映画「沈黙の艦隊」公式アカウント

映画「沈黙の艦隊」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

大沢たかお主演作品ということで、まずは潜水艦アクションのスケールに期待したのだが、蓋を開けてみたら想像を超える“深海サスペンス”が待っていた。スクリーンに映し出される巨大な潜水艦の迫力もさることながら、本作が秘めたる社会派ドラマの熱量がじわじわと滲むのが印象的である。いわゆる“軍事もの”という括りを軽やかに超え、人間同士の思惑がせめぎ合う展開に目が離せなくなった。深町艦長役の玉木宏が放つ情熱と、大沢たかお演じる海江田艦長の得体の知れない魅力が画面で激突するさまは、日本映画ではなかなか見られない空気感だ。観る人を選びそうな題材ではあるものの、実際に鑑賞すると潜水艦の狭い艦内で起こる人間ドラマにどこか親しみが生まれるから不思議である。

そんな“海の底”の密室劇に加え、海上と陸上それぞれの政治的思惑も同時進行で進むため、気づけば観客の頭の中も情報戦に巻きこまれること請け合いだ。エンタメとして爽快に楽しみながらも、「国防」や「核」という重いテーマに直面させられる本作。スリリングなのに、どこか痛快でもある。そんな感覚がたまらない映画体験だった。

映画「沈黙の艦隊」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「沈黙の艦隊」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからはより突っこんだ内容に踏み込んで、本編のネタバレを含む感想を語っていく。なお、本作は潜水艦という特殊環境を舞台にしていながらも、人間の心理ドラマを深く描き出した点が大きな魅力だと感じた。単なる軍事アクションに留まらず、政治や外交、そして個々の心情を複雑に絡めることで先の読めないストーリーを構築している。それを支えるキャスト陣の力演にも注目していきたい。

まず大沢たかおが演じる海江田四郎艦長だが、“何を考えているかわからない”というミステリアスな雰囲気を全身から放ちつつ、いざ艦を指揮する段になると圧倒的な存在感を示してくる。とくに潜水艦「やまなみ」が沈んだと偽装された後、彼が“米海軍の原子力潜水艦”に乗りこみ独自の行動を開始する流れは、原作ファンにとっては大きな見せ場の一つだ。原作連載当時とは時代背景も異なるため、映画オリジナルの改変はあるのだが、大沢たかおの迫真演技によってスケールダウンを感じさせない説得力が生まれている。

海江田艦長に真っ向から対峙する深町艦長を演じる玉木宏も見事だ。潜水艦「たつなみ」を率いる際の厳めしい表情と、海江田艦長への個人的なわだかまりを抱えたまま指揮を執る姿が、人間臭くて妙に胸を打つ。劇中では、かつて同じ艦に乗っていたころに生じた“ある犠牲”をめぐる確執がふたりを深く結びつけているのだが、玉木宏の熱量高い演技がそのドラマを加速させ、物語にリアリティを付与していた。

さらに、女性キャスト陣の活躍も見逃せない。上戸彩や水川あさみのような実力派が参加していることで、潜水艦内における人間関係に多彩なカラーが加わっているのだ。とくに水川あさみが演じる副長の存在は、旧来の“男性ばかり”なイメージを覆す要素としても新鮮だった。潜水艦は男性社会という印象が強いが、現代の自衛隊では女性自衛官の活躍は当たり前になりつつある。そのリアルを踏まえたキャスティングが映画全体の現代性を支えていると感じた。

また、ユースケ・サンタマリアや中村倫也、そして江口洋介や笹野高史、橋爪功といった面々が政治サイドや海上自衛隊の上層部として絡んでくるのも目が離せないポイントである。とくに江口洋介が演じる官房長官の海原渉は、父であり“影の総理”とも呼ばれる海原大悟(橋爪功)との確執に苦しむ立場で、物語の鍵を握る存在となっている。若さゆえの正義感なのか、父への反骨精神なのか、その揺れ動きが国政の行方にどう影響を及ぼすのか最後まで興味深く見守った。

潜水艦アクションの面では、CG技術と実際の潜水艦を使った撮影の融合が大きな迫力を生み出しているという印象だ。日本映画で潜水艦同士の攻防をここまで映像的に描いた例は少なく、舵を切る音や艦のきしむ音が劇場の音響で響くたびに、海中を漂う独特の恐怖が伝わってくる。高速で移動する原潜同士の読み合いは、言うなれば海中チェスのような趣があるが、本作ではその緊張感に政治ドラマが絡むため、一瞬たりとも気が抜けない。

