映画「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」公式サイト

映画「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

新宿の街を駆け回る冴羽リョウと香のコンビが戻ってきたと聞けば、往年のファンなら胸の高まりは避けられないだろう。実際に劇場へ足を運ぶと、序盤からお馴染みのドタバタ展開が遠慮なく炸裂しており、“ああ、これこそシティーハンターだ”としみじみ味わえる空気が充満している。ただし今回は「エンジェルダスト」というキーワードならぬ薬物設定が関わるせいか、いつにも増して深刻な一面を覗かせてくる点が印象的であった。軽妙さとシリアスさが入り混じるその独特のバランス感は、観る人によって評価が分かれそうだが、そこもシリーズの魅力の一部だと考えている。

本作では、シリーズの過去作でもお馴染みのキャラが顔をそろえる一方、ゲストヒロインにあたるアンジーが強い存在感を放っている。冴羽リョウとの因縁めいた関わりが徐々に明かされる展開はスリリングで、良くも悪くも“シティーハンターらしさ”を際立たせている印象だ。果たして本作が、従来ファンのみならず新規の観客にも通用する一本になっているのか。ここからは筆者なりの見解を交えつつ、辛口ながらも愛を込めて本作を振り返ってみる。

映画「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」の個人的評価

評価: ★★☆☆☆

映画「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからは、おおむね上記評価に相当する理由を存分に述べたい。あくまでも個人の感想でありつつ、30年以上続くシリーズを愛してきた者として、なるべく公平に書くよう心がける。なお以下には結末を含む重大なネタバレが登場するため、未見の方は注意してほしい。

まず、冒頭から新宿の街を華やかに疾走するオープニングには、往年のファンならグッと来るはずだ。特に冴羽リョウと海坊主がそろって派手なアクションを見せる展開は、大画面にふさわしい迫力があった。また、キャッツアイの三姉妹やルパン三世とのちょっとしたクロスオーバー要素に驚かされた観客も多いだろう。まさにお祭り感満載の導入であり、“なんでもアリ”のサービス精神が感じられる点は、最初こそ大いに盛り上がる。

しかし、一方で物語が本格的に動き出すと「エンジェルダスト」という設定の重みが表に出てくる。本編では、エンジェルダストが人体を強化しながら精神をむしばむという深刻なリスクを秘めているため、どうしても笑って観ていられないシーンが続出する。これまでのシリーズにもシリアスな部分はあったが、本作ではゲストヒロインのアンジーが悲劇的な役目を背負わされた分だけ、観客の受け止め方に大きな差が生まれるかもしれない。

アンジーは動画制作者を名乗って冴羽リョウたちへ猫探しを依頼するが、当然その裏では「海原神」という人物への執着が隠されている。原作を知っているファンなら、冴羽リョウにとって海原神がどれほど因縁深い相手かは周知の事実だろう。とはいえ本作は、その関係性をすべて語り尽くすわけではなく、むしろ次への布石のように見える。アンジーが「父親」と慕う海原神が、冴羽リョウを“最高傑作”と呼んでいる背景は、原作やアニメを経てきた人にはもちろん伝わるが、今作単独で観ると説明不足に感じる観客もいるかもしれない。

実際、アンジーの動機が幾分あやふやに映るという感想も多い。彼女はエンジェルダストの脅威を葬り去るために動いているようでいて、“パパ”である海原神の目を奪いたいがために冴羽リョウへ挑む。その情念のせめぎ合いは劇中でしっかり描かれているものの、本人が背負う悲壮感や、海原神への執着がどこまで人間離れしたものなのかが、やや唐突に感じられた。

中盤までの展開は、アンジーと冴羽リョウが互いを警戒しつつも一時的に共闘するような雰囲気があり、そこに香や海坊主、美樹、さらには冴子まで絡んで一気に賑やかになる。ただし、コミカルなシーンでは相変わらず冴羽リョウが女性を見るや否や“もっこり”連発をやらかすという“お約束”の描写が盛り込まれており、これも今のご時世に受け入れられるかどうか意見が分かれそうだ。かつての“シティーハンター”らしさを堅持するための演出だと解釈すれば良いが、やや度が過ぎると感じる人もいるだろう。

