映画「シン・仮面ライダー」公式サイト

映画「シン・仮面ライダー」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は昭和から続くヒーロー像を、現代ならではの映像技術で再構築した一本である。昭和特撮の泥臭さを思い起こさせつつも、どこかスタイリッシュな雰囲気があるのが特徴だ。新旧ファン入り混じって盛り上がるのも納得の仕上がりだが、想像と違うアプローチに面食らう人もいるかもしれない。

筆者は肩の力を抜いて観たつもりだったが、気づけば画面にグイッと引き寄せられていた。とはいえ、アクションが激しかったり感情の濃度が高すぎたりと、観ているこちらの気力をすり減らす場面もあったのは事実である。そこを「これは癖になるかも」と捉えられるか、「ちょっと映像が強烈すぎる」と思うかで、本作の評価は大きく変わってくるだろう。

いずれにせよ、数々の意外な要素が散りばめられた作品であり、何より「これまでの常識」を超えようとする情熱は存分に感じ取れた。今回はその情熱の源泉と、個人的に気になった要素を余すところなくぶった斬っていく。

映画「シン・仮面ライダー」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「シン・仮面ライダー」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作は、人間を含む動物や昆虫などあらゆる生命の力を奪い合うような荒々しさを描きつつ、その背後には「人間が持つやさしさ」を軸に据えていると感じた。まず主人公である本郷猛のキャラクター造形からして、決して快活なヒーローではない。むしろ繊細で、強大な力を手に入れた自分を恐れながらも、仲間を救おうとする姿が印象的だ。

物語冒頭で本郷が示すのは、「強い力を使えば誰かを傷つけてしまう」というジレンマである。バッタの力を宿した身体は常人離れしており、そのまま戦闘に突入すれば圧倒的な暴力に傾きがちだ。ところが本郷自身は暴力を肯定せず、あくまで仲間を守るため、あるいは敵の暴走を食い止めるために戦わざるを得ない。そこに漂う「どこか自信なさげな雰囲気」は、従来の強靭なヒーロー像を思いっきり逆撫でしているようで、個人的には非常に面白かった。

さらに彼を導く存在として登場する緑川ルリ子も、ただの相棒役にとどまらない。彼女はショッカーという組織に関わる運命を背負い、血縁者との対立まで覚悟している。ところが、ただ冷徹な合理主義者というわけでもない。必要ならば迷わず厳しい選択を下す姿はあるが、その根底には人を想う気持ちがしっかり宿っているように見えた。いわゆる「仕事だからと割り切る冷淡さ」だけでは語れない深みがあるのだ。

印象的だったのは、ルリ子が持つ“生体電算機”という設定。単なる人間ではなく、組織によって「必要な道具」として誕生させられた存在だという点で、本郷との境遇が重なる部分もある。お互い、人間らしさをどこかに置き忘れてしまったかのような孤独をまといながら、協力関係を築いていく。その不安定なコンビ感は、むしろ見ている側の心を掴む要因になっているように思う。

一方で、敵側となるショッカーの描写は独特だった。従来の「世界征服を目論む悪の組織」というフォーマットから派生しつつも、本作では「持続可能な幸福」を掲げる存在として提示される。その手段がどう考えても穏やかでない以上、悪の烙印を押されるのは当然ではあるが、彼らの行動原理にあるのはある種の理想主義だとも言える。コウモリ型の怪人が示す狂気、ハチ型の怪人が示す管理社会への固執など、それぞれの怪人が違う理想を具現化しているようで、興味深かった。

ここで印象的だったのは、どの怪人も組織に帰属しながらも「自分だけのやり方」を貫こうとしていることだ。たとえばコウモリ型であれば、「優秀な人間のみを選別する」という発想をウイルスで実行しようとするし、ハチ型は洗脳による完全支配を選択する。そこには一見「仲間」であるはずの同胞との連携があまり感じられず、むしろ個々の思惑を突き詰めた結果の衝突が散見された。「結局、バラバラなのでは?」と思えるほどに独立性が高いのだが、その点がショッカーの抱える不安定さとして魅力になっていた。

さて、本編の山場とも言えるのが、緑川イチローとの対決である。彼は仮面ライダーにとって宿命のライバルたる存在であり、組織内部の権力闘争でもキーを握る人物だ。ここに至るまで、いくつもの怪人を倒してきた本郷だが、イチローとの対峙は単なる物理的決戦ではなく、「自分はなぜ力を使うのか」を突きつけられる心理戦の側面も強い。イチロー自身もまた、家族を失った悲しみや、人間の暴力性への嫌悪感をこじらせているからこそ独自の理想を掲げているわけだ。

この二人が全力でぶつかり合う場面は、本作を象徴する大きなテーマがにじみ出る。つまり「自分が背負う孤独を、どこまで抱きしめられるか」という問いだ。本郷は孤独な力を抱えながら、なお誰かを守ろうとする。一方のイチローは、傷つくことすら拒絶するように世界を丸ごと変えてしまおうとする。似ているようでいて正反対の道を行く二人が激突する光景は、本作の核とも呼べる名シーンだった。

アクション面では、昭和の特撮を彷彿とさせる生身感たっぷりの戦闘が魅力だ。近年の作品と比べればワイヤーアクションやCG合成も多用されているが、それでも要所では地に足のついた「手に汗握るバトル」が展開される。その際に飛び散る血飛沫が映える演出や、やたら重たい打撃音などは好みが分かれそうだが、自分としては臨場感が高くて見応えがあると感じた。

そして終盤にかけては、本郷と一文字隼人の“ダブル”とも呼ぶべき共闘に目が離せなくなる。一文字は「バイクが好き」「群れるのは性に合わない」と公言する自由人だが、本郷との対立を経てこそ共闘の価値を見出すようになる。ここからがまた熱い。もともと天涯孤独同士が対立していたはずの二人が、ある種の友情ともいえる結束で協力する姿は、ベタと言われようが熱く盛り上がってしまうのだ。