大沢たかお扮する海江田艦長が“核”という切り札をちらつかせ、米海軍の艦隊を翻弄するシーンは本作の大きな山場のひとつだ。核の存在を“脅し”として活用しつつも、その背後にどのような信念を隠しているのかを明かさないことで、観客は「海江田四郎とは一体何者なのか?」と考えさせられる。そこから一気に独立国家「やまと」の建国宣言へ雪崩れ込む展開は衝撃的だが、このあたりの突拍子もないスケールが本作最大の魅力だろう。潜水艦という一点から国家を名乗る馬鹿げた発想が、不思議と空想物語に感じられないリアルさで描かれているからこそ、観客はその行く末を真剣に追いかけたくなる。

一方で、この“潜水艦国家”に挑む米第7艦隊の描写も見ごたえ抜群だ。アレクス・ポーノビッチやリック・アムスバリーといった外国人俳優陣の迫力も相まって、いかにアメリカが軍事力を誇示しているかがよく伝わってくる。大統領役や軍幹部らの“撃沈命令”が下る一連のシークエンスでは、潜水艦内部で繰り広げられる作戦行動との対比が見事である。最先端兵器をもってしても“姿なき敵”を捕らえきれないもどかしさが、海軍側からも切実に伝わってきた。

そして、潜水艦「やまと」を仕留めようとする玉木宏率いる海自「たつなみ」も、決して脇役にとどまらない存在感を放つ。日本政府としては、この独立潜水艦が“日本製”であることを認めたくない。しかし同胞が乗っている艦だからこそ、撃沈は避けたい。そうしたジレンマの中で葛藤する深町艦長の行動原理は、個人的な因縁と国への忠誠がせめぎ合う象徴でもある。彼の視点を通じて、観客は海江田艦長の狙いを追いながらも「お前が本当に守りたいものは何だ?」と自問するようになるのだ。

キャストの多彩さで言えば、中村倫也や中村蒼、松岡広大、前原滉、岡本多緒、手塚とおる、酒向芳など、名前を挙げるとキリがないほど豪華な布陣が集結しているのも見どころだ。とくに笹野高史が演じる首相の竹上や、夏川結衣が関わる政治セクションは、日本の政治がいかにアメリカに依存し、国際情勢の顔色をうかがっているかが如実に描かれていて、“この国の弱点”を痛烈に突きつけられる。

本編を通して感じられる最大のテーマは、「強大な力で脅し合うことで本当に平和は保たれるのか?」という問いかけだろう。潜水艦という密室空間で研ぎ澄まされる人々の欲望と理想は、一見するとフィクションだが、世界を取り巻く現実とそう遠くないはずだ。実際、本作には核抑止力を巡る議論や日米関係のリアリティが随所に盛りこまれている。それでも海江田艦長は“戦争を終わらせるため”に動き始めているらしく、その目的を知りたいという好奇心で一気に引き込まれるのが本作の面白さである。

また、原作漫画は1988年から1996年に連載され、当時は米ソ冷戦やその崩壊など国際情勢が大きく変化する激動期だった。映画版は2020年代の状況に合わせて設定をアップデートし、女性自衛官の登場や最新のテクノロジー描写を盛りこんでいる。そうした改変が自然に機能している点も評価できる。懐かしの原作を尊重しつつ、現代の観客にも伝わる問題意識を取り込んでいるのだ。

ただし、本作は“まだ序章”という印象も強い。実際に映画を観終わっても、“潜水艦国家”として立ち上がった「やまと」がこれからどう動くのか、そして日本政府やアメリカ政府がどこまで強硬手段を取るのか、その全貌は明らかになっていない。観客としては「ここからが本番だろうに!」と身もだえする終わり方で、続編への期待をいやでも高められる。ある意味で、それがまた“次も絶対に観たい”というモチベーションにつながるというわけだ。

約2時間の尺の中で、潜水艦アクションと政治ドラマ、そして登場人物たちの熱い思いが爆発しているので、情報量は多い。しかし雑味というよりは「一度で消化しきれない魅力」が詰まっている感覚に近い。とくに大沢たかおが放つ凄みは一種の魔力に近く、「この人、本気で潜水艦に魂を売りわたしたんじゃないか?」と思わせるほど艦長役が似合っている。本作が実現するまでに長い年月を費やしたという経緯も含めて、大沢たかおの熱量を感じられる点は本当に面白いところだ。

