映画「サンセット・サンライズ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
コロナ禍×地方移住という、ちょっと地味そうなテーマを大胆に盛り上げるのが、岸善幸監督と宮藤官九郎脚本のタッグである。どうせ“お涙ちょうだい”かと思いきや、意外にも笑いと人情味が絶妙に調和しており、観客の心を不意打ちしてくるから油断ならない。
本記事では「サンセット・サンライズ 感想」「サンセット・サンライズ レビュー」のキーワードを軸に、本作の突っ込みどころや見どころを赤裸々に語っていく。主演の菅田将暉が都会のサラリーマンを演じる一方で、井上真央や竹原ピストルといった多彩な役者陣が宮城県南三陸町の空気を色濃く表現。釣り好きにとっては垂涎ものの美しい風景と海産物がこれでもかと映し出され、まるで映画館がご当地フェス会場と化す勢いだ。
だが、笑いだけで終わらないのが本作の真骨頂。コロナ禍がもたらした生活様式の変化や、地方が抱える過疎化の問題など、リアルな社会背景もしっかりと織り込まれている。「笑ってるうちに何やら考えさせられる」という、いかにもクドカン節らしいパンチの効いたストーリーがここに詰め込まれているのだ。
映画「サンセット・サンライズ」の個人的評価
評価: ★★★☆☆
映画「サンセット・サンライズ」の感想・レビュー(ネタバレあり)
正直、最初は「地方移住モノ? コロナ禍を絡めたヒューマンコメディ? またベタな社会派映画か?」と侮っていたのだが、これがどうして意外とクセになる一品である。舞台は自然豊かな宮城県南三陸町。都会でリモートワークを経験したサラリーマンの西尾晋作(菅田将暉)が、趣味の釣りを満喫すべく意気揚々と引っ越してくるところから物語は始まる。ところが彼を待ち受けていたのは、やたら元気すぎるご当地キャラのような人々と、地域に根付いた独自ルールの数々だった。
まず衝撃を受けるのは、地元住民のテンションが総じて高めな点だ。近所のおばちゃん軍団は朝5時から漁港で井戸端会議を繰り広げ、まるで“今日は誰をイジって遊ぼうか”と目をギラギラさせている。釣り友達として登場するケン(竹原ピストル)はとにかく無骨そうに見えるが、話し始めるとその豪快な笑い声があたり一面にこだまする。西尾は都会のビル群の冷たさに慣れた男だけに、初っ端からこの距離感ゼロのコミュニケーションに戸惑いまくるのだ。とはいえ、彼らからすれば「こっちだって久々の新参者、いじらんでどうする」というスタンスらしく、シャイな西尾も否応なく巻き込まれていくことになる。
宮藤官九郎の脚本らしいと思うのは、こうしたコミカルな日常描写の合間に、コロナ禍が引き起こした社会のズレや価値観の転換をさらりと挟み込んでくる点だ。リモートワークで生まれた自由度は人々を地方へ誘うが、一方で観光客不足に陥った地元の観光業は何とか生き延びようと必死。都会があれば地方もある。どちらが優れているとか劣っているとかではなく、「結局どんな環境に身を置いたとしても、人は人と繋がってこそ活きる」というメッセージが随所に見え隠れする。
西尾が移住先で出会う住民の中には、釣り一筋で地域の変化なんぞ興味がなさそうな漁師や、震災以降の復興に燃える若い事業家、東京と地元を行ったり来たりする二拠点生活者などがいる。彼らは決して「コロナ禍=絶望」の単純な図式にはまらず、それぞれが自分なりの方法で新しい日常を掴もうとしている。そこに少々の噛み合わなさや衝突が発生したとしても、お互いの距離を測り合いながら前へ進もうとする姿が丁寧に描かれている点が、この映画の大きな魅力だ。
そんな人間模様を下支えするのが、監督の岸善幸による風景描写だ。南三陸の朝焼け、海辺で戯れる子どもたち、山間から射す柔らかな光といった映像美が観る者の目を癒やし、ふと東京の高層ビル群を思い出すと「もうあっちには帰りたくないな」と思わせるほどの説得力を持つ。さらに、菅田将暉演じる西尾が行きつけになってしまう定食屋での海鮮定食の破壊力は絶大だ。観終わったら間違いなく「ああ、新鮮なサンマ刺しが食べたい…」と頬を押さえるに違いない。
