映画「ヘルタースケルター」公式ブログ

映画「ヘルタースケルター」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

華麗なるビジュアルと刺激的な内容で世間をざわつかせた映画「ヘルタースケルター」は、一見キラキラした豪華絢爛な世界に飛び込むような感覚がある反面、その裏側にある人間の欲望やエゴをこれでもかとあぶり出す作品である。もともと人気漫画家・岡崎京子氏の同名漫画が原作であり、才能あふれる蜷川実花監督の色彩感覚と相まって、観る者を強烈に引き込む魅力があると同時に、一部の層からは「これはアートなのか、それとも痛烈な風刺か」と賛否両論を巻き起こした。

主演の沢尻エリカ氏が演じるトップスターの“りりこ”は、もう眩しすぎるほどに美しく、しかしその姿を保つための代償や、過剰なまでの欲望が引き金となる狂騒劇が、観ているこちらまで不安になるほど濃密に描かれている。派手さと毒っ気がこれでもかと詰まった映画「ヘルタースケルター」は、決して万人受けするタイプのエンタメではないかもしれない。

だが、その突き抜けた世界観こそがこの作品の真骨頂だ。あえて一言で言えば、好き嫌いがガッツリ分かれる問題作である。そういう作品こそ、思い切って斜めから楽しんでみるのも一興である。

映画「ヘルタースケルター」の個人的評価

評価:★★☆☆☆

映画「ヘルタースケルター」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここから先は5,000文字前後、ネタバレ全開で突き進むので要注意である。まずはストーリーをざっくり振り返りながら、作品の魅力や問題点をバッサリ斬っていきたい。映画「ヘルタースケルター」は、トップスターとして君臨する“りりこ”の絶頂から転落までを鮮烈に描いている。外科的な手術で全身を美容整形し、圧倒的な美貌を手に入れた彼女だが、それを維持するためのメンテナンスは想像以上に過酷であり、常に精神的にも肉体的にも追い詰められている。芸能界を舞台に、欲望・嫉妬・裏切り・暴走といった負の感情がてんこ盛りでありながら、同時にきらびやかなファッションやアート的な映像美が融合した、独特の“蜷川ワールド”全開の作風である。

この作品がまず目を引くのは、主演の沢尻エリカ氏が演じる“りりこ”のカリスマ性だ。彼女自身も何かと世間を騒がせる存在感を持つ女優であり、そのイメージと“りりこ”が見事に重なり合っている。天真爛漫でわがまま、そして突拍子もない行動力を持ちつつも、完全に壊れそうな危うさが同居するキャラクターをリアルに体現している点は、映画全体を支える大きな柱となっている。まさに「これ以上のハマり役はないのでは?」と思わせる説得力であり、それだけでも観る価値はあるだろう。

一方で、原作漫画のもつ社会風刺感や登場人物たちの内面を描き切れたかというと、やや物足りない部分もある。映画はヴィジュアル的にド派手で、絵としての面白さは満点なのだが、ストーリーがあわただしく進むあまり、深く共感したり感情移入したりする余地があまりない印象を受ける。たとえば、りりこが抱える孤独感や「自分は本当は何者なのか?」というアイデンティティの喪失について、さらりと描かれる反面、よりドロドロした内面描写はそこまで深堀りされない。あくまでエンタメ的に映像を楽しむ作品として割り切るならアリだが、原作のコアなファンや社会の闇をえぐるストーリーを期待した人には、若干拍子抜けするかもしれない。

また、登場人物のサイドストーリーやバックグラウンドが必要最低限に留められていることもあり、ある程度は想像で補う必要がある。「もうちょいあのキャラの内面を掘り下げてくれたら面白くなるのに!」と歯がゆく思う瞬間もあるが、そこをうまく解釈して楽しむのが、この作品の見方なのかもしれない。なにせ、本作に漂う独特の“アッパーなカオス感”は、キャラやストーリーのリアリティよりも、蜷川監督が見せたいビジュアル世界が優先されているように思えるからだ。むしろ、そのわかりやすいまでの徹底した美意識こそが、この映画の大きな特徴である。

しかしながら、これを「ただのキラキラ映画」と切り捨てるのは早計だ。整形手術や美容への執着、過剰なまでの理想像を求める世の中へのアンチテーゼは、作品の表層をはみ出してこちらに訴えかけてくる。りりこが果てしなく美にこだわるのは、結局のところ大衆の目を惹きつけ、賞賛と注目を浴びるためである。それは芸能界に限った話ではなく、一般社会でもSNSやメディアを通じて「美しさ」を追求する風潮があるのではないか。そんな問題提起を、これでもかとカラフルで刺激的な映像のなかでぶつけてくるのが、この映画の面白いところだ。視覚的に華やかだからこそ、逆に醜さや人間の弱さが浮き彫りになる。矛盾しているようでいて、そこがたまらなくエッジが効いているのである。

さらに、りりこのマネージャーや芸能プロダクションの面々、そして彼女を狙う週刊誌の記者など、脇を固めるキャラクターたちがまた一筋縄ではいかない。皆それぞれに計算や打算を抱えており、りりこを利用しようとしているのか、保護しようとしているのか、その辺りの人間模様が複雑に絡み合う。りりこ本人も、周囲の関係者も、それぞれが「このままじゃヤバい」とは分かっていながら、気づいたら深みにはまり込んでいる。いわば全員が中毒患者のように、本作でいう“美”と“欲望”というドラッグに支配されているのだ。だからこそ、誰一人として100%“善”でも“悪”でもないし、視聴者としては「そこ、もう少し何とかならないのか!」とツッコミたくなると同時に、どこか他人事ではないような現代性も感じてしまう。ここがこの映画の毒味であり、面白味でもある。

