映画「アナログ」公式サイト

映画「アナログ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は、人気俳優・二宮和也が主演を務める恋愛ドラマである。正直、タイトルを聞いたときは「いまどき“アナログ”ってどういうこと?」と思ったのだが、鑑賞してみれば意外や意外、最新技術に囲まれた現代だからこそ逆に響くものがあると感じた。

とはいえ、一筋縄ではいかない要素も多く、頭を抱えたり「ちょっと待て!」とツッコミを入れたくなるところも満載だ。観終わってみると、いい意味でも悪い意味でも古き良き日本映画の雰囲気が漂う。涙と笑いのバランスは不思議と絶妙で、あえてデジタルに頼らない人間模様が見どころである。携帯電話を持たないヒロインの存在が、いまどき本当にあり得るのかと思う反面、「いや、こういう自由奔放な人がいても面白いかも…」と感じさせる妙な説得力がある。

観客は、主人公とヒロインのすれ違いやすれ違いからの一歩前進に、怒涛の突っ込みを入れつつも最後には「それもアリかもしれない」と受け入れてしまうかもしれない。ざっくり言えば、どこか昭和のような人情ドラマのエッセンスがありつつ、令和の感性を混ぜ合わせた新感覚ラブストーリーだ。

ひと味違う恋愛映画を求めているなら、この作品は一見の価値ありである。そんなわけで、以下からは本作のアツいポイントや「あちゃー」と思うポイントをすべて暴露していくので、まだ未視聴の方はそのまま突き進むか、一度立ち止まってから読むか、ご自身の判断に任せたい。

映画「アナログ」の個人的評価

評価:★★★★☆

映画「アナログ」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからはかなり踏み込んだ内容になるので、未視聴の方には遠慮なくネタバレをお見舞いする。だが、知ってしまったからといって楽しさが激減するわけでもないのが本作の妙である。なにしろストーリー展開もキャラクターの言動も、ある意味“王道”でありながら意外性のある要素が詰まっているからだ。

まず、主人公の水島悟(演:二宮和也)はデザイナーとして働いている。作品序盤からして「大手企業に勤めているのに妙に控えめ」「模型を丁寧に作る」という地味なこだわりが印象的である。さらに、同僚の手柄を上司が横取りしている場面も描かれ、「そこ怒らなくていいのか?」と観客がもどかしくなるようなシチュエーションだ。だが、悟という男は文句を言うより自分が納得できるデザインをコツコツ作り上げるタイプであり、気合いの入れどころが絶妙にズレている。このズレ加減が、後々ヒロインとの関係性を面白くしていくのだ。

一方、謎めいたヒロイン・美春みゆき(演:波瑠)は携帯電話を持っていない。このご時世、携帯を持たない人を見かける機会はかなり少ない。にもかかわらず、彼女はそんなスタイルを自然体で貫いており、悟との連絡手段は「毎週木曜日、喫茶店で会う」という驚きのアナログ手段に頼っている。正直、これには「いやいや、非常識では?」とツッコミたくなるが、本作ではこれをロマンチックかつ大真面目な展開として描いている。強引と言えば強引だが、いざ見ているとそれなりに説得力が出てくるから不思議だ。

週に一度だけ会う二人は、恋人らしい連絡の取り合いもせずに、時間をかけて距離を縮めていく。最初は「なぜ彼女は携帯を持たないのか」など、観客目線からも疑問が絶えない。だが、彼女が故意に秘密めいた行動をしているようにも見えず、ただ自然にアナログを選んでいるようなのだ。その一方で、彼女はコンサート会場で涙を流すなど、過去に何か大きな出来事があった気配を漂わせる。その“意味深”な雰囲気こそが本作最大のミステリーであり、観客を最後まで引っ張っていく原動力になっている。

さて、物語が中盤に差し掛かると、悟の母が入院しており、さらに母親は「早く結婚しろ」と悟にプレッシャーをかけてくる。親世代によるプレッシャーは恋愛映画のお決まりといっていいが、本作でもしっかり盛り込まれている。ここまでは「恋愛映画あるある」の展開なのだが、問題はここからだ。悟が彼女との関係を深めようと決意しかけた途端、みゆきが突如姿を消す。そもそも携帯電話を持たない以上、連絡も取れないし手掛かりがほぼゼロ。悟は何が起きたのか分からず、「もしかして自分が重たくなったのか」とネガティブに考えはじめ、木曜日の喫茶店通いをやめてしまう。

