映画「ミステリと言う勿れ」公式サイト

映画「ミステリと言う勿れ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は菅田将暉が主演を務める実写化作品であり、ドラマ版でも人気を博した大学生・久能整の物語である。今回は広島を舞台に、遺産相続にまつわる厄介な出来事へと首を突っ込み、観客の想像を超える騒動へ巻き込まれていく。ほのぼのとしたトーンかと思いきや、実際には命や秘密が絡むパワフルな展開が押し寄せてくるのが見どころだ。冒頭から謎が次々投げ込まれ、整のおしゃべりな考察がこれでもかと炸裂する。とはいえ、つかみどころのない語り口にハマるかどうかで楽しみ方が変わるかもしれない。

本編を味わいながら「なるほど、そうきたか!」と膝を打つか、それとも「ちょっと待ってくれ…」と眉をひそめるか。いずれにせよ、この映画は良くも悪くも視聴者の心をかき乱す要素に満ちている。そんな振り切った雰囲気こそが魅力なのだろう。今回は、そんな映画「ミステリと言う勿れ」について、率直かつちょっと辛口な視点を交えて語っていきたいと思う。

映画「ミステリと言う勿れ」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「ミステリと言う勿れ」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからは作品の核心に触れる内容を含むので、未見の方は注意してほしい。まず、本作の魅力は何といっても主人公・久能整の不思議な存在感である。大学生にしては落ち着きすぎというか、どこか浮世離れした雰囲気を漂わせているが、そこが逆に面白い。菅田将暉自身が30代に差しかかってもなお「妙にハマる」のがすごいところだ。ドラマ版からのファンなら、この映画でも整の語り口にしっかり付き合う覚悟を決めて劇場に足を運ぶはずだ。

物語は、整が美術展を見に訪れた広島での出来事を起点に動き出す。そこで出会ったのが狩集汐路という女子高生。どうやら彼女の一族には、どでかい遺産相続をめぐる厄介事があり、過去にはなんと死者まで出ているという。弁護士や税理士がやけに怪しく動き回っているし、妙な一族のしきたりもちらついてくる。しかも狩集家の当主が残した謎掛けのような遺言書が発端となり、孫たちは「4つの蔵にあるものを正しい持ち主へ返せ」というお題に挑む羽目になる。このセットアップだけですでに「これはただごとじゃない」と感じるだろう。

実際、序盤はどこか展開が早足で、整が思ったよりもあっさり遺産争いに首を突っ込んでいく。「え、もう広島で謎解き始めるの?」とこちらが追いつく前に話が進むので、とにかく置いていかれないように食らいついていくしかない。汐路をはじめ、相続候補となる従兄妹の面々はそれぞれバックグラウンドも異なり、性格もばらばら。それゆえ見解の相違や衝突、さらには怪しい仕掛けを巡って不穏な出来事が次々と起こるのだから油断ならない。だが、どうも序盤の段階で「黒幕はこいつじゃないのか?」と薄々察してしまうところがある。物語自体は遺産相続の裏側に潜む壮大な家系の秘密へ突き進んでいくが、本格的なサスペンスというより「これはもう犯人を絞り込ませたいのかな?」と勘づかされる面があるのだ。

とはいえ、本作が狙うポイントは単純な犯人探しにとどまらない。遺産問題の裏にいる“古くからの因習”や“呪いに近い家族のルール”こそが焦点になっている。物語中盤で明かされる「鬼の集」という芝居の存在と、その脚本家の不審な死はかなり衝撃的である。狩集家のルーツが、過去に“巻き毛の肌の白い鬼”たちが他家を乗っ取り、その後も似た容姿の子孫を容赦なく排除してきた、という荒唐無稽とも思える歴史へつながっていく。もしこれが本当なら、「そんな時代遅れのやり方が現代まで続いているのか?」と疑わざるを得ないが、どうやら一部の人物は本気で「掟」を守っているらしい。そこへ整が全力でツッコミを入れ、「そんなものはおかしいし、こんな連鎖は断ち切らねばならない」と訴えるのが見応えだ。まるで時代劇の呪縛と現代知性の対決のようで、ちょっと笑える場面も多い。

狩集汐路がなぜ犯人をおびき寄せるための仕掛けをしたのか、その子どもっぽい動機には悲しさがある。子どもの頃のトラウマや思い込みは「乾く前のセメント」のようにこびりつき、大人になっても引きずる。まさに整が彼女を説得するシーンは、本作における大事なメッセージを形づくる箇所だ。「子どもってのは、汚れたら洗えばOKというわけじゃない。いったん跡がついたら簡単には消せない」という整の話しぶりは印象的である。汐路のやったこと自体は褒められたものでないが、彼女が自分なりに行き場を探していたのだなという切なさを帯びていて、鑑賞後には少し胸が痛くなる。

一方、後半で急浮上する「実はもっと大きな陰謀がうごめいていた」という流れは、正直言うと意外性よりも「やっぱりね」と思う場面が多い。早い段階から妙な発言をしていたり、隙を見せていたりする人物が、一連の不審死や過去の殺害を主導していたという展開は、ミステリーとしての驚きは薄い。だが、そこから掘り下げられる「犯行の理由」が、先祖代々から受け継がれた捏造された歴史や“鬼の集”というバカバカしいほど恐ろしいルールに忠実すぎるがゆえ、という点が興味深い。倫理観の崩壊とも言えるし、やり方の回りくどさに「それは現代的にどうなんだ?」とツッコミたくなるのだが、そこがまた異様な空気を醸し出している。

