翔んで埼玉2

映画「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」公式サイト

映画「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

2019年に公開され、社会現象を巻き起こした前作「翔んで埼玉」の続編として登場した本作は、前作の埼玉VS東京の構図をさらに拡大し、関西をも舞台に巻き込んだ“壮大な茶番劇”として話題を呼んでいる。主演のGACKT、二階堂ふみのW主演に加え、杏や片岡愛之助、藤原紀香といった豪華キャスト陣が続々と登場する点も見逃せない。

本作では、埼玉の海を作ろうとする大胆な計画を掲げた麻実麗が、和歌山に漂着して滋賀解放戦線の桔梗魁と出会うことで関西各地の地域ディスや通行手形制度に巻き込まれていく。前作と同様に、コメディ要素たっぷりの“悪ノリ”満載でありながら、地域差別や郷土愛といった社会問題を風刺し、笑いを通して多様性やローカルの魅力を再発見させてくれる作品である。

今回のレビューでは、作品のあらすじに深入りしつつ、演出やキャストの魅力、そして前作からの進化を感じられるポイントを激辛な視点で掘り下げていきたい。関西圏を大きくクローズアップしたことで、前作を超えるかどうかが焦点になっているが、果たしてその出来栄えはいかに。

映画「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作は、埼玉を取り巻く“ディスの嵐”をさらに拡張し、関西一円を巻き込んだ地域ネタを惜しげもなく投入している。冒頭から飛び出す、関西圏独自の方言や文化へのツッコミは、関東圏の人間からすればクスッと笑えるし、関西の人間からすれば「そこをいじるのか」と思わずニヤリとしてしまうポイントである。まずは前作にも登場した「都会指数」を引き継いだ設定に注目したい。東京を頂点とした地域ヒエラルキーはそのままに、いまや日本全国へ広がろうとしているのが面白い。しかも関東と関西の境界線を意識した通行手形制度まで登場し、都市対地方の対立構造がさらにカオスな状態へ突入する。

物語の核となるのは、麻実麗(GACKT)が推し進める「日本埼玉化計画」。前作では“埼玉への差別をなくす”というやや自虐的ながらも熱い目的を掲げていたが、本作では単に差別の撤廃だけでなく、埼玉県自体をユートピア化してしまおうという方向へ向かう。その一環が「越谷に海を作る」という、とんでもない発想である。海を探しに関西へ向かう途中、嵐によって船が難破し、和歌山に漂着した麗が滋賀解放戦線の桔梗魁(杏)と運命的に出会うことで、ストーリーの舞台は一気に関西へ移る。ここで面白いのが、関西人にとっては“あるある”ネタを隙なく織り込んでいる点だ。大阪ではいまだに府内の人間しか乗れないバスがある、などという設定も飛び出し、やりすぎとも言えるが、そこが本作の魅力。「こんなのありえない!」と笑い飛ばせる度量こそ、この映画を受け止めるカギだろう。

一方で、麗と魁の運命的な出会いが生み出すロマンス要素や、さらに深まる地域対立が物語を盛り上げる。埼玉と関西との共通点やギャップが、単なる“バカバカしさ”だけではなく、人々が根底で持つ郷土愛をうまく浮き彫りにしているようにも感じられる。映画冒頭や現代パートで、家族がラジオ放送を通じて伝説パートを聴くという二重構造も健在であり、虚構と現実を行き来する独特のテンポがクセになる演出である。

また、キャストの豪華さは前作以上。GACKTのビジュアル映えするカリスマ性、二階堂ふみの飄々としたコメディエンヌぶりは言わずもがなだが、本作の新たな目玉はなんといっても男装の麗人を演じる杏だろう。凛々しさと華やかさが同居したキャラクター造形は、もともとの落ち着いた雰囲気と相まって非常に印象的である。さらに片岡愛之助と藤原紀香の“実際の夫婦”が揃って登場し、コミカルなかけ合いを繰り広げるのだから、驚きと笑いの連続だ。前作から加藤諒や益若つばさなども続投しているので、よりパワーアップした茶番劇を期待してほしい。

一方で、物語のテンポ感にややムラを感じる部分もある。特に、関西を縦横に突っ走る中盤は、漫才のネタのようにギャグを畳みかけるパートと、地域対立をシリアスに描くパートがややちぐはぐに感じられた。コメディ部分が非常に濃厚なだけに、ドラマ性に重きを置いた場面で一気に勢いが失速する印象がある。前作のノリをさらに強化してほしいと思っている観客にとっては、途中で少しダレるかもしれない。ただ、それも本作が“メッセージ性”をある程度持とうとしている表れかもしれない。地域差別や歴史的背景へのオマージュを散りばめながらも、基本は“自虐とネタの洪水”を楽しむスタンスは変わらないので、そこまでストレスにはならないだろう。