本作は“深い海の底から世界を変えようとする男たち”の物語であり、国家の理不尽さや個人の葛藤を一挙に楽しめるエンタテインメントに仕上がっている。潜水艦ものといえば硬派で難解な軍事作品というイメージを持つ人もいるかもしれないが、その先入観は良い意味で裏切られるはずだ。あれこれ感情を揺さぶられながらも、結局は“まだまだ続きがある”と締めくくられるので、エンドクレジット後に「早く続編を…!」という気持ちでいっぱいになることは間違いない。

独立国家「やまと」がどこへ向かうのか、海江田艦長の真の目的は何なのか、深町艦長との決着はどうなるのか。このまま世間に存在を隠しきれるのかという問題もあり、日本政府や米政府がどのように動くのかも目が離せない。いずれにせよ、本作は一度鑑賞すればその続きを待ちわびることになるタイプの作品だ。艦内の息苦しいほど密度の高い空気感や、国家を動かすほどのパワーを宿した潜水艦が放つロマンを味わいたい人には、大いに刺さるだろう。

映画「沈黙の艦隊」はこんな人にオススメ!

ここでは約800文字ほどを目安に、本作をおすすめしたい人のタイプを挙げてみたい。まず、潜水艦アクションや軍事サスペンスが好きな人にとっては、絶好の作品である。海中を舞台にした知略戦はもちろん、“国家”という壮大なスケールを1隻で相手に回す展開は、胸が高鳴る要素にあふれている。

一方、骨太の政治劇が好みの人にも打ってつけだ。国際情勢を操る黒幕たちの動きや、日本政府の内部で繰り広げられる権力争いがストーリーの軸に据えられているため、単なるアクション映画とは違う味わいを堪能できる。特に「どの国も腹の内は一緒なのか?」といった、国際政治に関する現実味ある疑問を抱えている人なら、本作が提示する議題に大いに関心を持つだろう。

また、大沢たかおや玉木宏、上戸彩、水川あさみ、江口洋介など、豪華俳優陣の顔ぶれを追いかけたい人にとっても魅力十分である。二枚目俳優の硬派な一面をじっくり楽しめるし、女性キャスト陣が見せる芯の強さも見ものだ。潜水艦内部だけでなく地上の政治家たちも名優ぞろいなので、芝居合戦を存分に味わいたい人にもおすすめである。

さらに、単なる娯楽映画ではなく、背後に潜む社会派テーマに触れてみたいという人には打ってつけと言えよう。核の問題や自衛隊の在り方、日米同盟の根本に関わる是非など、“大きな問い”が随所で揺さぶりをかけてくる。そうした問題を重苦しく論じるだけではなく、あくまで劇映画として楽しませながら考えさせるところが、本作の懐の深さだ。

スリルある軍事アクションを求める人も、政治ドラマを好む人も、実力派俳優陣の演技を味わいたい人も満足できるはずである。潜水艦という閉鎖空間を通じて、人間社会や国家運営の矛盾を浮き彫りにする視点は必見だ。いろいろな要素が詰まっているため、幅広い層に手に取ってほしい作品である。

まとめ

この「沈黙の艦隊」は、潜水艦アクションと重厚な政治ドラマを融合させた意欲作である。大沢たかお演じる海江田艦長が放つカリスマ性や、玉木宏扮する深町艦長の骨太な人間味が作品を力強く牽引していく。狭い艦内で繰り広げられる心理戦に加え、国際的なパワーバランスを揺るがす“独立国家”という大胆な仕掛けが見どころだ。観終わった後には、「潜水艦一隻が本気で世界を動かせるのか?」という疑問と同時に、「もしかしたらあり得るのでは?」という妙な説得力が胸に残る。

また、女性隊員の登場や現代技術を取り入れた映像が、本来は重たくなりがちな軍事題材を程よく今の時代にフィットさせている点も見逃せない。加えて、米海軍や日本政府の腹黒い思惑がめまぐるしく動くため、観る側も情報を追いかけるのに忙しく、気づけば作品世界にどっぷり浸ってしまう。気になるのは続編の行方だが、ここで終わらせてしまうのはあまりに惜しい。今後どのような展開が待っているのか、想像をかき立てられる結末に“続きはまだか”と待ち遠しくなってしまった。ここまで仕掛け盛りだくさんの潜水艦エンタテインメントはそうそうないので、ぜひ一度は観ておくべき作品だと断言できる。