ただ、エンタメ的に割り切って楽しむにはグロテスクな描写や過激なシーンも多いため、人によってはキツいかもしれない。整形の手術跡や出血、りりこの暴走具合など、かなりリアルに攻めてくる部分もあるので、そこを笑い飛ばせるかどうかで評価は大きく変わるだろう。個人的には、この“ドギツさ”が良くも悪くも癖になる要因だと感じる。ほぼダメージ加工のない生々しい描写こそが、表面的に華やかな美がいかに危ういかを突きつけてくるのだ。

演出面では、さすが蜷川実花監督の作品だけあって、映像美は文句なし。色彩が溢れ出るようなシーンや、りりこの撮影シーンなど、まるでファッション雑誌を次々にめくっているような豪華さである。その一方で、ふとした陰鬱な場面ではブルー系の照明や薄暗い空間が際立ち、登場人物たちの内面的な闇を象徴的に映し出す。物語の展開は早めのテンポで、次から次へとトラブルが降ってくるため、観ている側としては息つく暇もないほどだが、それこそがこの映画の狙いかもしれない。勢いでぐいぐい引っ張られながらも、「あれ、これって結局どうなるんだ?」という先の読めなさはある。終盤にかけてのりりこの暴走っぷりと、それを取り囲む人々の反応は、さながら出口なしの迷路である。

また、劇中でのセリフやキャラクター同士のやりとりには、ブラックユーモアがしれっと仕込まれている。シリアスなはずのシーンで、急にギリギリの下品さを放り込んでくるので、「おい、笑っていいのか?」と少し戸惑うほどだ。これもまた、りりこを中心に展開するイカレた世界観を盛り上げるスパイスである。ただし、この特殊なノリが合わない人にとっては、全編通して「観てて疲れる」となる可能性もあるだろう。好きな人は大好物、苦手な人には地獄――そんな極端な振れ幅こそ「ヘルタースケルター」の醍醐味というわけだ。

ネタバレを大いに含む感想としてまとめるなら、本作は決してハッピーエンドでもなければ、なんとも言えない後味を引きずる作品である。りりこの結末にしても、救いがあるのかないのか、はたまた彼女は新たな自由を得たのかどうか、観る人によって解釈が変わりそうだ。常識的なストーリー展開を期待すると肩透かしを食らうかもしれないが、そもそも本作は普通の人間ドラマを描くつもりはさらさらないのだろう。現代社会が抱える“美”に対する強迫観念や、娯楽産業の裏に渦巻くダークサイドを、これでもかと極彩色で表現した、ある意味では刺激的でリアリティのあるファンタジーというべきかもしれない。

総評としては、人間の汚さや業の深さ、そして儚さまでも炙り出すという点ではエッジが効いた良作だが、いかんせん好みは大きく分かれる。ストーリーよりも映像美に重きを置くスタイルのため、観終わった後に「これが何を伝えたかったんだっけ?」となることもある。しかし、その問いこそが本作の狙いなのではないかと思う。要するに、あまり難しく考えずに“りりこ”という狂騒の中心人物が暴れまわる様子を堪能しつつ、自分自身の「美とは何か?」という問いかけを再確認するきっかけになるかもしれない――そんな作品である。個人的評価は星2つ(★★☆☆☆)だが、それは必ずしも作品としての価値が低いという意味ではない。むしろ、自分の好みに合わず理解が追いつかなかった部分が多かったため、あえて辛口評価としておく。ただ、ここまで脳裏に焼きつく作品もそうそうないので、ある意味で忘れられない一本となった。

映画「ヘルタースケルター」はこんな人にオススメ!

正直なところ、誰にでも気軽に観てほしいとは言いづらい。

キラキラしたファッションやビジュアルが好きな人にとっては、まさに眼福の連続である。蜷川実花監督の色彩センスが全編にわたって発揮されているので、「アートっぽい映像をじっくり楽しみたい」という人や、ファッション雑誌をペラペラめくる感覚が好きな人には刺さるだろう。

一方で、映画に強いストーリー性やロジカルな展開を求める人にとっては、どうにも理解しがたい“カオス映画”と映る可能性が高い。りりこのキャラクターが放つあまりのエゴと衝動が好きになれない人も、途中で観るのをやめたくなるかもしれない。むしろ、「奇抜でぶっ飛んだ作品、大歓迎!」とか、「観終わった後にモヤモヤする映画、むしろウェルカム!」という人にはオススメしたい。

さらに、人間のダークな部分や業の深さをエンタメとして楽しみたい、整形や美容の闇をリアルかつエッジーに描いたストーリーに興味がある、という人にはまさにうってつけである。

要は、激辛料理好きにはたまらないが、辛いのが苦手な人にはキツい――そんなタイプの作品と考えると分かりやすい。自分の“好みの沸点”を見極めてから挑むことを推奨する次第である。

まとめ

映画「ヘルタースケルター」は、きらびやかな芸能界の表と裏を極彩色でぶちまける問題作である。主演の沢尻エリカ氏の強烈な存在感と、蜷川実花監督ならではのビジュアルインパクトが融合し、観る者を一気に引き込む。

とはいえ、その突飛な世界観とドギツい演出は、好き嫌いをはっきり分けるはずだ。個人的には評価★★☆☆☆としたが、これは作品の価値が低いというよりも、筆者の好みに合わない部分が多かったという意味合いが強い。むしろ、その強烈な印象と先の読めない展開は、後になってじわじわ効いてくる“中毒性”を秘めている。

何ともクセの強い作品だ。アート好き、カオス好き、美をめぐる人間模様に興味がある人なら、きっとこの荒唐無稽な世界にどっぷりハマれるだろう。合わない人には合わない、しかし合う人にはがっちりハマる――そんな両極端な魅力が「ヘルタースケルター」の醍醐味なのだ。