映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
昭和の下町情緒をこれでもかと詰めこんだ、どこか懐かしくて温かい映画「ALWAYS 三丁目の夕日」が登場したとき、正直「ノスタルジーだけで攻めてくるのか?」と思ったものだ。ところがどっこい、本作には人情の機微や時代の移り変わりを映すだけでなく、笑いと涙を織り交ぜた豪華フルコースが待ち受けている。鼻水垂らして泣くシーンがあるかと思えば、次の瞬間には腹を抱えて笑っている、そんなジェットコースター映画だ。
個人的には昭和世代じゃないのに、なぜか郷愁を感じてしまう不思議な魅力がある。錆びた路地裏や夕暮れの空に映える赤ちょうちん、やたら人情厚い商店街の面々なんかを見ると、「ここに住んでみたい!」と心底思ってしまう。しかも映像技術が時代考証と見事に融合していて、細かな小道具から街並みまで徹底的に作り込まれているのがまたすごい。とはいえ、人情ドラマだけに浸っているとふと辛辣な現実や貧しさが垣間見えたりもして、そのアンバランスさがまた涙を誘う。昭和を知らない世代でも、どこか自分の原風景のように感じてしまう普遍的なストーリーが魅力といえるだろう。
さて、これからガッツリとネタバレを含む本音トークを展開していくので、まだ観ていない方は自己責任でお読みいただきたい。ここから先はまるで下町の銭湯のように熱いトークが続くので、水風呂に飛び込む覚悟でお付き合いいただければ幸いである。
映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の個人的評価
評価:★★★★☆
映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の感想・レビュー(ネタバレあり)
ここからは評価4相当、つまりかなり気に入ったが少し毒舌も忘れずに、というスタンスで映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の感想・レビューを深堀りしていく。まず注目したいのは、本作が単なる懐古趣味の映画にとどまらず、人々の生活感や哀歓を丁寧に描いている点だ。監督が伝えたかったのは、昭和の温かい風景やコミカルな日常だけじゃない。戦後の復興期にあった日本社会の活気と、貧しさや格差を抱えながらも夢を追いかける人々の姿こそが作品の真髄なのだろう。
たとえば鈴木オートの頑固親父・鈴木則文(演じるのは堤真一氏)のキャラクターがまた秀逸である。モータリゼーションがじわじわと普及しはじめた時代、まだまだ車は高嶺の花だけれど、彼は新しい技術やガジェットにワクワクしている。その反面、亭主関白なところがあったり、息子との距離感に悩んだりと、人間臭さMAX。昭和の父親像がそこにギュッと凝縮されているのだ。頑固だけれどどこか憎めない、あの父ちゃんに「お前とは酒が飲めん」と言われながらも、いつか認められたいと息子が奮闘する姿が実に泣ける。いや、泣けるというか、微笑ましいけれど、同時に自分の家族関係にも重ねてしまってジーンと来る。
さらに、茶川竜之介(吉岡秀隆さん)のキャラクターは作家志望だが、なかなか目が出ないというリアルさがいい。彼とヒロイン・六子(堀北真希さん)との不器用な関係も見どころだ。あの、素直になれない感じとか、夢と現実の狭間でウジウジ悩むあたりとか、下手にキラキラした恋愛描写に逃げずに昭和らしい泥臭さが表現されているのがたまらない。六子が茶川の部屋を訪れるシーンなんか、「いきなり押しかけ女房か!」とツッコミを入れたくなるが、それがまた愛おしい。下町の下宿先に住み込みで働く女子って、なんというレトロでありながらハートフルな設定なのだろう。
そして本作「ALWAYS 三丁目の夕日」最大の魅力と言えるのは、子どもたちの視点である。茶川に引き取られる淳之介の存在が、ドラマに大きな影響を与えている。親に捨てられたと勘違いしている少年の一途な思いと、それを支える周囲の大人たちのあたたかさが胸に染みる。だが、ただ温かいだけではなく、現実には貧しさや家庭の事情があって、淳之介が素直に笑えない場面もある。「子どもの笑顔ってこんなにも貴重だったんだな」と思わせられるような切なさがあり、それが涙腺をダイレクトに攻撃してくる。昭和の時代背景だからこそ強調される家族や人情の絆が、今の時代にもグサリと刺さるわけだ。
他方で、街全体が成長していく様子、東京タワーが建設されていく過程、ブラウン管テレビや冷蔵庫などの家電が普及していくワクワク感――こういう小道具の活躍も欠かせない。これらは背景設定としてだけでなく、人々の価値観や生活水準の変化を象徴している。鈴木オートに集まる近所の人たちが最新家電を見て大騒ぎするシーンなど、時代の空気感がこれでもかと詰め込まれているのだ。それでいて、まだまだ貧しい部分は貧しい。都会の一等地にあるわけでもなく、夕日が沈む三丁目の街並みはどこか素朴だが、そこにいる人々の心は豊かである。そうした対比が非常にドラマを盛り上げてくれる。
笑いのポイントとしては、キャラクター同士の掛け合いが秀逸だ。とくに茶川と鈴木家のおかみさん(薬師丸ひろ子さん)とのやりとりは、「あの気遣いができそうでできない感じ」が絶妙にコミカル。ボケとツッコミが関西芸人みたいに分かりやすいわけではないが、そのぶんリアルな笑いがある。風呂なしの家に住んでいる茶川が、ご近所さんに風呂を借りるくだりなんかも「うわ、昭和っぽい!」と笑ってしまう。そんな小ネタが作品全体に散りばめられているから、泣きっぱなしじゃなくて笑いも挟む。このバランス感覚が素晴らしい。
