となりのトトロ

映画「となりのトトロ」公式サイト

映画「となりのトトロ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作はスタジオジブリ作品の中でも特に知名度が高く、多くの人が子供の頃から繰り返し観てきたであろう名作である。しかし、長らく愛され続けているがゆえに、その魅力だけでなく物足りなさを感じる部分も見えてくるのが本音だ。

可愛らしいキャラクターや情緒あふれる田舎の風景は確かに素晴らしいが、ストーリー面での盛り上がりやキャラクター間の葛藤は少なく、「本当に名作なのか?」と首をかしげる瞬間もないわけではない。そもそも子供向けの映画として制作された意図が強いため、ある意味では徹底的に子供目線の世界観を貫いている点が評価すべきところだろう。

一方で、昭和30年代の日本を舞台にしつつも、大人の視点で観ると現実味に欠ける描写や説明不足に感じる場面があるのも事実だ。今回はそんな「となりのトトロ」を、愛情とツッコミを交えながら、まさに“激辛”気味に深掘りしていきたいと思う。

ここでは「となりのトトロ 感想」「となりのトトロ レビュー」というキーワードを軸に、作品の魅力から物足りない部分まで余すことなく紹介していく。

映画「となりのトトロ」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「となりのトトロ」の感想・レビュー(ネタバレあり)

昭和30年代の日本を舞台にした映画「となりのトトロ」は、姉妹のサツキとメイが“森の主”ともいえる不思議な生き物・トトロと出会うことで日常が鮮やかに彩られていく物語である。アニメーションとしての完成度やキャラクターの可愛らしさ、そして久石譲の音楽のすばらしさなど、数々の長所が並び立つ一方、当時の時代背景や物語の構成に疑問を覚える向きもあるのではないか。実際、ストーリーとしては大きな事件や葛藤が少なく、「これといったクライマックスがない」という評価を受けることも少なくない。ここでは、その点も含めて“激辛”目線を織り交ぜながら掘り下げていく。

まず、本作を語るにあたって欠かせないのは、その映像美と世界観である。スタジオジブリ作品の特徴として、背景美術が非常に細やかなタッチで描かれていることは有名だ。「となりのトトロ」でも、田んぼや森といった日本の里山の風景が丁寧に描き込まれ、懐かしくも美しい田舎の姿がスクリーンいっぱいに広がる。子供時代に抱いた“自然の中を自由に駆け回る楽しさ”を、思い出させてくれると同時に、現代人が忘れがちな自然との関わり方を提示しているようにも見える。子供はもちろん、大人になってから観ても心を解きほぐされるような、そんな画面づくりが最大の強みといえるだろう。

だが同時に、「映像の美しさに頼りすぎではないか」とも感じられる。いわゆる映画の盛り上がりやドラマ性を求める観客からすると、本作はあまりにも穏やかすぎて刺激が少ない。病気の母親を見舞うために姉妹が父親と田舎に引っ越してくる、という導入こそあるものの、そこから先は基本的に童心にあふれた日常の風景が淡々と続く。クライマックスらしき場面は、メイが母親に会いに行こうとして迷子になるシーンだが、そこでも大きな対立や敵役が登場することはなく、最終的にはトトロとネコバスの助けで無事に事態が解決される。ドラマチックな要素を期待する人にとっては、物足りなさを覚えてしまうのも自然だろう。

また、キャラクター同士の関係性が非常にシンプルで、深い人間ドラマを求める観客にはやや物足りないかもしれない。例えば父親の草壁タツオは学者肌の優しい人物だが、物語の中で何かしら大きな変化を遂げるわけでもなく、終始穏やかなままである。姉妹のサツキとメイは、幼い妹を面倒見るお姉ちゃんと、好奇心旺盛な妹という対照的なキャラクター設定がなされているものの、姉が妹に対して鬱屈した感情を抱いたり、妹が父の不在がちな研究生活に不満を抱いたり…といった深刻な対立や葛藤は描かれない。もちろん、それこそが子供の世界観の伸びやかさを表現しているともいえるが、視聴者の年齢が上がると「さすがにキレイ事すぎない?」と思われるかもしれない。

