映画「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」公式サイト

映画「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

地方の映画館にひっそりとポスターが貼られた時点では「どんな作品なのか?」と正直まったく見当がつかなかった。しかし、主演が内野聖陽と知って一気に興味が湧いたのだ。真面目な公務員が大金を騙し取る詐欺師集団とタッグを組むなんて、常識的にはあり得ない話である。ただ、そこに“怒り”というエネルギーが加われば、不可能が可能になる展開が生まれそうな気配がしてならない。本作は、いわゆる“正義”と“違法行為”が紙一重で混在する世界を見せつけてくれるところが肝だ。

さらに「カメラを止めるな!」で世間をあっと驚かせた上田慎一郎監督がメガホンを取っているとなれば、破天荒な展開が続々と飛び出してくるのではと期待も高まる。実際、劇場でスクリーンを目の当たりにすると、税務署職員が詐欺師と組んで悪党から10億円を徴収する計画を練り上げる姿は痛快かつ衝撃的。テンポよく繰り広げられる騙し合いの応酬は見ているこちらまで手に汗を握るほどだ。

そんな“怒りの大暴走”が繰り返される一方で、ふとした瞬間に見える人間ドラマも侮れない。主役の内野聖陽をはじめ、岡田将生や川栄李奈ら豪華なキャスト陣が「そんな裏技ありか!」と思うほど多彩な表情を見せてくれるので、最後まで目が離せない。気づけば笑い、そして復讐心をかき立てられつつも、なぜか爽快感が押し寄せてくる。まさに“怒り”を力に変えた人間たちの活躍を、心ゆくまで味わえる作品である。

映画「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」の個人的評価

評価: ★★★★☆

映画「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」の感想・レビュー(ネタバレあり)

何よりもまず目を引くのは、公務員と詐欺師が手を組むという突拍子もない構図だ。ごく普通の感覚ならば、真面目な人間と違法行為を常習とする集団など相容れないはず。だが本作の主人公、税務署勤務の熊沢二郎(内野聖陽)は、その前提をあっさりと覆す。なぜ彼がそこまで突き動かされるのかといえば、やはり“怒り”という強烈な感情が根底にあるからだ。

熊沢はとにかく生真面目で、誰が見ても「善人そのもの」。しかし、人生にはタイミングというものがある。彼の同期が権力に踏みにじられ、さらに自分自身も詐欺師の氷室マコト(岡田将生)に大金を騙し取られたうえ、税務署内での立場まで危うくなる。黙っていれば“庶民”として平穏に生きていけるのに、一度火がついた怒りは消しようがない。こうした人間らしい心の動きが、熊沢を犯罪ギリギリどころか、完全にアウトな世界へ誘うわけだ。

さらに面白いのは、敵対していた詐欺師・氷室が「脱税王から10億円を奪い取り、そのまま納税させる」という奇想天外な計画を熊沢に持ちかける点。いかにもあり得ない話なのだが、そこには熊沢が見過ごせない大きな動機が潜んでいる。誠実な公務員が、愛する人々を守るためにあえて悪の手法を利用する。ここに観客は多分に背徳感を覚えつつも、「そこまでやらなきゃ勝てない敵もいる」という現実を痛感してしまう。

熊沢を取り囲む仲間たちも一筋縄ではいかない連中ばかりだ。岡田将生演じる氷室はもちろんのこと、川栄李奈、森川葵、後藤剛範、上川周作らが揃う詐欺師集団“アングリースクワッド”は、それぞれの得意技を駆使してターゲットを追い詰めていく。彼らの手口はとにかく鮮やかで、何度も「まさか、こんな手段があったのか」と驚かされる。だが、ここまでできるのなら、なぜ法に触れない方法を選ばないのかと思うかもしれない。そこが詐欺師たちの生き方たる所以だ。自分たちの過去や環境を踏まえると、合法路線ではどうにもならない鬱屈がある。彼らはあえてグレーを駆使し、権力をかいくぐる。その行為は罰されるべきものではあるが、不思議と観客は応援したくなるのだ。

もちろん敵サイドも黙ってはいない。脱税王と名高い橘(小澤征悦)は、金と権力を総動員して熊沢や氷室たちの動きを封じ込めようとする。映画前半では橘がどれだけえげつない手を使うかが次々と浮き彫りになるため、彼をどうしても倒したいという熊沢の怒りには説得力がある。どうにもならない巨大な壁に挑むからこそ、詐欺という禁じ手を使わねばならなかった――その図式が作中でしっかり描かれている。

見所は詐欺の手口をひとつひとつ仕掛けていく過程だ。ここで特筆すべきはテンポの良さ。上田監督ならではの演出が光っており、一瞬たりともダレない。ひとつの罠を仕掛け、すぐに次の手を打たないと向こうの勢力に見破られる。味方の一人に裏切り者がいるかもしれないという緊張感もある。そのため、常に気が抜けない状態で物語が転がるのだが、それでも重苦しさよりは疾走感が勝る。この作品が“怒り”をテーマにしていながら、ずっと爽快に走り続ける理由は、キャラクターたちが強い意志と人間臭さで物語を盛り上げているからだろう。