特に印象的だったのは、本郷が消耗しきった状態でも諦めず、イチローの企みを食い止めようとする終盤のシークエンス。彼が限界ギリギリで振り絞った行動は、まさに「ヒーロー」と呼ぶにふさわしいものだった。最終的には悲しい結末も待ち受けているのだが、「遺志を託す」という形で新たな戦いの可能性を示している。二人そろった姿こそが理想なのかもしれないが、現実には誰かが先に倒れ、誰かがそれを受け継いでいく。そうしたバトンリレーの切なさも本作の醍醐味だろう。

ビジュアル面で言えば、1号・2号のスーツデザインは昭和版を忠実に反映しつつも、無骨さとシャープさを両立させているように見えた。仮面ライダーにおける印象的なマスクの丸みや複眼の赤い光、そして黒いボディとコートの組み合わせが、どこか時代を超えた趣を放っている。劇中でのヘルメットの着脱にも独特の存在感があり、「仮面をかぶる時、本郷は別の人格になってしまうのではないか」という恐れがビシビシ伝わってくる。この“仮面をつける”行為の重さが、単なる変身シーン以上のドラマを生んでいるのだ。

総合的に見ると、本作は「重さ」「暗さ」「寂しさ」を武器にしながら、それでも最後まで希望や優しさを諦めない姿勢が魅力的であると思う。ある意味では見る人を選ぶ作品かもしれないが、コンパクトな尺の中に多彩な要素をぎゅっと詰め込み、なおかつ旧作のファンが思わず唸る仕掛けを散りばめた点は評価に値する。

ただし、人によっては「テンポが急ぎすぎて説明不足」「戦闘シーンがリアルすぎる」と感じることもあるだろう。そこを許容できるかどうかで、この作品の体感温度は大きく変わる。個人的には、「頭で理屈をこねずに勢いに身を委ねるのが正解」と思える映画だった。

アクション、ドラマ、キャラクター描写、どれを切り取っても尖った要素が多い。良くも悪くも「とことん振り切った」作りをしているため、一度観ただけでは消化しきれない部分があるかもしれない。しかし、この混沌とした熱量こそが最大の魅力という気もする。原作や昭和版を徹底的に愛していながら、その一方で現代の映像やテーマに挑む実験精神は見事だ。

最終的な印象を一言でまとめるならば、「孤独を抱えた者たちが、それでも手を取り合う物語」といったところだろう。昭和のヒーローが持つ泥臭さと、令和の作家性がぶつかり合う化学反応が見たいならば、じゅうぶん視聴に値する作品である。古き良きエッセンスを懐かしみたい人も、今風の斬新な解釈を求める人も、一度は体験してみると新たな発見があるだろう。

映画「シン・仮面ライダー」はこんな人にオススメ!

まず、昭和の特撮ヒーローが好きな人には強く推したい。クラシックなスーツデザインや「どこか荒々しいアクション」は、昔ながらの仮面ライダーを愛する者にとっては魅力たっぷりのはずだ。懐かしい雰囲気を感じつつも、現代の技術と表現が融合しているので、単なる古典の再現では終わらない仕上がりになっている。

また、脚本や演出において「挫折」「孤独」「復活」といった要素が多く散りばめられているので、人間ドラマの濃厚さを求める人にも向いている。派手な爆発や大人数の乱闘シーンばかりを見せるわけではなく、むしろ少人数の対話や心のぶつかり合いに比重が置かれているからだ。深刻な場面が続く一方で、キャラクター同士のやり取りに微妙な掛け合いがあり、そこから不思議な温かさを感じる瞬間もある。

一方で、「明るく痛快な娯楽作品を観たい」「テンポ良く、説明しやすいドラマがいい」という人には、少しハードルが高いかもしれない。暴力描写も生々しく、物語の合間に重厚な演出が挟まるため、気軽に楽しむには若干骨が折れる部分もある。しかし、そういった強烈なシーンがあるからこそ、主人公の優しさや仲間との絆が際立つ仕掛けになっているのだ。

さらに、近年の技術で表現されるCGやVFXも目の付けどころである。完全にリアル志向とは言い難いが、その微妙な“不自然さ”がかえって特撮らしい魅力を生み出している。最新の映像体験を求める層というよりは、あえて荒々しさを残した特撮的ロマンに惹かれる人がより楽しめるだろう。

本作は「一筋縄ではいかないヒーロー映画」が観たい、そして「昭和と令和の混血的魅力」を味わいたい人にぴったりだ。

まとめ

本作は、従来の仮面ライダーが培ってきた精神性や世界観を踏襲しつつ、あえて荒削りな演出やドロドロした人間模様を押し出している。だからこそ、観る側を問い詰めるようなインパクトがあり、「好きになるか嫌いになるか、どっちかに振り切れそう」という刺激が詰まっている。

しかし、その中核にあるのはやはり「大切な人を守りたい」「力を正しく使いたい」という真っ当な欲求だ。本郷猛と一文字隼人の関係性が象徴するように、孤独な戦士同士が手を取り合う展開はベタなようでいて胸を打つ。結局、ヒーロー物の王道は「守るべきものがあり、それを貫く意志があるか」であり、本作はその熱さを大事にしていると思う。

惜しい点があるとすれば、強烈なビジュアル表現や設定に慣れず戸惑う場面があるかもしれないこと。それでも「新たな時代の仮面ライダーを追求したい」「あの斬新な世界を受け入れてみたい」と思うならば、足を運ぶ価値は十分にある。ひとたびハマれば、きっとクセになるはずだ。