しかし、その“物足りなさ”こそが「となりのトトロ」の世界観そのものであるともいえる。宮崎駿監督はこの作品で、子供の頃にしか感じられない時間の流れや、日常に潜む小さな不思議を見つける喜びを描こうとした。だからこそ、悪役らしい悪役は登場せず、トトロが暴れたりすることもなく、森や家やバス停で起こるちょっとした出来事を大切に拾い上げている。大人の視点で見ると「それだけ?」と感じるが、子供にとってはその一つひとつが大冒険であり、想像力を刺激する十分すぎる舞台なのだ。宮崎監督自身が幼い頃の体験を投影しているからか、作品全体に流れる空気にはある種の“懐かしさ”と“優しさ”が詰まっている。刺激的なアニメーションばかりが評価される世の中に、こうした静けさを重んじる作品が存在し得るのは貴重なのかもしれない。

とはいえ、やはり“激辛”に振り切るならば、物語構成の単調さを指摘せざるを得ない。アニメ映画としてのエンターテインメント性を期待する人々からすれば、もう少し山場や衝突があっても良かったのではないかと思う場面が多々ある。例えば、サツキが母の容体を心配するあまり、メイに当たってしまうシーンは非常にリアルな感情描写である。だが、その後サツキがどうそれを乗り越え、成長していくのかという部分はあまり深くは描かれない。さらには、父が研究と家事育児の両立に苦しむようなシーンもなく、「この人、仕事どうしてるんだろう?」と気になってしまうほど家庭的に見える。子供向け作品なのでリアルを追求しすぎる必要はないが、細部まで行き届いているジブリ作品だけに、そこが逆に“ご都合主義的”に思われてしまう側面もある。

一方で、多くのジブリ作品で共通するテーマ「自然との共存」を正面から描いている点は高く評価できる。トトロの存在そのものが、日本の神道的な自然信仰を彷彿とさせる存在であり、森や木々がまるで生きているかのように呼吸している描写は、一種のアニミズムを感じさせる。この思想があるからこそ、子供たちは森に足を踏み入れても恐怖を覚えず、トトロを受け入れる準備ができているのだ。自然そのものを怪物ではなく“友だち”としてとらえる発想は、現在の環境保護意識の高まりとも通じるところがあり、今日に至るまで色あせることなく、多くの人々の心を打ち続けているのだろう。

ただし、海外の視聴者や自然との関わりが薄い都市部の人にとっては、この作品の真意がやや伝わりにくいかもしれない。実際に“森の神様”的な存在を肌で感じながら育つ子供は現代ではますます減っており、そうした感性を共有できるかどうかが「となりのトトロ」を評価する上で大きな分かれ目になりそうだ。評判の悪いところでは「ストーリーがない」「退屈」「子供だまし」という辛辣な意見も目にするが、そうした感想を持つ人々との間には、自然との距離感や幼少期の原体験の差があると考えられる。

音楽については、やはり久石譲の貢献度は絶大である。主題歌「となりのトトロ」の牧歌的かつ親しみやすいメロディは、一度聴いただけで耳に焼きつく印象的な曲だ。作中のBGMも情景に合わせて雰囲気を高めており、例えばバス停で雨に濡れながら待つシーンでは小雨がしとしと降る音と音楽が絶妙にマッチし、情感を豊かにしている。実はこのような細やかな効果音や音楽の積み重ねが、本作の穏やかな空気感を醸成する大きな要因だといえる。だが、「となりのトトロ レビュー」という観点から見ると、音楽の心地よさやキャラクターの愛らしさが先行し、いわゆる映画としてのストーリー評価を阻む結果にもなっているかもしれない。「この雰囲気こそが良い」というファンも多く、評価が分かれる部分だろう。

キャラクター面では、トトロやネコバス、まっくろくろすけといった生き物たちのデザインが非常にユニークで一目で愛着がわく。一方、子供が見る分には問題ないが、大人が見ると「結局彼らは何者なのか?」「どういう生態なのか?」など、突っ込もうとすればいくらでも疑問が湧いてくる。しかし監督はあえてトトロたちの正体を明かさず、子供の想像力に委ねているところがあるようだ。下手に説明をしすぎると、かえって神秘性が損なわれてしまうため、これもまた“情報を削る勇気”としての演出なのだと思われる。

総合的に見ると、「となりのトトロ」は子供にとっては夢のような世界が広がる傑作だが、大人の視点で厳密に突き詰めると物足りなさやリアリティの欠如を感じる部分が散見される作品でもある。“激辛”に評するのであれば、「可愛いだけの映画」「子供のファンタジーに寄せすぎ」「ストーリーの起伏が弱い」という指摘は拭いきれない。しかし、だからこそ子供たちが無心に楽しめる要素や、ノスタルジーに浸れる空気感が突出しており、多くの観客にとって、子供の頃の記憶と深く結びついた大切な作品となったのではないだろうか。

