映画「レジェンド&バタフライ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作は木村拓哉が織田信長を、綾瀬はるかが濃姫を演じる歴史エンターテインメントである。信長と濃姫といえば、政略結婚から始まった凸凹コンビのような関係が有名だが、本編では想像を超える勢いで衝突したり助け合ったりする姿が描かれている。しかも初夜の段階から剣呑なムードでバチバチにぶつかり合う二人が、戦国の荒波をどう乗り越えていくのか。そこには武将同士の因縁や過激な戦いだけではなく、いつしか芽生える強い絆のようなものも感じられるから不思議だ。歴史上の人物として聞きかじった程度の信長や濃姫に対する固定観念が良い意味で裏切られるため、意外な発見が多々ある。
大河ドラマなどで目にする荘厳さに加えて、肩の力を程よく抜いた掛け合いが魅力的で、観終わったあとに「彼らの夫婦生活をもっと眺めていたかった」と思わせてくれる作品でもある。これから存分に“辛口”に語っていくが、その辛さの奥にある甘味や味わい深さも、ぜひ楽しんでほしい。
映画「レジェンド&バタフライ」の個人的評価
評価:★★★★☆
映画「レジェンド&バタフライ」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作は織田信長と濃姫という歴史の大舞台を彩るふたりの約30年にも及ぶ歩みを、エネルギッシュかつ奔放に描いている。しかも、その描写が尋常ではないほど生々しい。たとえば初夜の場面で、普通なら「気まずい空気から始まって、少しずつ愛を育む」といった予想をするかもしれないが、本作では初っ端から濃姫が信長を投げ飛ばすという衝撃的なシチュエーションが展開される。いったいこの二人はどこへ向かうのか――そんな興味をそそられる始まり方をするのだ。
信長は「うつけ者」と評される若武者、濃姫は「マムシの娘」と恐れられる才女。政略結婚で結ばれたはずが、ひとたび部屋のふすまを閉めた途端、取っ組み合いさながらのバトルが始まる。この調子で夫婦がやっていけるのかと心配になるほどだが、物語を追っていくと、二人は表面こそ犬猿の仲に見えるものの、裏では互いを確かめ合いながら人生を切り開いていく。こうした関係性には、単純な夫婦愛を超えたパートナーシップの奥深さが垣間見えた。
そして、本作がただの夫婦漫才では終わらない最大の理由は“戦国”という荒々しい時代背景にある。合戦が絶えず、謀反や裏切りが日常茶飯事だった戦国の世を舞台にしている以上、血で血を洗う過酷な場面も登場する。とくに濃姫は初めて人を手にかけるシーンで大きく揺れ動くことになるが、それがきっかけとなって信長とさらに濃密な結びつきを得るから驚かされる。まるで荒野をさまよう二匹の獣が互いに傷を舐め合い、同時にその生き方を肯定しあっているようでもあった。
演じる木村拓哉は、これまで培ってきた華やかさやカリスマ性を存分に発揮しながらも、“うつけ”と呼ばれた未熟な若者から、非情な手段をも辞さない“第六天魔王”へと変貌していく織田信長を見事に体現している。彼の表情の移り変わりを観ていると、「まだ若造だった信長が、負けられない戦いをいくつも経験して、人知れぬ苦悩に押しつぶされそうになる」その過程が痛いほど伝わってくる。もともと存在感に定評のある木村拓哉だが、今作ではその鋭いオーラと人間臭さを両立させる器用さが非常に印象的だ。
一方、綾瀬はるかが演じる濃姫は、端正な美しさと苛烈な気丈さを兼ね備えている。最初から最後まで、信長に一歩も引けを取らない強靭な姿勢を崩さない。かといって冷淡なわけではなく、荒々しい時代の中で自分の生きる目的を見失いかけた際には、胸が締めつけられるような脆さや寂しさを見せる。このギャップが見事で、綾瀬はるかにしか出せない柔らかさも持ち合わせつつ、戦国の世で自分の居場所を確立する凜とした女性像を築き上げている。
物語が進むにつれ、二人の絆が深まる一方で、信長は天下布武を目指す過程で非情な決断を繰り返す。たとえば比叡山延暦寺への焼き討ち。史実でも語り草になっているあの惨劇をどう乗り越えるのか。本作ではその苛烈な決断を下す直前の信長と、彼を止めようとする濃姫のやりとりにドキリとさせられる。ここで、もはや信長と濃姫は単なる夫婦関係を超え、同志のような関係性を築いていることが描かれる。しかし、あまりにも重い命のやり取りや苦渋の選択が続けば、いずれ関係に亀裂が入ってもおかしくはない。実際、彼らはどこかで折り合いがつかなくなり、自分たちでもコントロールできない道を歩み始めてしまう。
