政治家一族を舞台にしたサスペンスでありながら、身近な家族ドラマや社会風刺まで盛り込んだ作品である。まずはタイトルからして物々しく、しかも誘拐事件が起点というのだから穏やかではない。だが実際に見てみると、真正面から権力と対峙する熱い物語というより、政治の闇に翻弄される庶民の姿が浮き彫りになる展開が待っていた。
主演は中島健人。これまで明るい青年像を演じるイメージが強かったが、本作では政治家の秘書という複雑な役柄を担っている。さらに堤真一が重厚な国会議員役を演じており、家族か権力かという究極の選択を迫られる姿が軸になっている点が興味深い。予告編からはかなりシリアスな“誘拐サスペンス”を想像させるが、蓋を開けてみると中盤以降は裏工作や派閥争いが絡み合い、登場人物が次々と牙を剥くような政治ドラマの要素が強まっていく。
誘拐犯が要求するのは身代金ではなく、議員としての“罪”の自白。ありそうでなかったネタゆえに期待感は高まるが、果たしてこの設定が最後まで強い緊張感を保っているのかどうか、そこが見どころになっている。ここでは良い点も惜しい点も率直に掘り下げながら、本編の魅力と微妙な部分の両方を語っていきたいと思う。何せ「おまえの罪を自白しろ」という強烈なタイトルだ。拍子抜けになってはもったいない。そう感じながら鑑賞した結果、冒頭から中盤までは結構刺激的だったと断言できる。
とはいえ、終盤で急に規模感が萎んだように思えたり、動機に首をかしげたくなる部分もある。こうしたモヤモヤ含みの作品こそ一度視聴した人の意見を聞きたいところだが、ここでは筆者の“激辛”視点で、気になった細部を盛大にツッコんでいくつもりである。さて、一体どんな結末が待っているのか、これから存分に語っていこう。
映画「おまえの罪を自白しろ」の個人的評価
評価:★★☆☆☆
映画「おまえの罪を自白しろ」の感想・レビュー(ネタバレあり)
結論から言うと、政治劇としての面白さと誘拐サスペンスとしての盛り上げ方が、少々チグハグに感じられた作品であった。誘拐事件を発端に政治の闇を炙り出すという試みは目新しく、導入部分はかなりわくわくさせられる。孫娘を人質に取られた国会議員の宇田清治郎(堤真一)が、政治家としてのプライドと家族を守りたい感情の間で葛藤する姿には、それなりに説得力があるからだ。しかも“身代金”ではなく“罪の自白”を要求されるという筋立ては、これまでありがちな誘拐映画と違ってインパクト十分である。
ところが、いざ物語が進むに従い明るみに出るのは、政治家同士の裏工作や利権の押し付け合い、家族の中にいる密告者、そして主犯をめぐる推理要素など盛りだくさんな割に、一つ一つの掘り下げがやや散漫に見えた点が惜しい。いわば“政治スキャンダル×誘拐事件”という二大要素を掛け合わせた野心作でありながら、そこが完全に融合しきらず、後半は“犯人はいったい誰なのか”という単純な方向に収束してしまった印象が強いのだ。
まず良かった点を挙げると、本作は冒頭から中盤にかけての展開が非常にテンポよく進むことである。宇田家の孫娘が誘拐され、犯人が「罪を白状しろ」と告げる。清治郎は渋々ながら記者会見で過去の汚点を白状するが、それは実は本命の罪ではなく、犯人から「まだ隠していることがあるだろう」と突きつけられる。ここまでは“タイムリミット迫る家族救出劇”としての緊迫感がうまく機能している。清治郎の秘書を務める次男・晄司(中島健人)も、父を説得するために動き回り、政治家と庶民の板挟みに揺れる姿が描かれている。その過程で、政界の黒い取引や親子の確執などが徐々に浮き彫りになっていくため、「このままどんな大爆弾が投下されるのか」と期待が高まるのだ。
さらに役者陣の熱量も見どころである。中島健人はこれまでアイドルらしい爽やかさが売りのイメージがあったが、本作では“正義感はあるが政治の世界で煮え切らない若き秘書”という難しいポジションを、わりと気合い十分に演じている。どこか危うい雰囲気も漂わせながら、政党の中で味方だと思っていた人間が敵に回ったり、その逆もあったりする混沌の世界を疾走する姿が目新しい。堤真一の議員役は堂に入ったもので、傲慢なのか家族思いなのか一筋縄ではいかない性格を自然に体現しており、さすがベテランだと感じた。