このように「となりのトトロ 」を深く掘り下げてみると、単純に“ほのぼの”とか“かわいい”といった言葉だけでは語りきれない奥行きがある。人によっては退屈な映画かもしれないが、“物語”とは別の次元で豊かな世界を構築している点こそが本作の真骨頂だ。大人の鑑賞に耐えうるアニメ作品は、物語のスピード感や壮大さを追求しがちだが、そうではない角度からエンターテインメントを提示した宮崎駿監督の存在意義は非常に大きいと言えよう。結果として、何度見ても新しい発見や懐かしさを味わえる“時間を超えた作品”として親しまれているのだ。

最終的には、本作の良し悪しは観る側が何を求めるかによって大きく変わる。小さな頃に心をときめかせた自然や空想の世界にどれだけ共感できるか。そこに価値を見いだせるなら「となりのトトロ」は傑作であり、“子供だまし”と断ずるなら退屈な作品にもなりうるというわけだ。だからこそ、いま改めて本作を鑑賞するならば、子供のころの純粋な気持ちを思い起こしてみるのも悪くないかもしれない。田舎道を歩くサツキとメイの足取りに、昔の自分を重ね合わせてみれば、思わぬ発見があるかもしれないのだ。

以上をまとめると、「となりのトトロ」は自然の美しさや子供の感性を極限まで大切に描いた作品である一方、劇的な展開やキャラクター同士の大きな衝突を期待する向きには物足りない部分がある。子供には夢と希望と冒険心を、大人には懐かしい昭和の原風景と失われた童心を呼び起こす、そんな不思議な力を持った映画だといえるだろう。完成度は高いが、あまりに静かで優しい世界が故に「もうちょっとパンチが欲しい」と感じる人もいるはず。だが、そのパンチをあえて削り、ゆったりと流れる時間を大事にしたことこそが、宮崎監督の狙いであり、本作の最大の魅力とも言えるのではないか。

映画「となりのトトロ」はこんな人にオススメ!

まず、あまり複雑な物語を求めず、むしろゆったりとした雰囲気を味わいたい人にはうってつけである。映画の中では大きな衝突や悪役は登場しないので、ひたすら穏やかなムードに浸っていたいときには最適だ。また、子供と一緒に安心して楽しめる作品を探している親御さんにもオススメできる。暴力的な表現や刺激の強いシーンが極めて少ないので、小さい子供でも怖がらずに観られるだろう。さらに、自然の美しさや日本の田舎の風景が好きな人にとっては、そのノスタルジックな世界観が深く刺さるかもしれない。

一方で、昔は好きだったが大人になってから改めて鑑賞したいという人にもオススメしたい。大人の視点で見ると、「となりのトトロ」が描いている家族関係や昭和の生活風景、さらには森の神秘に対する畏敬の念といったテーマが、より鮮明に感じられるはずだ。忙しい日常の合間に、少し子供の頃の視点に立ち返ってほのぼのしたいときや、自然との触れ合いが減ってしまった現代生活を見直したいときには、絶好の癒やしになる作品でもある。ゆえに、心のデトックスを求める人にもオススメだ。ただし、物語の起伏を重視する人にはやや向かない可能性があるため、そこだけは要注意である。

まとめ

映画「となりのトトロ」は、子供心に戻って伸びやかな想像力を楽しめる一方で、大人が観ると物足りなさや説明不足を感じる可能性もある作品だ。自然の風景やキャラクターの可愛らしさ、そして温かい家族の情景が魅力である反面、ストーリーの盛り上がりには欠ける部分があるのも否めない。

しかしながら、その“何も起こらない”穏やかさこそが作品の大きな特長であり、現代社会では失われがちな安らぎを与えてくれる。子供向けとしてだけでなく、ノスタルジーを求める大人にもおすすめできる点が、長きにわたって愛される理由なのだろう。物語の刺激を追い求める人には合わないかもしれないが、童心に返りたい人には最適だ。

今もなお多くのファンを持ち、スタジオジブリの看板作品として根強い支持を受け続ける理由を、改めて再認識させてくれる一作である。