映画「愛なのに」公式サイト

映画「愛なのに」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は瀬戸康史が主人公の古本屋店主を演じ、突然押し寄せる恋の嵐に振り回される様子が痛快な作品である。R-15指定ということで刺激的なシーンもあるが、そこに偏りすぎることなく、恋愛の切なさや人間模様をうまく盛り込んでいる点が印象的だ。恋とは何か、愛とは何か……その複雑さをまざまざと突きつけながら、場面ごとに軽妙なやりとりが散りばめられていて気軽に楽しめるのがうれしい。しかも、男女それぞれの気持ちの移り変わりや、人生経験の差からくるズレなど、誰もが「あるある」と思えるような瞬間が丁寧に描かれている。

観終わった後には「こんな恋愛もアリかもしれない」「いや、これはナシだろう」と賛否がくっきり分かれそうなのもおもしろいところ。とはいえ、単なるドタバタでは終わらず、登場人物それぞれの“決断”がしっかりと描かれているのが魅力だ。大人の恋、若い恋、重たい恋、軽やかな恋……すべてがぐちゃぐちゃに絡み合いながらも、観る者を不思議と前向きな気持ちにしてくれる一本である。

映画「愛なのに」の個人的評価

評価: ★★★★☆

映画「愛なのに」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからは約五千字ほど語っていくので、まだ観ていない人は注意が必要だ。もっとも、結末を知っていてもなお楽しめる要素がある作品なので、そう神経質になる必要はないかもしれない。とにかく言えるのは、かなり個性的な人物たちが入り乱れる恋模様であるということだ。

まず主人公は瀬戸康史演じる多田浩司。30歳の古本屋店主で、静かに過去を引きずっている男だ。店内には数えきれないほどの本が並び、彼自身も本に囲まれて過ごすことを好む。しかし、読んでいる最中でもちょっとしたことで集中力が途切れてしまい、しょっちゅう栞を挟んで読書をやめてしまう。いかにも優柔不断そうに見えるが、実際に劇中でも「決められない男」っぷりを存分に発揮していくわけだ。

そんな多田の元に現れるのが、河合優実演じる女子高生の岬である。いきなり結婚を申し込んできたかと思えば、ある時は手紙をバラまき、またある時は古本屋に居座るなど、とにかく奔放だ。しかも若さ故の勢いがあり、一方的に突っ込んでくるから多田としてはひたすらたじろぐしかない。だが、ただ突拍子もないだけではなく、岬の言動にはどこか真っすぐさが感じられる。多田の気持ちを省みないわけではなく、自分の思いを遠慮なくぶつけてしまうだけなのだ。そこに幼さがあるのは否定できないが、かといって邪気ばかりのわがまま娘というわけでもない。その微妙なバランスが彼女を魅力的に見せている。

本作で興味深いのは、恋愛のかたちを複数同時に描き出すところだ。多田と岬の不思議な関係がある一方で、さとうほなみ演じる一花と中島歩演じる亮介の間には、また違った問題が渦巻いている。こちらは婚約しているにもかかわらず、亮介がウェディングプランナーの美樹(向里祐香)と浮気関係に陥っているという始末だ。それを知った一花が追い詰められていく過程は表面こそシリアスだが、途中から妙な方向に転がっていくのが可笑しい。浮気された悔しさを晴らすため、思い切って自分も浮気を決行しようというわけだが、その相手候補に多田が抜擢されるあたりがまた無茶苦茶である。

多田の視点からすれば、岬の強烈なアプローチも厄介だし、一花の行動も困惑ものだ。しかも一花はかつて多田が想いを寄せていた相手であり、未練たっぷり。そんな彼女とまさかの展開に突入してしまい、どうにも身動きが取れなくなっていく。こう書くと多田がいかにも“おいしいポジション”を独占しているように思うかもしれない。しかし、実際は常に翻弄されっぱなしで、観る側としては「ああ、こんな幸せそうな状況でも本人は苦労ばかりなのか」と意外と同情したくなってくる。簡単に言えば、一見ハーレム状態に見えて実はほとんどメリットがない。むしろ泥沼に片足どころか両足を突っ込んでしまう状況である。

特に印象に残るのは後半に訪れる大きな転機だ。ある人物の登場によって、もやもや曖昧に流れていた状況がガラリと変わる。とはいえ、傍から見れば「いや、そりゃそうなるでしょ」と感じるかもしれない。それくらい、30歳と高校生の関係性はまわりの理解を得にくいものだし、事実だけを切り取れば相当ヤバい話でもある。ただ、本作の序盤から中盤までの流れを知っていると、そこにあるのは純粋な想いの行き違いであって、安易な背徳感だけでは片づけられないというのがポイントだ。だからこそ、世間の常識を振りかざす“ある人物”の攻撃が余計に厄介に映る。多田は口下手だし説明が下手くそなので、結局事態をこじらせる。だが、それこそが本作の山場だとも言えるだろう。

また、一花と亮介の関係も気になるところだ。浮気がバレてからのやりとりは、どちらかといえば悲壮感が漂いそうな題材なのに、実際は妙な笑いを誘うやり方で描かれるのが面白い。ウェディングプランナーとの浮気が発覚する時点で衝撃的なはずが、いつしか話題が「そこに愛はあるのか、ないのか?」という方向にズレていく。亮介は嘘をつくのがうまいのか下手なのかよくわからない男で、やたらに屁理屈をこね回したかと思えば急に開き直る。そんな姿を見ていると、「結婚っていったい何なんだ?」と突き詰めたくなると同時に、「まあ、こういう人間も実際いるよな」と思わず納得してしまうのだ。