一方、激辛な視点からいえば、「昭和の良い部分だけを切り取って美化していないか?」という声もあるだろう。確かに、現代の価値観からすると「それはちょっとどうなの?」と思う描写が皆無ではない。女性の社会進出がまだ限定的だったり、長男至上主義的な家族観がにじみ出ていたりもする。だが、それは当時の現実を背景として描かれているものであり、本作が意図的にスルーしているわけではないように感じる。むしろそこまで含めて昭和という時代のありのままを、少しデフォルメしつつも映し出しているのではないか。美化というより、当時の社会そのものを“映画的ファンタジー”を交えて提示している作品だと考えれば納得できる。
それから、特筆すべきは映像技術の見事さだ。CGやセットを駆使して作り上げた昭和の街並みは、細部までこだわり抜かれている。ガラス窓にうっすら映る夕日、路地裏を走り回る子どもたちの土埃、商店街の看板のフォントからポスターの色褪せ具合まで、「凝りすぎじゃないか!」とツッコミたくなるほど徹底している。このリアリティがあるからこそ、観客はタイムスリップしたかのように作品世界に没入できるのだ。さらに音響面でも、車のエンジン音や風鈴の音色などが効果的に使われていて、昭和の夏の空気感が伝わってくる。まるでスクリーンから昭和の香りまで漂ってきそうな完成度の高さに感服する。
さて、ネタバレ込みで語る以上、クライマックスの泣きポイントにも触れないわけにはいかない。淳之介の母親が現れるくだりだ。「やっと迎えに来てくれた!」と喜ぶ子どもの気持ちと、「もしかして子どもを不幸にするんじゃないか?」と身構える周囲の大人たちのせめぎ合い。ここで茶川がどう動くかによって、人間ドラマが大きくうねるわけだ。実際、そのシーンで号泣したという人も多いはず。ちょっとクサいほどに感動的な展開だけれど、あの場面の涙は嘘じゃない。本作の“昭和の人情”を象徴する最大の見せ場と言えるだろう。
そんなこんなで「ALWAYS 三丁目の夕日」のレビューとしては、やはり観て損はない映画だと思う。いろいろと突っ込みどころもあるが、それらも含めて「ALWAYS 三丁目の夕日」の感想としては大満足の作品である。昔の日本にあった空気感を味わいたい人、人情たっぷりの群像劇が好きな人にはドンピシャな1本だ。昭和という時代を知らなくても、一度観たらその魅力にどっぷりハマる可能性大。泣いて笑って、最後には心がほっこりする。そんな映画体験を求めているなら、ぜひ手にとってほしい。
映画「ALWAYS 三丁目の夕日」はこんな人にオススメ!
映画「ALWAYS 三丁目の夕日」をおすすめしたい人は、まず間違いなく「人情に飢えている人」だろう。普段バリバリの都会生活で「隣の家の人の顔も知らない」なんて寂しい生活を送っているなら、この作品は心のエステになるはず。昭和の下町感にどっぷり浸かって、「こんな近所づきあい最高だな!」と羨ましく感じること請け合いだ。さらには「ほんのちょっといい話」で涙腺が崩壊しがちな人にもオススメ。ノスタルジックな風景と、あったかい人間模様が全力で涙を誘ってくるので、ハンカチを忘れると後悔するかもしれない。
また、ファンタジーではなく、“昔の日本”というリアリティのある世界観を味わいたい映画ファンにも最適だ。細部までリアルに再現された昭和の街並みや生活道具は、ちょっとした博物館状態。それらを見ているだけでも「へえ、昔ってこうだったのか」と興味津々になる。さらに、家族みんなで観ても、カップルで観ても、友達同士で観ても楽しめる。子どもが観れば「こんな時代があったんだ」と驚くし、大人が観れば「そうそう、うちもこんな感じだったな」とノスタルジーに浸れる。どの年代にも刺さる普遍的なテーマがあるのが強みなのだ。
ついでに言うと、やたらと恋愛要素やアクション要素でド派手な演出を求める人には向いていないかもしれない。だが、「ゆるりとした人情ドラマで日頃のストレスを溶かしたい!」という人には、まさにうってつけだろう。笑いと涙が交互に押し寄せる感覚は、しっぽり温泉旅館に浸かっているような心地良さがある。理屈抜きで心を温めたい人、現代の忙しい日常から離れて昔の日本にトリップしたい人、そして「家族・仲間との絆」を改めて実感したい人――そんな皆さんに激推ししたい作品である。
まとめ
以上が、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の感想・レビューである。昭和の下町を舞台に、ドタバタしながらも人々が支え合い、笑いと涙が絶妙なバランスで詰まっているのが本作の魅力だ。ノスタルジーを売りにしつつも、単なる懐古趣味で終わらないのは、それぞれの登場人物がリアルな葛藤を抱えながら懸命に生きているからだろう。冷静に見れば「そこまで泣かせにくるか!」とツッコミを入れたくなる演出もあるが、それも含めて映画的なエンターテインメントとして完成しているのがすごいところ。
この作品を観終わったあと、「お隣さんに声をかけてみようかな」とか「家族にありがとうと言いたくなった」なんて感情が芽生えたら、まんまと本作の魔法にかかっている証拠だ。あらためて、心がちょっと荒んでいると感じたら、昭和の温かさを再体験できる映画として手に取ってみるのもいい。辛口っぽく言いつつも、「ALWAYS 三丁目の夕日」は気がつけば涙を流しながら観てしまうほどの不思議なパワーを持った作品である。観ると笑顔になれる、そして少しだけ昔の日本が恋しくなる――そんな映画として自信をもっておすすめする次第だ。