また、前作との比較では、劇中の“驚き”の強度が若干薄まったようにも思える。前作では、埼玉県民が東京から差別を受けるという荒唐無稽さが新鮮だったが、今作では観客がすでに“翔んで埼玉”の世界観に慣れてしまっている分、衝撃度が落ちるのは仕方がないところかもしれない。とはいえ、新たな地域(関西)を参戦させたのは正解で、そこに生まれる衝突や誤解がさらなる笑いを生んでいる点は素直に評価できる。

ビジュアル面のパワーアップにも注目である。セットや衣装は前作以上に豪奢で、特に大阪の街並みを模したセットの作り込みや、各キャラクターの衣装デザインには力が入っている。全体に漂う“フェイク感”が、本作の茶番劇的世界観を後押ししており、単なるコスプレ感に留まらず、映画としての迫力ある画作りにも成功していると感じる。

総じて、「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」は、前作の持ち味である“地域ディスを通じた愛の再発見”というテーマをさらに膨らませており、期待通りの笑いとカオスを提供してくれる一作だといえる。ただし、“前作を超える衝撃”を期待しすぎると、若干拍子抜けする面もあるかもしれない。個人的には、あくまで茶番劇として笑い倒す気概で観れば、コメディ映画として十分楽しめる出来になっていると感じた。人によって評価は分かれるだろうが、それもまたこのシリーズの醍醐味。いずれにせよ、細かいことを気にせず“ご当地ネタ”を楽しみたい人にとっては最高の娯楽映画であることに違いない。

映画「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」はこんな人にオススメ!

まず、前作の「翔んで埼玉」を存分に楽しめた人なら、間違いなく本作もオススメである。前作で味わった“あり得ない設定”や“ディスと愛の同居”を再び堪能したいのであれば、本作の拡張された世界観と関西ネタは心をくすぐるはずだ。とにかく馬鹿馬鹿しいまでに徹底した地域いじりと、その根底にある“どんな地域にも魅力がある”というメッセージを一緒に楽しみたい人にピッタリだろう。

また、関西出身者や関西文化に少しでも興味がある人にとっては、自分の出身地やなじみのある地域がいじられる快感(あるいは若干の違和感)を味わえるはずだ。“日本埼玉化計画”という荒唐無稽な設定のもとで、あらためて関西の良さや面倒くささを笑いに変えてくれているから、観る側も一種の肩の力を抜いた視点で向き合える。大阪や滋賀、和歌山など、普段の“東京基準”とは違う切り口でネタが展開されるので、「自分の地元のネタがどう扱われているか見てみたい」という好奇心のある人にも向いている。

一方、実は地域ネタにそこまで興味がない人にとっても、豪華キャストによるケレン味たっぷりの演技や、原作にはないオリジナル展開、壮大な映像表現など、エンタメ要素を存分に味わえる。むしろ、予備知識がなくても「なんだこれ!?」と驚きつつ笑ってしまう作品なので、単純にコメディを楽しみたい層にも刺さるだろう。

要するに、「細かい設定はさておき、思いっきり笑いたい」「日本各地のローカルネタに興味がある」「キャストのぶっ飛んだ役柄や大げさなアクションを見たい」という人なら一度は観て損はない作品である。逆に言えば、リアリティやシリアスなドラマ展開を求める人や、地域ディスに対して過剰な拒否反応を示してしまう人には向かないかもしれない。見る人を選ぶ傾向はあるものの、ハマる人にはとことんハマるコメディ映画といえるだろう。

まとめ

本作「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」は、前作のヒットを受け、さらなるパワーアップを遂げた地域ディス・コメディである。

物語の舞台が関西にまで拡大されたことで、埼玉VS東京という単純な対立では収まりきらない混沌とした“地域あるある”が続々と盛り込まれている。GACKT、二階堂ふみ、杏など豪華キャストたちが繰り広げる茶番劇は、観客を笑わせつつも、ところどころで地域に根付いた問題や多様性へのヒントを提示してくれる。

前作の衝撃度が強かっただけに、やや“慣れ”も感じられるが、それでも十分に笑えて“日本全国を舞台にした大喜利”のような楽しさがあるといえるだろう。細かい矛盾やストーリーの無理を楽しむのがこの映画の醍醐味でもある。地域差別や郷土愛といった重いテーマを茶化すことで、逆にそれぞれの土地への興味がかき立てられるのも面白い。単なるおふざけで終わらせず、しっかりと魅力を伝える視点があるからこそ、ここまで多くの観客を巻き込むシリーズになったのだろう。

ぜひ、自分の地元にどんなネタが飛んでくるのかを期待しながら、劇場や配信でチェックしてみてほしい。