さらにもう一つ強調したいのは、本作の緩急のつけ方だ。笑えるシーンがしっかりある一方で、それぞれの登場人物が抱える切ない部分にも光が当てられる。多田のトラウマや後悔、一花の自尊感情、岬の家庭環境など、それぞれが内側に抱えた問題があぶり出される場面では、思わず胸が痛む。そこに妙なリアリティが感じられるからこそ、いっそう惹きつけられるのだ。監督が城定秀夫、脚本を今泉力哉が手がけているだけあって、コメディ的なテンポと繊細な人間描写が絶妙に噛み合っている。

そして、R-15指定にふさわしく官能的な描写も多い。だが、それも無軌道なエロに走っているわけではなく、誰かの欲望や傷ついた心情が透けて見えるように工夫されている。結果的に「大人の恋のリアル」みたいな要素が強調されており、単なるイチャイチャ以上のドラマ性を帯びている点は注目すべきだろう。これらすべての要素が有機的に絡み合い、観終わったあとはなんとも言えない開放感と切なさに襲われる。良い意味で後を引く作品である。

結局、多田と岬はどうなるのか。一花と亮介は結婚するのか否か。そのあたりの結末は、劇中で確認してもらうしかないが、答えが出たようで出ていない、不思議な余韻が残るのは確かだ。そして、その曖昧さこそが本作の真髄でもあると思う。「人生に正解はない」とばかりに、最後まで答えを見せずに突っ走る。すっきりさせることなく幕を下ろすあたり、単なる恋愛エンターテインメントとは一味違った味わいを持っている。

だが重苦しく終わるわけでもない。むしろ「人間なんてそんなもの。時には変な方向に転がることだってあるさ」と言わんばかりの大らかさが感じられる。そこがこの映画の魅力だし、一歩間違えば嫌悪感を招きそうなテーマをさらりと観やすくしている理由でもある。
総じて、恋愛映画にありがちな予定調和を求める人には少々刺激が強いかもしれないが、見終わったあと妙に気分が晴れるような不思議な魅力がある。ストレートな純愛を描きつつも、ままならない現実の生々しさを否定しない。だからこそ引き込まれ、つい「自分ならどうするだろう?」と考えてしまう。いろんな角度から観ることができる作品なので、観終わったあとの会話も盛り上がるに違いない。

これだけ書いても語りつくせない部分が多いのが「愛なのに」の面白いところだ。シリアスな背景を持ちつつも軽快な笑いが絶えず、かといって登場人物をコケにするだけにはとどまらない。誰しもが抱える「恋の難しさ」に一石を投じる刺激的な一本なので、多くの人に観てほしいと心から思う。

映画「愛なのに」はこんな人にオススメ!

ここからは八百字ほどで、本作をどんな人に薦めたいかを書いていこう。まず、いわゆる王道のラブストーリーだけでは物足りない人には断然おすすめである。浮気や年の差といった複雑なテーマを掘り下げながらも、終始軽快なやりとりが展開されるので、恋愛映画が苦手な人でもわりとスッと入り込めるはずだ。

また、「恋愛に正論だけで立ち向かえない」という経験をしてきた人にはグッとくるだろう。頭では理解していても、どうしても気持ちが暴走してしまう……そんなリアリティを本作は巧みに描き出している。いわば“道徳”だけでは割り切れない恋の面倒くささと、それに付随する苦しみや葛藤をコミカルにすくい上げているのだ。だから、過去の恋愛で失敗した記憶のある人や、いま恋愛中で何かしら悩みを抱えている人は、どこかしら自分を重ねてしまうかもしれない。

さらに、刺激と笑いの両方を求める映画ファンにも向いている。R-15指定だけに体当たりな描写はあるが、それがただの大人向け演出にとどまらない点が魅力だ。人生の酸いも甘いも詰まった騒動を、ある意味潔く表現しているからこそ深みが生まれていると思う。気づけば「愛って本当にやっかいだけど、放り出せないものだなあ」としみじみ感じてしまうのではないだろうか。恋愛映画に限らず、多角的に人間模様を眺めるのが好きな人なら、きっと楽しめるはずである。

まとめ

全体として、「愛なのに」は恋愛映画の王道からやや外れながらも、観る者の心をしっかり掴む力を持った作品だと感じる。登場人物の言動は時に突拍子もなく、トラブル続きで振り回されがち。それでも最後には「人間なんてこんなものだよな」と笑ってしまう不思議な説得力がある。

瀬戸康史や河合優実らの熱演によって、ただの荒唐無稽な話で終わらないリアリティが生まれているのもポイントだ。観客が「ああ、こういう奴いそうだな」と思える人物ばかりだから、あれこれ感情移入したりツッコミを入れたくなったりで忙しくなる。

間違いなく、鑑賞後には誰かと語り合いたくなる一作といえるだろう。恋愛における矛盾や欲望、そして時に滑稽に見える人間ドラマをここまで巧みにまとめた作品はそう多くない。刺激的なのにどこか清々しい。そんな絶妙な味わいをぜひ劇場や配信で堪能してほしいと思う。