そして忘れてはいけないのが、明智光秀との関係だ。最初は信長に心酔し、その人間離れしたカリスマ性に惹かれていく光秀が、のちに「本能寺の変」を起こすまでの心情がじっくりと積み上げられるところが興味深い。光秀役の宮沢氷魚は爽やかな風貌からは想像もつかないほど深い闇を滲ませ、主君に対する執着とも言える強い思いが裏返る瞬間を丁寧に表現している。この“歪んだ愛憎”が、本作のクライマックスをより劇的に盛り上げる要因でもある。
本能寺の変は、日本史上でも屈指の有名事件であり、その結末を知らない人は少ないだろう。だが、本作ではその結末すら、まるで別の視点から再定義したかのような不思議な余韻を与えてくる。いわゆる「遺体が見つからなかった」という史実の余地を活かし、信長の最期に新たな物語を付与する形だ。死の間際、走馬灯のように頭を過ぎる情景や、濃姫と再会したかのようなシーンには賛否があるかもしれない。しかし、自分が積み上げてきた人生の最終地点で、大切な人との約束だけを頼りに、ほんの一瞬でも安息を得ることができたなら、それは案外悪くない終わり方なのではないか。そう思わせてくれるだけの説得力が、この物語にはあった。
撮影面に目を向ければ、壮大なセットとロケーションが実に魅力的だ。安土城のスケール感や京の町並みのきらびやかさには目を奪われるし、一方で血なまぐさい戦場の空気が漂う場面では土埃や炎の勢いが生々しく伝わってくる。監督の大友啓史とスタッフ陣が、戦国のリアリティを演出しつつ、エンターテインメント性を損なわないように細やかな気配りをしているのがわかる。だからこそ信長と濃姫の駆け引きにも説得力が生まれ、単なるコントに終わらず、見る者の胸をギュッと掴んで離さないのだろう。
脚本を務める古沢良太は、これまで数多くのヒットドラマや映画を手がけてきたが、もともと日常描写の中にピリッとした調味を加えるのが巧みな印象があった。本作では戦国のゴツゴツした世界を舞台にしながら、観客が「こんな夫婦、身近にいたら大変そうだけど面白いだろうな」と思える掛け合いを盛り込む。そのため、戦国ものにありがちな難解さが薄れ、親近感を持って観進められるのもポイントだ。
音楽もまた見どころ(聴きどころ)のひとつである。異国情緒を漂わせるフレーズが散りばめられつつ、激しい弦の響きや重厚な打楽器が戦国の息遣いを映し出す。静寂と爆音のメリハリを活かして、登場人物たちの心情を浮き彫りにする演出も巧みで、その音楽が場面の緊張感をさらに高めている。特に信長と濃姫が南蛮の音楽に合わせて踊るシーンなどは、危うい戦国のムードから一変して、その束の間の幸福が画面からあふれ出すようだ。
本作は“激動の戦国時代のど真ん中を駆け抜けた夫婦”を、愛嬌と壮絶さを同時に備えた視点で描いている。ひとクセもふたクセもある登場人物たちが交錯するなかで、危うくても惹かれ合う信長と濃姫の関係は何度も山場を迎える。最終的に二人が残したものは、歴史の大河にはほとんど記されていない“プライベートな絆”だったのではないかと思わされるのだ。歴史的解釈はいろいろあるが、少なくとも本作を観終わったあとには、信長の非情さよりも人間性、濃姫の名門の気高さよりも情に熱い面が心に残る。それこそが本作が目指したテーマ――「激動の中でしか育まれない濃密なつながり」の魅力だろう。
もちろん、人によって好みは分かれるだろう。合戦シーンをもっと大々的に描いてほしいと思う人もいれば、史実との整合性を厳密に気にする人もいるはずだ。しかし、そのあたりの不足を補って余りあるのが、信長と濃姫の絶妙なかけ合いや、苦しい戦局をくぐり抜けてきたからこそ芽生える深い絆の説得力なのである。個人的には、ラストで見せる信長の表情に、これまでのすべてが凝縮されているように感じた。あそこに至るまで数えきれないほどの破天荒なエピソードがあるからこそ、あの一瞬がまるで人生のすべてを肯定しているかのような輝きを放つのだ。
