映画「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」公式サイト

映画「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

汐見夏衛の同名小説を酒井麻衣監督が実写化した本作は、爽やかな映像美と切ない青春模様が印象的な作品である。ボーイズグループJO1の白岩瑠姫が銀髪の高校生・青磁役として映画初主演を務め、優等生だけれど周囲の目を気にしてばかりの茜を久間田琳加が演じる。こう聞くだけでも、いかにも王道の青春恋愛劇を想像する人が多いかもしれない。しかし本作は単なる甘酸っぱい物語に終わらず、笑ってしまうようなやりとりとシリアスな苦悩が程よくブレンドされ、エンドロールが流れる頃には「あれ、さっきまでの自分よりちょっとだけ前向きかも」と思わせてくれる不思議な力がある。

また、ヘアカラーやマスク、そして広々とした空や屋上のシーンなど、“色”の要素がさまざまな形でストーリーを彩っているのも特徴的だ。おそらく本作を観終わったあと、タイトルが示す“夜明け”のイメージに胸の奥をくすぐられる人は少なくないだろう。新鮮な気づきや笑いが織り交ざった青春物語が、どんなスパイスを効かせているのか。ここから先は、思いきってネタバレを含めて語っていく。

映画「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作は汐見夏衛の小説をベースに、テレビドラマ「美しい彼」でも注目を集めた酒井麻衣監督が映像化した青春映画である。舞台は地方の高校。周囲の空気を読みすぎて自分を抑えこみ、マスクを外せない主人公・茜と、銀髪で美術が得意なクラスメイト・青磁との出会いと成長が、丁寧かつ鮮烈に描かれている。

まず、注目すべきは白岩瑠姫の新鮮な存在感だ。JO1という人気グループのメンバーとして華やかなステージに立つ一方、映画は本作が初主演とあって演技面ではまだ伸びしろを感じる部分もある。しかし、それすら青磁というキャラクターの儚さや危うい魅力とうまく重なっているのが面白いところだ。そもそも銀髪というビジュアルのインパクトは大きく、そのルックスに釘付けになる観客も多いだろう。青磁は自由奔放な言動で周囲を気にしないように見えるが、実は健康面で重大な不安を抱え、孤独感に苛まれながらも必死に生きている。そんなギャップを体現するうえで、白岩の透明感や独特の存在感がぴったりとハマっているように思う。

一方の茜を演じる久間田琳加は、「non-no」モデルとしてのイメージが強い人も多いだろうが、本作では思わず共感したくなるような弱さと強さを持ち合わせた女子高生を好演している。彼女は家庭環境の変化や、かつての小学校での出来事がきっかけで、本音を押し殺す処世術を身につけた。周囲からどう見られるかばかりを気にして、隠れ蓑のようにマスクを手放せなくなってしまうほど追い込まれている姿は、現代の若者にとっても他人事とは思えないだろう。実際にコロナ禍でマスク生活が長引いた現代では、マスクを外すことへの不安を抱く人も増えた。茜の苦悩は、時代のリアリティを帯びたテーマでもある。

ところが青磁だけは、茜が必死に守っている仮面の部分を容赦なく引きはがそうとする。入学直後に彼女へ「大キライ」と告げるなど衝撃的なスタートを切りながらも、じつは昔の出来事から茜をずっと心に留めていたという秘密が徐々に明らかになっていく流れが切ない。しかも、その過去の思い出を茜がすっかり忘れてしまっているというのもまた皮肉である。普通なら「幼い頃に助けてもらったことをずっと覚えていた」と聞けばキュンとしそうなところだが、本作はあえて茜が覚えていないという展開を用意し、青磁の複雑な感情を浮き彫りにしている。それが二人の関係にほんの少しの悲しさとすれ違いをもたらすのだ。

とはいえ、途中で見えてくる彼らの絆ややりとりにはどこか軽妙さもあり、思わず笑ってしまうような会話や仕草が盛り込まれている。たとえば屋上でのやりとりや、遊園地で見せる二人の距離感など、どれも日常のささやかなやり取りにほのぼのとした魅力がある。茜がマスクを外そうかどうか迷っているときの青磁の言葉には思わずクスッとさせられるシーンもあり、単なる暗いだけの青春ストーリーにはなっていないのが本作の強みだろう。

加えて、酒井麻衣監督らしい色彩センスは大きな見どころだ。屋上の巨大キャンバスに描かれる絵はもちろん、夕暮れや朝焼けといった空の色遣い、登場人物たちの服装に至るまで、どこを切り取っても画面が美しい。茜の名前が連想させる赤や、青磁の銀髪からイメージされる薄い青緑といった具合に、色のコントラストが心情を映し出しているようにも見える。タイトルにもある「夜明け」はその象徴であり、見終わったあとに空を眺めたくなる人が続出するのではないかと思うほどだ。

ただし「激辛」と銘打ったからには、あえて指摘しておきたい点もある。演技や脚本にまだ荒削りな部分が見受けられるのは否めない。特に青磁が抱える病気の描写や、過去の因縁が後半に説明口調で明かされる展開は、やや急ぎ足で詰め込みすぎた感がある。原作でじっくり描かれていた背景や心理面を、2時間弱の上映時間内に収めるための苦労が見え隠れする。もう少し人物たちの心の動きを丁寧に映し出してくれたら、さらに没入感が高まっただろう。とはいえ、映画としての尺の限界はあるので仕方ない部分もあるが、「あの場面でもう少し感情を揺さぶる描写が欲しい」という観客は少なくないはずだ。