そして後半、エンジェルダストをめぐる絶望的な物語へと急転する展開が、本作の評価を二分しているように思われる。アンジーが海原神に薬を撃たれてしまい、自我の崩壊と暴走を繰り返すシーンは、見ていて正直きついほど重い。強化された肉体が繰り出す破壊力は迫力十分だが、同時に彼女の悲痛な表情が観客を苦しくさせる。冴羽リョウが致命傷を避けながら応戦し、“女性には手を下さない”という彼の不文律をどこまで守るのかというジレンマが煽られたまま、やがてアンジーがもはや後戻りできない地点まで追い詰められるに至っては、“ここまで踏み込むか”と息を呑んだ。

最終的に、香が「助けてあげて」という形で、アンジーを“楽にしてやる”よう冴羽リョウに懇願し、悲壮な決着を迎える場面は衝撃的だ。いつものリョウなら絶対に選ばない方法だが、エンジェルダストで限界を超えて苦しむアンジーを解放するには、それしか選択肢がないと提示される。それゆえ劇場内にはショックを受ける空気が流れ、感情移入した人にとっては相当な精神的ダメージを与える結末となる。

さらに、この大きな事件を経たにもかかわらず、海原神との対立は決定的な場面で幕を下ろさない。結局、アンジーの墓前で姿を現した海原神は何事かを語りかけそうな雰囲気を醸しつつ、まだ“次がある”ことを暗示して退場する。それを追う冴羽リョウも、今作では決着をつけずじまい。つまり本作はシリーズ“最終章”の序盤としての役割に徹したまま、観客を続編へ誘う形になっているように見える。

この構成に賛否があるのは当然である。一本の映画として完結しきれないストーリーは、どうしても不完全燃焼感を覚えやすい。一方で、長年のファンからすれば“続きがあるなら早く観たい”という期待も膨らむだろう。劇場版の最新作としてはコンセプト自体が挑戦的で、次のクライマックスにすべてを持ち越す意図があるのかもしれないが、それは公開のスパンや新作への体力次第でも評価が変わりそうだ。

声優陣については、初代キャストが再結集したことで懐かしさを感じると同時に、長年を経ての演技プランや声音の変化がどうしても目立つ部分もある。特に女性陣は年齢による艶感の変化が顕著で、そこに一抹の寂しさを抱くファンもいるかもしれない。ただ、往年の雰囲気をそのまま再現したい人にとっては、このメンバーこそが正統と映るはずだ。多少声に年齢を感じるシーンがあっても、その味わいを“キャリア”として肯定的に受け止めるかどうかは、観る側の価値観次第だろう。

音楽に関しては、エンディングの「Get Wild」で強烈に盛り上げる手法はいつもながら強力だ。結局この曲が流れれば、何だかんだでカッコいい気分にさせられるという魔法がある。一方、前作『新宿プライベート・アイズ』のように“懐かしの主題歌オンパレード”を期待していた層にとっては、肩透かし感も否めないかもしれない。今作はテーマに合わせて、新曲やオリジナル色を少し強めた印象があり、“昔のまま”を求めるか“新しいシティーハンター”を楽しむかで意見が割れそうだ。

前作のような一発完結の娯楽大作としてはやや中途半端に感じられるが、キャラクターの過去や因縁をより突っ込んで描こうという試みは見応えがあった。もしも続きが公開されて、海原神との決着や冴羽リョウの本当の覚悟が描かれるのだとしたら、本作の真価はその時に改めて評価されるかもしれない。とはいえ今の段階では、「予告編」というには長いし、「大団円」というにはあまりにやるせないエンドであることも事実だ。