ここで物語は一気に1年半後へと飛ぶ。雑に言ってしまうと「え、そんなに飛んでいいの?」というほど大胆な時空移動である。だが、実はこの時間経過こそが肝だ。悟は大阪に転勤になり、友人2人(桐谷健太や浜野謙太が演じるキャラ)が訪ねてくるのだが、彼らから衝撃的なみゆきの過去を知らされる。どうやら彼女は“天才バイオリニスト”という別の顔を持ち、しかもかつて海外で結婚していたことがあるという。おまけに、そのピアニスト夫は急逝していた…と、切なさ満点のエピソードが次々と浮上する。

そしてダメ押しのように登場するのが「実はみゆきは交通事故で瀕死の重傷を負い、今は意思疎通が困難な状態」という情報だ。「プロポーズしようと思った木曜日に事故に遭った」と聞かされる悟のショックは計り知れない。ここまで来ると、観客としては「え、その急展開いる?」と多少思うかもしれないが、本作はあくまで“ピュアな愛が奇跡を起こすかもしれない”という方向で突っ走る。もはや現実的かどうかを考えるのはナンセンスと割り切ったほうが楽しめる。

事故後のみゆきは脳障害と下半身麻痺を抱え、病室で反応もままならない状態だ。それでも悟は彼女のそばにいたいと願い、仕事を辞めてまで介護に必要な知識を学びはじめる。友人や姉といった周囲の人々も最初は「無理するな」と反対するが、悟の一途さが徐々に説得力を帯びていき、「じゃあ好きにすれば」と道を開いてくれる展開になる。

物語の後半は、正直いえば一種の看護ドラマの様相を呈する。悟は彼女を散歩に連れ出すが、みゆきはまったく言葉を発せず、視線を合わせることすらしない。にもかかわらず、悟は「木曜日」というかつての約束を復活させようとし、毎週欠かさず病室を訪れ、車イスを押して海辺まで出かける。その光景だけでも相当ドラマチックだが、あくまで“アナログな関係”を貫こうとする姿勢が本作の核なのだ。

終盤、悟は教会らしき場所で「結婚してくれませんか」と語りかけるが、みゆきは反応しない。観客としては「これはもう無理なのでは…」と落胆しそうになる。だが、さらに1年が経過したある日、ついにみゆきが車イスの手すりにふと触れ、「今日、木曜」とかすれた声を発するシーンが描かれる。これが本作最大のクライマックス。悟が「今日からずっと木曜日ですね」と優しく微笑み返し、みゆきも微笑む。そのまま二人は海を去っていくのだ。結末としては「大復活でハッピーエンド!」というよりも、「わずかな光明が見え始めた二人の未来」を示唆するしっとりした幕引きである。これを中途半端だと思うか、あるいは美しいと感じるかは観る人次第だが、個人的には“あえて全部をはっきり描かない”手法に悪くない余韻を感じた。

この映画を振り返ると、前半はほのぼのとした出会いと昭和的なアナログ交流、後半は悲劇と献身のドラマという二部構成になっている。正直、もう少し二人の恋が深まる描写や、事故に至る伏線を丁寧に見せてほしかったとも思う。特に携帯を持たない理由については「なるほど」と思わせるような明確な説明はなく、最後まで「彼女の性格だから仕方ない」で済ませられている印象だ。だが、そこを強引に盛り込むよりは、ふんわりした神秘性のほうが作品に合っていたのかもしれない。

また、二宮和也の演技は安定感があり、周囲のキャストとの相性も良好だ。特に桐谷健太が演じる友人はパワフルかつ親しみやすさがあり、重くなりすぎそうな映画全体をどこか軽妙にしてくれている。波瑠はクールビューティー的な役どころが多いイメージだが、本作ではミステリアスかつ儚げな女性像をじつに自然に演じていた。事故後のシーンでは表情だけの芝居が中心になるが、そこにも説得力が感じられる。