また、台詞回しに少しだけセリフ臭さを感じる場面もある。たとえばクラスメイトからの何気ない指摘や嫌味が、まるで舞台のアドリブで発せられているようにストレートすぎて、リアリティがやや薄いところもあった。青春映画らしい演出と割り切って楽しめる人には問題ないだろうが、現実感を求める向きには気になるポイントかもしれない。そうした部分を「青春映画の王道スタイル」と受け止められるか、違和感として感じてしまうかで評価が分かれそうだ。

しかしながら、茜と青磁が屋上や夕暮れの遊園地で共有する時間には、観ているこちら側も心がほぐれていくような魅力が宿っている。マスクを外すか外さないかという問題は、単なるフィジカルな行為にとどまらず、「自分の本音をさらけ出せるか」という象徴として機能する。青磁にとっての「絵を描くこと」は、自らを解放する行為であり、過去に茜からもらった勇気をずっと胸に秘め続けた証しでもある。そういった二人の背景が繋がった瞬間、観客は「ああ、なるほど。こういうドラマだったのか」と腑に落ちるのだ。

終盤では青磁の抱える秘密や病気に関して、涙を誘うエピソードが描かれる。そこに関してはやや説明調が多いきらいもあるが、「初恋」や「青春」にありがちなすれ違いが一気に報われるような切なさと喜びが混じり合っていて、個人的には悪くないクライマックスだったと思う。もちろん「もっと盛り上げてほしかった」「原作のあのシーンを入れてほしかった」という声はあるだろうが、映画版なりのコンパクトさと疾走感も悪くない。

演出面でいえば、酒井監督がこだわったであろう“光”の演出がとても美しく、特に屋上シーンの開放感や夕方から夜に切り替わる時間帯のカラーグラデーションは必見だ。どこかファンタジックでもあり、実際の高校生活とは違う映画的なロマンを感じさせる。「自分の過去を塗り替えたい」という願いを心に抱く茜と、「この先の未来に光を見いだしたい」と祈る青磁が、それぞれの“色”を取り戻していく過程がビジュアル的にも印象深い。ラストシーンまで観ていると、タイトルの「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」という言葉が何とも言えない説得力を持って迫ってくる。

何はともあれ、主演の白岩瑠姫と久間田琳加は初々しさと輝きを存分に放っている。彼らを支える箭内夢菜や上杉柊平、鶴田真由らベテラン陣の安定した演技が物語を補強し、ほどよいバランスがとられているのも嬉しい。青春映画の王道要素と、ちょっぴり大人びた感傷が融合し、好きな人にはたまらない一本になっているはずだ。

「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」は、美しい映像と爽やかな音楽、それに若手俳優たちの勢いを楽しむ作品だといえる。中盤以降の展開がややあっさりしている印象もあるが、だからこそ見終わったあとの余韻と解釈の自由度が大きい。再鑑賞したいという声が出るのも納得だ。原作を読んでいれば「このシーンが欲しかった」という不満があるかもしれないが、映画だからこその魅力も確かにある。青春映画を好む人はもちろん、普段は恋愛物に興味のない人も、気楽に足を運んでみるのも悪くないだろう。

映画「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」はこんな人にオススメ!

まず、この作品はとにかく色彩がきれいだ。朝焼けや夕焼け、屋上で広がるキャンバスなど、絵画のようなビジュアルに酔いしれたい人にはうってつけである。映像美を眺めながら、気分をリフレッシュしたいと感じるときにちょうどいい。

次に、人付き合いにおいてちょっと気を使いすぎてしまう人には、茜の姿が他人事と思えないかもしれない。周囲の期待に応えるばかりで疲れてしまう、そんな窮屈さから抜け出すきっかけになるようなメッセージを、本作はほんのりと投げかけている。

さらに、「実は自分も何かトラウマや秘密を抱えているんだけど、なかなか周りには言い出せない」というタイプの人にも刺さるだろう。青磁が抱える事情にしても、彼が日々感じている孤独や焦燥感は決してドラマチックなだけではなく、どこか現実的な悩みでもある。大きな悩みを持つ人がそれを共有できずにもがく姿は、誰もが経験しそうな痛みでもあるからだ。

また、JO1のファンで白岩瑠姫を応援している人はもちろん観るべきだろう。ファンならではの感想があるのは間違いないし、演技をしながらもアイドルとしての魅力をキラリと感じさせるシーンも多い。

最後に、ドラマティックな恋愛映画を求める人というより、「ちょっと不器用で、でも純粋な人間関係をじんわり味わいたい」という人にオススメしたい一本だ。絵を描く行為や、夕暮れや夜明けを見つめる二人のまなざしに、思わず自分自身の青春時代を重ねてしまう瞬間があるかもしれない。そんなちょっとした胸のときめきを求めている人には、この作品はぴったりではないだろうか。

まとめ

「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」は、青春映画の王道的なときめきと、美術や光の演出を巧みに盛り込んだ作品だといえる。マスクを外せないほどに周囲を気にしてしまう茜と、自由奔放に見えながら孤独を抱える青磁が、互いの心の扉を開いていく過程は甘酸っぱくもあり、時には切ない。作品全体がやや説明的に感じる部分はあるものの、二人の秘められた過去や、病気と向き合う姿勢が描かれることで、物語に適度な深みを与えているのも見どころのひとつだ。

映画としての完成度は絶賛できるほどではないかもしれないが、前向きな気分になれる要素や、見終わったあとに感じるほろ苦い余韻は、青春映画に求める醍醐味そのものではないか。映像の美しさと、主演二人の初々しさを味わいながら、誰もが一度は経験したい “夜明け”の光を、物語の中で感じ取ってみてほしい。