一方で物足りなさを感じたのは、核心である誘拐犯の動機がどうにも地味な点である。終盤で明かされる犯人姉弟の事情は、確かに政治家による公共事業の予定地変更に翻弄された庶民の悲劇であり、それ自体は同情に値する。しかし、そこに至るまでのプロセスが破天荒で、しかも誘拐犯が得体の知れぬハッカー並みに情報を集めていたり、密かに孫娘を連れ去ったりする手際の良さが、やや説得力に欠ける。さらには、孫娘を人質に政治家への不満を晴らそうとする行為が、あまりに突拍子もない。大物政治家が裏で糸を引く利権操作に対し、もっと鋭いカウンターパンチをお見舞いしてくれるかと思いきや、最終的には「誘拐しておどすしか思いつかなかった」という結末が少々寂しい。
また、警察や政敵との応酬における“見せ場”が割とあっさり終わる点も引っかかった。特に、晄司が事情を探るうちに幹事長との密談を取り付け、政権の中枢である総理を裏切るか否かという瀬戸際まで行く流れは、スリルがあるにはあるのだが、展開が早い分やや強引な印象もある。「そんな大ネタを一瞬で片づけるのか」と拍子抜けした観客もいるだろうし、そのまま一気に収束してしまう後半は盛り上がりに欠けると感じるかもしれない。
加えてキャスティングによるサプライズ要素が、むしろマイナスに働いた面もあると思う。特に尾野真千子のような実力派が脇役らしい立ち位置で登場すると、「この人がただの脇で終わるはずがない」と勘ぐられるのは当然だ。結果的に「やはり何か裏があるのでは?」と疑われやすくなり、犯人像を推測する際のトリック的要素が薄れてしまった。
とはいえ、政治家の口から飛び出す汚職まみれの実態や、表舞台では綺麗事を言いながら裏ではドロドロの権力闘争を繰り返している雰囲気はしっかり描かれており、そのあたりは妙にリアルで面白い。地元の人々のためを思って政治家を目指したはずが、いつの間にか党や派閥のしがらみに絡め取られてしまう姿は、人間ドラマとしても見応えがあるし、「実際の政治も大差ないのでは?」と皮肉を感じさせる。
ラストシーンでは、新たに総理になった人物と晄司が国会という大舞台で対峙する場面で幕を閉じる。清治郎が議員を辞職し、晄司が世襲のような形で政治家デビューを果たすわけだが、そこには「これからは自分の理想を実現するために動くのか、それともまた同じ穴のムジナになるのか」という不穏な予感が混在している。個人的には、こうした含みを持たせたエンディング自体は悪くないが、誘拐犯の動機が大仕掛けに見合わないため、ラストの盛り上がりはやや尻すぼみに感じた。
もっとも、出演陣は豪華で、重厚な政治劇かつ誘拐サスペンスという斬新な構図だけでも十分な見所はある。監督の水田伸生はこれまでコメディ色のある作品も手がけてきたが、本作ではコメディとは真逆の世界をテンポよくまとめ上げており、前半のスリリングさだけでも一見の価値はあると思う。問題はクライマックスに向けて加速すべきところが、急に減速してしまう点だ。
特に、犯人たちが土砂や地中に父の遺体を隠した一件は「そこまで追いつめられる前に手があっただろう」と思わずツッコミを入れたくなるし、政治家側があっさり罪を認めるわりに本筋の大罪はなかなか明かされない。結果として観客は、誘拐事件のスリルよりも政治茶番の矛盾に気を取られがちになり、「結局誰が本当の黒幕なのか」「なぜこんなに強引な展開なのか」といった不満を抱きやすい。
総合的には、導入の斬新さと豪華キャストの掛け合いで楽しませてくれる一方、終盤の落としどころにすっきりしない後味を残す作品だと感じた。個人的な評価を★2にしたのは、物語の前半が期待値を上げてくれた分、その後の展開がやや空回りに見えてしまったためである。もう少し政治サスペンスとして踏み込んだ深みや、誘拐犯の背景に衝撃的な社会問題を織り込むなど、観客を唸らせる要素があれば評価は違っただろう。
それでも、一部のシーンには鋭い皮肉が散りばめられており、時代に合わせて「政治家の裏側を暴く」という題材に興味がある人なら、ある程度楽しめるはずだ。派閥争いに派手なアクションこそないが、あちらを立てればこちらが潰れる…という駆け引きの息苦しさはそこそこ伝わってくる。どうしてもラストの犯人動機に不満が残るのは事実だが、そこを承知のうえで“政治エンターテインメント”として眺めるならば悪くない。
要は、“盛大に振りかぶって地味に着地”という印象の作品だが、中島健人ファンや堤真一の豪快な演技に魅了されたい人にはおすすめできる。もし続編があるなら、ここで政治家となった晄司がどんな手段で頂点を狙うのか、さらにドロドロの駆け引きを見せるかもしれず、続編で挽回してくれれば嬉しいところだ。というわけで、総じて“評価:★★☆☆☆”。
良くも悪くも意外性はあるが、騙し合いの苛烈さを求める観客にはやや物足りないかもしれない。一方、政治と家族ドラマの融合に興味があれば、前半の緊迫感だけでも十分に味わう価値があると思う。見終わった後に「この議員たち、どいつもこいつも…」と苦笑いしつつ、現実の政治に思いを馳せる人も少なくないだろう。