そうした余韻を含めて、ざっくり言うなら「信長と濃姫の夫婦ドタバタ時代活劇」と称しても過言ではないが、それを支える背景には壮絶な戦乱があり、過酷な現実と常に背中合わせだったという緊張感がある。実際にこの作品を鑑賞すると、その明暗のコントラストが絶妙で、最後まで目を離せなくなる。見終わったあとには「ああ、これが戦国夫婦の真骨頂なのかもしれない」と思わず唸ってしまうだろう。
笑ってしまう瞬間もあれば、喉元に苦いものがせり上がってくる瞬間もある。人間としての生々しさを信長と濃姫に重ねることで、歴史物の敷居がぐっと下がり、観客は彼らの夫婦ドラマにしっかり感情移入することができるはずだ。そういう意味で、本作は歴史ファンにもドラマ好きにも、あるいはカップルや夫婦で観に行くにもおすすめしやすい幅の広さを持っている。
結局のところ、本作が最も伝えたかったのは「夫婦やパートナーにとって何がいちばん尊いのか」という問いなのかもしれない。天下統一というビッグプロジェクトよりも、傍にいる相手をどれほど想えるか。そんな当たり前だが壮大なテーマを、信長と濃姫が己の生涯をかけて示してくれた。歴史の常識を踏まえながらも、あえてそこにフィクションの彩りを加え、二人の愛情と苦悩を大河の如く流し込んだのが本作の意義であるといえよう。
映画「レジェンド&バタフライ」はこんな人にオススメ!
まず、史実だけでなくエンターテインメントとしての面白さを重視したい人には強く推したい。本作は歴史の教科書に書かれているような出来事も扱ってはいるが、夫婦の掛け合いや本能寺の変の新解釈など、独創的な演出がたくさん盛り込まれている。だからこそ、歴史的正確さにそこまでこだわらず、「波乱万丈な人生ドラマ」として楽しみたい人にはぴったりだ。
また、戦国モノを敷居高く感じてしまう人にもおすすめである。台詞回しやキャラクターの言動に親しみやすさがあるため、いわゆる堅苦しい時代劇が苦手でもすんなり入り込める。さらに夫婦やパートナーの絆に興味がある人にも向いているだろう。「政略結婚でスタートしても、ここまで強く支え合えるものなのか」「むしろ、お互いに遠慮のない間柄だからこそ真実の愛情が育つのか」といった観点で楽しめるので、現代の恋愛や夫婦関係に対する考え方にも通じるものがある。
加えて、木村拓哉や綾瀬はるかなど日本を代表する役者陣の魅力を堪能したい人にも好相性だ。どちらも高い演技力だけでなく、画面を支配するカリスマを持ち合わせており、それが戦国時代の壮大な背景と重なることで大いに華やぎを与える。彼らの掛け合いは見ているだけでエネルギーが伝わってくるし、脇を固める俳優陣も個性的なアプローチで物語を彩っている。そういうキャラクターの魅力をじっくり味わいたい人にもうってつけだ。
そして、人間の極限状態が織り成すドラマに興味がある方にも向いている。裏切りが横行する戦乱の世で、誰を信じ、何を守るか。そんな重いテーマが、派手な合戦シーンよりも人物同士のやり取りや緊迫感のある駆け引きで表現されているのだ。生きるか死ぬかの状況を前にしたとき、信長と濃姫が何を優先し、どんな言葉を交わすのか。そこにフォーカスした作風は、人間ドラマ好きにはたまらないはずである。
まとめ
本作は、織田信長と濃姫が出会い、反発し合いながらも深い縁を築いていく数奇な運命を、一大スペクタクルとして描いている。激動の時代を舞台にしていながら、どこか身近な夫婦の喧嘩やすれ違いに通じる要素があり、そのおかげで感情移入しやすい。しかも、気づけば「戦国の荒波より何よりも、この二人の掛け合いがいちばん壮絶で面白いのでは」と感じてしまう瞬間があるのだ。歴史大作としてのスケール感に加え、人間の内面を掘り下げるドラマ性もしっかり担保されているため、“壮大な恋物語”としても“過酷な時代を生き抜くサバイバル劇”としても十分な見ごたえがある。
特に印象深いのは、本能寺の変で迎えるクライマックスだ。もともと悲劇として語られることが多い史実を、本作はまるで新しい物語に生まれ変わらせるかのように取り扱っている。そこに好みが分かれる部分もあるが、同時に「史実上の空白をこんな風に埋めてみるのも面白いのではないか」と感じさせる説得力も備えている。見終わったあと、信長と濃姫という二人の人生が少しだけ身近に感じられたら、それこそが本作の醍醐味といえるだろう。