また、熊沢と氷室の“復讐”のモチベーションは全く同じようでいて微妙に違う。氷室は自らの家庭を崩壊させた元凶への報復を狙い、熊沢は正義を踏みにじられた怒りと親友を失った悲しみを晴らすために動く。両者とも立ち上がるきっかけは似ているが、その先に何を求めるかが少しずつ異なるのがおもしろい。氷室は身を焦がすような執念で動くが、熊沢はどこまでやってしまえば“戻れなくなる”のかという葛藤を常に抱えている。そこに「家族がいる男の葛藤」が乗っかってくるため、怒りに身を委ねて良いのかどうかの天秤が、観客にリアルに迫ってくるのだ。

後半にかけては怒りがピークに達した熊沢が、さらに踏み込みそうになる場面もある。怒りは人間の原動力になり得るが、一歩間違えれば暴走し、取り返しのつかない悲劇を生む。まさに紙一重の危うさを感じさせる展開が挟まれており、そこをうまく制御してこそ本当の勝利が得られるのだと、作品全体を通して語っているように思えた。

とはいえ、映画としては暗く沈んだ雰囲気に浸る暇はほぼない。仲間うちのわちゃわちゃしたやり取りや敵側との舌戦によって、心地よい緩急が生まれているからだ。特に熊沢が“富豪を装う”シーンなどは、内野聖陽の巧みな演技が炸裂していて見応え十分。ビリヤードの腕前を誇示する場面では、不器用ながらも懸命に練習を重ねたであろう熊沢の姿が妙に可愛らしく、一方で思わず拍手を送りたくなる気迫も感じられる。

詐欺の大仕掛けが最高潮に達するラストでは、「やられた!」と言いたくなる見事な種明かしが待ち受けている。実のところ、観客も仲間たちから少しだけ騙されている構成になっているので、真相に気づいた瞬間に思わずニヤリとしてしまうだろう。さらに、そこからが終わりではないというのが憎い。劇的なクライマックスを迎えたあとにも、熊沢自身の“本当の意味での決着”が残っており、怒りという感情の扱い方について観る者を考えさせる。日本映画には珍しく“正解はひとつではない”という含蓄ある締め方をしてくるのが味わい深い。

観客の胸に残るのは奇妙なカタルシスだ。悪を制裁するのは正義だが、その手段が法を逸脱しているという矛盾。だが、そこに確かな人間ドラマがあるからこそ、「仕方ない」「むしろここまでやってくれてスッキリした」と思わず納得してしまう。爆発寸前の怒りを駆使しながらも、最後まで人としての誇りを捨てない熊沢の姿に、思わず共感を覚える人も少なくないはずだ。劇場を出るころには不思議と元気が湧いてくる。それは“怒り”という負の感情すらも力に変え、理不尽に立ち向かう物語が魅力的だからに違いない。

結局、本作は単なる詐欺エンターテインメントに留まらない。権力と対峙する弱者の戦い、過去に受けた傷をどう乗り越えるかという問題提起、そして人はどう感情をコントロールするかといった要素がぎゅっと詰まっている。誰しもが抱える“怒り”をどう扱うかで人生が変わるかもしれない。その背中を押してくれる物語として、この映画を体験する価値は十分にあると思う。

こちらの記事もいかがですか?

岡田将生さんの出演映画はこちら

映画「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」はこんな人にオススメ!

まず、復讐ものが好きな人は絶対に楽しめると思う。しかも、ただの暴力沙汰ではなく“頭脳戦”を伴う爽快な詐欺劇がメインだから、頭をひねる展開が好きな人にもピッタリだ。さらに、キャラクター同士の掛け合いや意外な人間模様が絶妙に絡むため、単なる騙し合いだけでは物足りない人にも刺さるはず。特に「社会の理不尽に立ち向かう作品が見たい」「スカッとする話が欲しい」と考えているなら間違いなくオススメだ。

また、公務員と犯罪者の組み合わせという奇抜な構図は、普通の道徳観だけで割り切れない世界観を求める人にはたまらないはず。正義を重んじながらも犯罪に手を染めざるを得ない葛藤や、その先にある人間ドラマを味わいたい人ならば心が揺さぶられるだろう。さらに、キャスト陣の演技力にも注目したい。内野聖陽は実直な公務員をコミカルかつ深みのある形で体現し、岡田将生は飄々とした詐欺師を魅惑的に演じる。演技派が揃う群像劇的な面白さを求めている人にとっても、この映画は十分に見る価値があると断言できる。とにかく、理屈抜きでスカッとしたい人や、思い切った逆転劇を堪能したい人は必見だ。

まとめ

本作の最大のポイントは、何と言っても“怒り”が真面目な公務員を突き動かす原動力となっているところだ。

冷静に考えれば犯罪行為だし、到底褒められたものではないのだが、見ているうちに「そこまでしないと太刀打ちできない相手がいるんだ」と納得させられてしまう。一見相容れない公務員と詐欺師がタッグを組む展開は破天荒だが、その裏側にはしっかりとした動機と人間らしさが見え隠れして、なぜか応援したくなる。現実社会のどこかに潜む理不尽へ、常識の枠を超えた方法で立ち向かう姿が痛快だ。

スクリーンを見終わる頃には、不条理を真正面からぶっ飛ばしたいという気持ちが湧き上がる。怒りを抱えた人々にとって、この映画は一種の救いとなるだろう。