総合的に見れば、心をえぐるような大きな衝撃がある作品ではない。むしろ、じんわりと染み込むような切なさと、どこかノスタルジックな優しさが漂う。昭和や平成の初期によくあった純愛ドラマのDNAを継承しつつ、令和の視点で“人と人がどう向き合うか”を問いかけているようにも思える。デジタル全盛期に「アナログなつながり」をあえて選び、それが行き過ぎた運命のいたずらに巻き込まれてもなお続いていく――。この一途さこそが、現代社会へのメッセージなのかもしれない。

ちなみに、純愛映画にありがちな「盛り上がりのポイントを逃さず泣かせる演出」もきちんと押さえているので、ハンカチの準備が必要な場面もあるだろう。だが、泣きっぱなしというほど悲壮感が重くはなく、終わったあとは「ああ、こんな恋もあるのかもな」と静かな肯定感に包まれる。エンドロールで余韻を味わっていると、背中をぽんと叩かれたような穏やかな気持ちになるのが本作の良さだ。

以上を踏まえると、この映画は決して派手な映像やどぎつい展開で勝負するタイプの作品ではない。むしろ、昔ながらの恋愛ドラマや、人間関係の細やかなやりとりを好む人向けといえるだろう。何より、携帯やSNSに頼らない“顔を合わせる”行為の価値を改めて感じさせてくれる点がユニークである。「面倒くさいかもしれないけど、人と人が会うことは特別」というメッセージを、優しい物語でそっと伝えているように思えてならない。

映画「アナログ」はこんな人にオススメ!

本作は、いわゆるキラキラした恋愛ものを期待する人というより、「恋愛にちょっと疲れ気味だけど、もう一度純粋に誰かを想う気持ちを思い出したい」という人におすすめである。SNSやチャットで即時に連絡が取れる世の中であえて“週に一回だけ会う”というスタイルは、どこか不便ながらも心が弾む部分がある。メッセージを既読するかしないか、スタンプで気持ちを表現するかしないか、そんなデジタルの小さな駆け引きに疲れた人には新鮮に映るだろう。また、派手な恋の修羅場やドロドロした展開ではなく、ゆっくりと進んでいく人間ドラマを好む人にもピッタリだ。

さらに、映画後半で描かれる献身の物語や、過去を背負いながらそれでも前に進もうとする強さに共感できる人にも向いている。大きな夢を挫折し、それでも誰かに寄り添って生きたい――そんな思いを持つキャラクターたちの姿には、忙しい日常を生きる自分自身を照らし合わせる機会があるかもしれない。笑ったり泣いたりしながら、結局は「人の気持ちに寄り添う大切さ」を再確認したい人には、この映画のストーリーがじわじわと胸にしみるはずである。

要するに、一攫千金の大冒険を求める人や、ド派手なアクションを見たい人には厳しいだろう。しかし、静かな海辺のように心を落ち着かせつつ、ふとした瞬間に押し寄せる感動の波を楽しみたい人にはもってこいの作品だ。日々の生活に疲れたとき、自分と向き合うきっかけにしたいとき、あるいは“かつての恋”を思い出して浸りたいときにも、いい刺激を与えてくれるに違いない。観終わったあと、もしかすると携帯電話の電源をオフにして誰かと直接会う約束でもしたくなるかもしれない。

まとめ

全体を通して見ると、映画「アナログ」は懐かしさと新鮮さを同時に味わわせてくれる作品である。昭和のラブストーリーを思い出させるような、不便だけれども心温まるコミュニケーションが中心にある。その一方で、ヒロインの抱えるシリアスな事情や、まさかの事故展開など、現代的な要素も盛りだくさんだ。「こんなの現実ではありえない!」と突っ込みたくなる部分も多いが、そこはむしろフィクションならではの魅力と思って楽しんだほうが幸せになれるだろう。

クライマックスで奇跡のような出来事が起こるのか、それとも地味に終わっていくのか、そのさじ加減が作品の味わいを左右している。結果として、本作は大団円というより「希望が芽生えた」という終わり方をしており、その余韻が印象に残る。観賞後には「あれ、意外に感動したかも」としんみりする人も多いのではないか。恋愛映画に飽きた人にも一度試してみてほしい。身近に感じる普段の生活が、実は大切な時間なのだと気づかされるはずだ。アナログの良さに気づいたとき、スマートフォンの通知音がいつもより少しだけ遠くに聞こえるかもしれない。