コメディとしてのテンポも良い。例えば、リモート会議中に地元のおっさん軍団が乱入して画面前で勝手に討論を始めたり、実家から送られてきたはずの都会のスイーツがいつの間にか近所中に配られていたりと、“田舎あるある”を誇張したギャグが次々と飛び出す。笑いながら思わず「これ、実際にあったら泣くやつだよな」とツッコまずにはいられない。
ただし、あくまでも映画は「地方の暮らしって素敵でしょ? みんな移住しようよ!」なんて単純に賛美しているわけではない。人口減少と高齢化の問題、コロナ禍で疲弊した観光業や文化活動など、根が深い問題もきちんと描かれている。西尾が職場に向けて「地方でも普通に仕事できますよ」と説得しても、一部の上司や同僚は「仕事なんだから東京にいなきゃダメだろう」と否定的。あるいは地元のベテラン漁師が「よそ者は結局すぐ帰る」と冷ややかな視線を浴びせるなど、理想と現実のギャップが生々しく提示される。
しかし、その苦さこそが「サンセット・サンライズ」というタイトルの肝でもあるのかもしれない。夕日が沈んでも必ず朝日は昇る。暗闇があっても、新しい光は差し込む。そういった“当たり前”が実はとんでもなく有難いことだと、この映画は教えてくれるのだ。ラストシーンでは、地元の祭りを手伝う西尾が、いつの間にか誰よりも馴染んでいる姿が印象的に描かれる。「ハマると抜け出せない」のが地方暮らしの怖さでもあり、魅力でもあるのだろう。
もちろん、本作が万人受けするかというとそうでもない可能性もある。リモートワークの導入や地方活性化がピンとこない人には話題のとっかかりが薄いかもしれない。だが、「自分の生き方を見直すきっかけ」となるヒントは随所に散りばめられているはずだ。騒動の連続である本編を通じて、「コロナ禍も悪いことばかりじゃなかったかも」「都会も地方も、結局は人の思いやり次第だな」という気づきをもらえる。
「サンセット・サンライズ」は、宮藤官九郎の巧みな笑いのセンスと、岸善幸監督が切り取る美しい風景が融合したヒューマンコメディの佳作である。地方移住を一度も検討したことがない人にも、結構刺さるかもしれない。何より菅田将暉が自然と戯れる姿に癒やされ、井上真央が演じる地元の女性(百香)との気まずい距離感に萌える人も多いだろう。筆者的には、「★★★☆☆」と星こそ3つに留めるものの、観た後に「海鮮定食、もう一丁!」と叫びたくなること請け合いだ。
映画「サンセット・サンライズ」はこんな人にオススメ!
まず、釣り好きや海の幸に目がない人にはドンピシャの映画である。スクリーンに登場する豪快な漁港の風景や、新鮮すぎる海の恵みの数々は、それだけで眼福・胃福の二重奏だ。次に、「あまちゃん」や「いだてん〜東京オリムピック噺〜」など、宮藤官九郎の作品を楽しめる人は間違いなくハマるはず。コミカルな会話劇と絶妙なテンポ感が、クドカンらしさを存分に発揮しているからだ。また、「東京を離れて暮らすってどうなの?」と興味を持っている人にとっては、一見遠回りに見えるが意外と身にしみる内容である。地方移住にロマンを求めすぎず、かといって悲観もしすぎないリアルな姿勢は参考になるだろう。
さらに、人情味あふれるコメディに飢えている方もぜひ。都会のぎすぎす感に辟易しているなら、この南三陸の人たちが放つ“お節介ウェルカム光線”が心にしみるかもしれない。逆に、超シャイで地域コミュニティとの付き合いが怖いという人にとっては、多少のカルチャーショックがあるかもしれないが、そこには予想以上の温かさや楽しさが潜んでいるのだと気づかせてくれるはずだ。コロナ禍によって変わった社会と向き合いたい人、まじめなテーマも笑いながら消化したい人、そして美味しい海鮮を今すぐ食べたくなる人には、迷わずおすすめしたい作品である。
まとめ
岸善幸監督×宮藤官九郎脚本という強力タッグが生み出した「サンセット・サンライズ」は、コロナ禍や地方移住というシリアスになりがちな題材をユーモアたっぷりに描いたヒューマンコメディである。
菅田将暉をはじめとする豪華キャストが、南三陸という自然豊かな舞台にすっかり馴染んでいる様子も見どころの一つだ。笑いと人情で押し切りつつ、社会が直面する問題をさらりと織り込んでくる脚本にはクドカンらしさが満載。観終わった後に「田舎で暮らすのもアリかも…」とほんの少し背中を押されるような不思議な温かさを感じられる作品である。
つまり、夕日が沈んだその先にも夜明けはやってくるのだと、映画を通じて改めて思い出させてくれるのである。