犯人の計画にはツメの甘さも目立つ。どうにも不用意にボロを出しすぎるせいで、観る側としては途中から「ああ、もう完全に確定演出やな…」と思ってしまう。事件の核心を本人がペラペラ説明してしまうあたりも演出の意図かもしれないが、もう少し緊張感があっても良かった気もする。それでも、ラストで犯人が放火を試みようとして警察に囲まれる場面は、「結果的にここまでやるのか…!」という突き抜けた印象を与えるから不思議だ。自分たちは“崇高な使命”を果たしているつもり、という彼らの歪んだ理屈は狂気的でこそあるが、かえって笑えてしまう部分がある。「そうまでしないと血の秘密を守れないものなのか?」と考え込んでしまうわけだ。

そしてこの映画の最終盤に描かれるのは「本当の血筋」である女性との対面シーンだ。その人物が、汐路や従兄妹たちの親世代に託されていた願いを、アクセサリーとともに語ってくれる瞬間は、なかなか胸にくる。やや唐突な顔ぶれで「おお、ここで松嶋菜々子とは!」となるが、しんみりとした和解や贖罪の演出は悪くない。「当主の陰謀」「不吉な呪いの連鎖」などざわつく要素が多かっただけに、せめて最後はこういう形で報われてほしい…と感じる人も多いだろう。

ただし、俳優陣に有名どころを詰め込んだせいか、一人ひとりの役割が散漫になった印象は否めない。松坂慶子や鈴木保奈美、松嶋菜々子など大物が出てきても、展開上そこまで派手に絡むわけではない。むしろ「え、それで終わり?」と思うほど短いシーンもあり、豪華キャストの無駄遣いに近い部分もあるのが残念ではある。良くも悪くも主役の整と汐路の物語に重点を置いた結果、脇役の動きが広く薄まってしまったということだろう。

そして何より「テレビドラマのスペシャルでよくないか?」という声がちらつきそうな映像テンションは否定できない。広島ロケや大きな屋敷の舞台装置など、劇場向きのスケールを見せようとしてはいるが、脚本のタッチや事件の帰結がそこまで劇場版ならではの迫力かと言われると微妙だ。やはり整の語りをたっぷり楽しむファン向けのサービスが中心であり、劇場の大きなスクリーンで観る必然性は少し薄いかもしれない。だが、それは「整ワールド」を存分に浴びたい観客にとってはさほど問題にならないのかもしれない。

映画「ミステリと言う勿れ」は、テレビシリーズで確立した独特の会話劇と家族の因縁をプラスしたエピソードがガッツリ味わえる作品だ。整の名言やコミカルなやりとりに惹かれた人なら、本作でも間違いなく楽しめる部分はある。逆に、がっつり謎解きを期待すると肩透かしを食らうかもしれないし、テンポの速さや豪華俳優陣の扱いには物足りなさが残る面もある。個人的には「まあ面白かったけど、もう少し映画オリジナルの見せ場が欲しかった」というのが率直な感想である。ぜひ「自分ならどう感じるか」を確かめつつ、整のロジックと口数の多さを楽しんでほしい。

映画「ミステリと言う勿れ」はこんな人にオススメ!

まず、ドラマ版を隅から隅まで観て整の独特なトーク術にハマった方なら、かなり満足できるはずだ。あのモノローグ的な会話劇が、さらにスケールアップした形で映し出されるので、整が延々としゃべる姿をじっくり堪能したい人に向いている。また、家族間の遺産相続や古いしきたりといった問題に関心がある人にもお薦めしたい。現代ではちょっと考えられないような価値観や掟が、恐ろしさと滑稽さを伴って描かれているので、「古臭い家系の呪い」みたいな題材が好きなら楽しめる。

さらに、菅田将暉や原菜乃華、町田啓太、柴咲コウといった俳優陣の競演を一度に味わいたい人にも良い。特に原菜乃華の演じる汐路がけっこうフィーチャーされているので、彼女に注目している方には魅力的だ。ほかにも、ミステリー要素と人間ドラマが混ざったストーリーが好きならまず外さないだろう。大がかりなトリックというより、会話のやり取りと人々の「過去のしがらみ」を解き明かしていく過程がメインなので、観たあとにあれこれ語り合うのも面白い。とはいえ、笑いと同時に重たい家族の秘密に踏み込みたい人向けなので、「深刻な話はちょっと…」という人には合わないかもしれない。

まとめ

映画「ミステリと言う勿れ」は、ドラマ版でおなじみの主人公・久能整が華麗に口を挟みまくり、家族の因縁や掟にメスを入れる作品である。長年染みついた闇を表面化させるようなストーリーゆえに、全体的にはヘビーな題材が詰め込まれているが、その合間合間に整の小気味よい語りが挟まるので、観終わるころには妙な爽快感が残るのも面白い。とはいえ、派手なアクションや超絶トリックを期待すると拍子抜けする部分はあるかもしれない。あくまでセリフを堪能しつつ、会話の中に散りばめられた人間の本音やズレを楽しむスタイルだ。ぜひ劇場へ足を運ぶか、円盤が出たら自宅でゆったり鑑賞し、整がどこまでマシンガントークを炸裂させるかチェックしてみてはいかがだろう。