という理屈で一度姿を消してしまった割に、さらなる戦いにすぐ巻き込まれてしまったり…。ドラマとしての一本筋は「家族愛と復讐のぶつかり合い」なのだろうが、それにしても3時間超を引っ張るには、説得力の薄いエピソードが多い印象は否めない。
とはいえ、この手の超大作を見るうえでは、細かい論理よりも「壮大な映像がどれだけ堪能できるか」を優先していいのではないか。深いメッセージ性を突き詰める作品というよりは、圧倒的なビジュアルとスケール感で観客を圧倒する作品だと割り切れば、楽しめる部分がぐんと増すだろう。現実にはありえない海洋世界へ足を踏み入れ、そこで巻き起こる冒険と戦いに心を踊らせる。子どもたちのやんちゃな行動にハラハラし、迫力満点の水中バトルに手に汗を握る。どこまでも海の広がりを感じさせる背景に酔いしれる。そういうエンタメ体験をしたい人には、とにかくオススメできる。
最後に、テーマの一つである「家族の絆」について一言。確かにジェイクたちは終始「家族が大事だ」という軸を持っているが、そのための行動が必ずしも賢明には見えず、かえって家族を危険に導いている面がある。しかし、それもまた“人間らしい”不器用さなのかもしれない。ナヴィでありながら元は地球人というジェイクの立場から見ると、この星の価値観に完全には染まり切れない部分もあり、そこを含めての葛藤が描かれている、と好意的に解釈することはできる。真っ直ぐすぎるほどストレートに「家族を守るための犠牲」というシーンが繰り返されるのが少々しつこいが、その結果として起こる悲劇や、その後に芽生える連帯感などは、3時間超の物語における起伏を生んでいる。
本作は「圧倒的な映像世界を観られる快感」と「どこか腑に落ちないストーリー展開」が絶妙に同居した作品だと感じる。視覚面の完成度は高く、映画館の大画面で没入する価値は十分にあるが、凝ったプロットを期待する人にはやや物足りないかもしれない。とはいえ、何はともあれ海の世界をここまで生き生きと表現した点は見事だし、映画としての体験は一級品だ。長尺にもかかわらず、飽きずに最後まで観られたのは、この映像的インパクトがあったからこそだろう。
映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」はこんな人にオススメ!
まず、視覚的なインパクトを重視する人には文句なしに推したい。なにしろ本作は、海を主体とした異世界をこれでもかと見せつけてくれる。それぞれの海洋生物が見せる色彩、動き、そして海底から空へと至るまでの広大なパンドラの自然を大画面で眺めれば、まるで水族館を超えたファンタジー世界に飛び込んだ気分を味わえるだろう。また、息をのむようなアクションやアドベンチャー要素を楽しみたい向きにも適している。ジェイク一家と海の民が手を取り合って繰り広げる水中戦闘シーンは、単なるガンアクションや空中戦とは違った迫力があり、映画館でこそ真価を発揮するはずだ。
一方、家族愛や仲間との絆に心を揺さぶられたい人にも良いかもしれない。ストーリー面で細かく突っ込みを入れればキリがないものの、家族を守ろうと奮闘するジェイクや、その子どもたちの多感な反抗心は観ていて切なさと共感を誘うシーンもある。子どもたちが自分の居場所やアイデンティティを見つけようとする過程は、親子の関係を考えるうえでも意外と示唆に富んでいるのだ。
加えて、モンスター映画的なわちゃわちゃ感や、ド派手な映像演出が好きな人にも手堅く刺さるだろう。異星の巨大生物が暴れ回るだけでなく、人間側の兵器や乗り物もハイテク感がより増しており、旧来のSFアクションファンもニヤリとできるはずだ。とにかく、物理法則の限界を超えた「大画面で映える光景」を求めているならば、何も考えずにチケットを握りしめて観に行く価値があると思う。むしろ、そこに集中しすぎるくらいのほうが楽しめる作品とも言えるだろう。
まとめ
総合すると、本作は壮大な海の世界観を舞台にしたビジュアルの祭典であるといえる。パンドラの海中をゆったり泳ぐシーンから、ド迫力のバトルまで、観客の目を飽きさせない作り込みが目白押しだ。ただ、その映像美に比べると、ストーリー面での説得力や人物の行動原理はやや粗い印象もある。「映像に酔いしれるための3時間」と捉えれば上出来だが、「筋の通ったドラマを堪能したい」という視点で見ると物足りない点は否めない。
それでも、実際の海のような臨場感と異世界の神秘が融合した独創的なビジュアルは、映画館という空間でこそ味わう醍醐味がある。あれこれ考えるよりも、一度体感してみることで初めてわかる魅力があるだろう。長編でありながら、海中のシーンをずっと見ていたいと思わせるほどの没入感を得られる作品だ。