ここまで言いたい放題述べてきたが、やはり作品にはそれぞれの味わいがある。本作が描きたかったのは、裏の闇に手を染めてしまう人間の哀しさや、それでも家族を守ろうと必死になる政治家の意外な一面だろう。いくら権力を握っていても、身内が誘拐されれば慌てふためき、人間くささがあらわになる。その人間くささこそが、本作の数少ない魅力的な部分かもしれない。
ただ、どうせならラストでもうひと押し、観客の溜飲を下げるような“政治家の断罪シーン”が見たかったのも本音である。清治郎以外の権力者たちはあまり傷を負わないまま終わってしまうため、正直言って消化不良の面は否めない。痛快なカタルシスを望んでいた人には物足りない終盤だが、一周回って「こんなのが現実ってことか」と苦い笑いを誘う締め方とも言えるだろう。
以上が、本作を鑑賞して感じた正直なところである。冒頭の“罪を白状しろ”という衝撃的な仕掛けをバンとぶち上げながら、最後に地味な身内トラブルに落ち着くギャップは好みが分かれるはずだ。もし興味があれば、俳優たちの奮闘と、政界の権謀術数の縮図を疑似体験するつもりで楽しんでみてはいかがだろうか。
映画「おまえの罪を自白しろ」はこんな人にオススメ!
まず、中島健人が出演する社会派ドラマを見たい人にはうってつけだと思う。普段とは違ったシリアスな面や、政治の濁流に揉まれていく青年の姿を演じる中島健人を堪能するにはちょうど良い作品である。アイドル映画という軽いノリをイメージしていたら、意外や意外、そこそこ骨太なプロットに驚かされるかもしれない。
また、政治汚職や派閥争いなどのリアルな暗部に興味がある人にもそれなりに楽しめる。もちろんどこまで真実味があるのかは分からないが、“表”で笑顔を振りまきながら“裏”で利益誘導や裏切りを繰り返す人間模様が描かれるので、「政治ってやっぱり怖い」と妙に納得してしまう部分はある。
さらに、堤真一ファンも見逃せないだろう。国会議員という権威の塊みたいな役柄ながら、どこか情けない一面もあって、その落差が面白い。長年のキャリアを積んだ堤真一が、中島健人ら若手と共演することで生まれる緊迫感はやはり見ものだ。政治家としての“親父の威厳”を振りかざしつつ、家族を守るために葛藤する姿に、人間らしさを感じ取れる。
あとは、社会派サスペンスが好きだけど、ガチガチに重苦しいものはちょっと…という人にも向いているかもしれない。深刻な誘拐事件を扱いながらもテンポは比較的軽快で、すぐに犯人探しが動き出すし、記者会見などの場面展開が多彩なので飽きにくい。ややご都合主義的なところもあるため、厳密さを求めすぎると物足りない可能性はあるが、逆にいえば気楽に見やすいという利点でもある。
ただし、本格的な政治劇を期待すると少々肩透かしを食らうかもしれない。もっと根深い腐敗構造の告発や、徹底的に追い詰められるスリルを求める人にはパンチ不足だろう。総じて、ドラマチックな展開をそこそこ楽しみたい人、豪華キャストが繰り広げる騒動を観察したい人、中島健人の新境地を見たい人には適した一本だと言える。
まとめ
以上、本作の流れや見どころ、そして気になる惜しい点を掘り下げてみた。身代金の代わりに“罪”の告白を迫るという設定は魅力的であり、それだけで十分に話題性を持ち得る。序盤の誘拐シーンから記者会見に至るまではテンションが高く、このまま波乱が加速していくのかと期待を抱かせるのも事実だ。
しかし、どうしても後半になると政治家たちの駆け引きが表面だけに終始し、誘拐の真相が“庶民の苦しみ”というやや地味な結末に落ち着くことから、大味な筋立てのわりに爽快感は薄めである。せっかくの社会派サスペンスなのだから、もっと徹底的に巨悪を炙り出してほしかったと思う人もいるだろう。
だが、政治の腐敗に振り回される悲哀や、最終的に新たな政治家となった晄司がどんな道を進むのかを想像させる締め方は、ある意味ではリアルかもしれない。大規模な汚職を暴いたとしても、しぶとく生き延びる者はいるし、新しい体制でも似たような構造が続いていく可能性がある。そこに一抹の苦々しさを感じつつ、豪華キャストの迫力ある演技を楽しめる人には悪くない作品だろう。
要するに、刺激的な始まりとそこそこの政治ドラマ、そして肩透かし気味のオチが同居した、やや評価の分かれそうな一本だというのが率直な印象だ。独特の空気感を味わってみたい方は、一度チャレンジしてみてはいかがだろうか。