終盤の衝撃をどのように受け止めるかで、本作への評価は大きく変わるだろう。シリーズらしいコミカル描写を残しつつ、これまで以上に重く暗い影を落とした結末を想定していなかった人ほど、不意打ちを食らってモヤモヤを抱える可能性が高い。逆に、原作のハードボイルド要素に近づいた重厚な展開を歓迎する人もいるはずだ。とにかく今は、スタッフが用意している最終決戦の幕が上がるのを期待しながら、もうしばらく待つしかないというのが偽らざる感想である。

ちなみに、いろいろ突っ込みたい箇所や腑に落ちない描写も多々あるが、本作が一本の大作エンターテインメントであり続けていることは間違いない。スクリーンいっぱいに広がる新宿の街やド派手なアクション、そして懐かしの登場人物たちが編み上げるにぎやかな空気感。そうした“お祭り”的な魅力と、ダークで死線ギリギリのドラマ性が混在する作風は、まさにシティーハンターが持つ多面的な個性を体現しているとも言える。

今後、続篇で冴羽リョウと海原神が本当の意味で決着をつけ、香との関係にも新たな進展があるなら、これまでの伏線が一気に花開くはずだ。次こそはスパッと締めて、長年つづくシリーズにふさわしい大団円を見せてほしい。そう願いながら劇場を後にしたファンは多いだろう。総じて、かつての“笑いと熱さ”だけでなく、“重さと切なさ”も背負い込んだ作品であると感じた。評価が分かれやすいのも無理はないが、だからこそ一度観て、自分の目で判断する価値はあると思う。

映画「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」はこんな人にオススメ!

まず、シリーズを追ってきた熱心なファンには文句なく勧めたい。懐かしのキャラやお馴染みの演出を大スクリーンで堪能できるし、過去作とのつながりが散りばめられているので発見や考察のしがいがあるだろう。ただし、全盛期のライトなノリを求めすぎると、今回はかなり重いストーリーであることに面食らうかもしれない。そこを踏まえたうえで、新しい切り口の“シティーハンター”も受け入れられる人なら十分楽しめるはずだ。

次に、ハードボイルド要素を好む人にもオススメできる。本作は冴羽リョウの過去、そして彼の育ての親である海原神との血塗られた因縁を掘り下げる流れがあるため、軽妙なコメディだけではなく、ダークでシリアスな側面を見せる場面が多い。悲劇的な結末がある程度許容できる人、あるいは複雑な人間関係をじっくり味わいたい人にも向いている。

また、往年のアニメファンでありながら最近の作品にも興味を持つ方には、一種の“懐かしさ”と“新鮮さ”が同居する作品として面白く映るだろう。キャッツアイをはじめとしたコラボ的な要素、キャストの継続起用による独特の雰囲気などが混ざり合い、昔のアニメの続きを観るような感慨深さがある。そこへ加えて、現代的な作画や劇場版ならではの迫力ある映像演出が融合しているため、一粒で何度もおいしいという感覚を楽しめるはずだ。

逆に言えば、ライトなギャグやお色気要素だけを目当てにしている人、一本完結のスカッとしたアクション映画を求めている人にはやや不向きかもしれない。結末が完全には解決しないまま終わるため、続篇がいつになるのか気になりつつ映画館を出ることになりそうだ。その点を受け止められるかどうかで満足度は変わるが、物語を追う醍醐味を重視する人なら十分に価値がある一本だと思う。

まとめ

以上のように、「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」はシリーズが積み重ねてきた要素を再確認させる一方、ダークかつ重厚な方向へ振り切った物語構成が特徴的である。冴羽リョウと香の活躍を期待して観に行くと、序盤の懐かしいやり取りに笑みがこぼれるかもしれないが、後半で一気にシリアスへ突き落とされて衝撃を受けるかもしれない。

とはいえ、本編で回収しきれなかった伏線が明らかに次を予感させる展開になっているため、シリーズとしての終着点を大画面で見届けたいファンは、続報を待つしかないのが現状だ。お祭り要素と暗黒要素が混在する独特の仕上がりを、どう判断するかは人それぞれだろう。好き嫌いが分かれそうではあるが、だからこそ話題にしがいがある作品と言えるのではないだろうか。