映画「ジョゼと虎と魚たち」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は妻夫木聡主演の日本映画で、タイトルからして何やら不思議な世界観を予感させるが、その中身は意外にもほろ苦い青春と淡い恋愛が交差するストーリーである。実写邦画の良さを余すところなく引き出しつつ、独特のシュールさとユーモアも交えられており、観客をクスッとさせたかと思えば、突然ハッと胸を締め付けるような展開が訪れる。その落差に翻弄されるのが、本作ならではのスリルだと言っても過言ではない。加えて、妻夫木聡の繊細かつコミカルな演技が、タイトルに潜む奇妙なイメージと絡み合い、絶妙な化学反応を起こしているのも見逃せないポイントだ。

そもそも「ジョゼと虎と魚たち」というタイトルは、どこから来たのか気になる人も多いだろう。最初は「猫? 虎? 何かの比喩?」と首をかしげるところだが、観進めるうちに、「ああ、そうきたか!」と膝を打ちたくなる場面がきっとやってくる。それが本作のおもしろさであり、同時に心をざわつかせる最大の魅力でもある。ちなみに、この作品はシリアスな恋愛モノかと思いきや、随所にちょっとしたブラックジョークが仕込まれていて、緊張感を和ませてくれる。あえて激辛と銘打ったのは、恋愛のもつれや人生の厳しさがピリリと効いているからこそ。ぜひ、先入観を捨てて物語に飛び込んでほしい。

映画「ジョゼと虎と魚たち」の個人的評価

評価: ★★★★★

映画「ジョゼと虎と魚たち」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作「ジョゼと虎と魚たち」における個人的な評価は、先ほど堂々の★★★★★をつけたわけだが、正直に言って、これほど感情の起伏を揺さぶられる映画はなかなかないと思っている。なにしろ、タイトルを見ただけで「これはいったいどういう世界なんだ?」というワクワク感と、「もしかして変な映画?」という若干の不安が同居してしまう。しかしながら、いざふたを開けてみれば、これがまた妙にリアルで、それでいて不思議な空気感をまとった作品に仕上がっているから侮れない。

物語の中心には、妻夫木聡演じる大学生の恒夫と、車椅子生活を送る“ジョゼ”と呼ばれる少女がいる。最初は恒夫がジョゼを助けたことをきっかけに、彼女が住む家に通い始めるところから物語が動き出す。ジョゼはいわゆる「口が悪いけど純真な女の子」で、最初はどこかツンとしているが、そのツンデレっぷりがなかなか強烈だ。彼女が放つ辛辣な言葉に、恒夫だけでなく観客までもが「うわ、結構きついな…」と冷や汗をかく場面がちょこちょこ出てくる。だが、その罵倒が不思議と嫌味にならず、むしろ「ジョゼって実はすごく純粋なんじゃないか?」と思わせる演出が秀逸である。

そもそも、人間関係とは何か。恋愛とはどうあるべきか。そういった問いに対して、この映画は非常にシビアな角度から答えを投げかけてくる。ジョゼは常に車椅子に乗って生活しているため、一見すると「弱い立場」にあるように見える。しかし、彼女自身は「自分の世界を守り抜く」という強烈な意思を持っていて、そこに踏み込んでくる人間に対しては容赦なく爪を立てる。恒夫のような“お節介タイプ”に対しても、当初は「いらないから帰れ」と言わんばかりの態度をとるのだが、このあたりのやり取りが実に痛快だ。そして、観る者としては「ジョゼと恒夫は本当にうまくいくのか?」というハラハラ感を味わいつつ、時々垣間見える二人のほっこりシーンにニヤニヤしてしまうのである。

妻夫木聡の演技に関しては、いい意味で“安定の妻夫木”だと感じた。彼はこれまでも優しげな青年役を多くこなしてきたが、本作ではその“ちょっとヘタレだけど一生懸命”な雰囲気がきわだっており、ジョゼのトゲトゲしい態度にもなんとか食らいついていく姿に説得力がある。しかも、たまに見せる情けない表情がやけにハマっていて、「ああ、こういう友達いるわ」と共感を誘うところがまた上手い。対するジョゼも、車椅子生活ゆえの不自由さと、彼女なりの夢や希望、そして不安を抱えている。そのアンビバレントな感情がスクリーン越しにビシバシ伝わってきて、観る側も自然と感情移入してしまうのだ。

ネタバレというほどではないが、やはりクライマックスに向けた二人の変化は見どころの一つだ。ジョゼが自分の世界の外に踏み出そうとする瞬間、恒夫がその手をどう取るのか、あるいは取らないのか。作品としてはそれほど長尺ではないが、その限られた尺の中で、それぞれのキャラクターの成長がしっかり描かれる。そして、映画のラストにかけて感じる「これは単なる恋愛映画ではない」という確信。社会の厳しさを容赦なく突きつけるかと思えば、その奥にほんのり優しいまなざしを宿しているのだ。あえて“激辛”と言いたくなるのは、甘いだけじゃなくて、人生の辛みもしっかり味わわせてくれるからである。

この作品を観終わったあと、自分の周囲を取り巻く人間関係や、これまでの恋愛体験、そして人生そのものをもう一度見つめ直したくなるのではないだろうか。二人の関係がうまくいっているかどうかはともかく、「人はそれぞれ違った人生を抱えている」というごく当たり前の事実を、改めて教えてくれる作品でもある。独自の世界観に誘われつつ、観客はいつしか「自分だったらどうするだろう?」と考えざるをえなくなる。そこにこそ「ジョゼと虎と魚たち」の最大の魅力が凝縮されているのだ。

とはいえ、決して重苦しいだけの映画ではない。むしろコメディ要素も随所に散りばめられており、ジョゼのおばあちゃん(これがまた一筋縄ではいかないキャラクターである)の存在が妙におかしかったりする。家の中ではジョゼとおばあちゃんの掛け合いがテンポよく展開されていき、それに翻弄される恒夫を見ていると、こちらもクスクス笑ってしまうだろう。さらに、街の中での二人のデートシーンなど、ちょっとした幸せの断片が息継ぎのように挿入されるからこそ、辛口成分もよりスパイシーに引き立つというわけだ。

終盤にかけては、恒夫とジョゼの関係性を取り巻く様々な要素が一気に収束していく。友人やバイト先、そしてジョゼの将来を案じるおばあちゃんの思いなど、現実的な問題がズシンと圧し掛かる。ここで観客は「果たしてハッピーエンドはあるのか、それとも…」と息を呑むだろう。ネタバレ込みとはいえ、結末まで全部ぶっちゃけるとさすがにつまらないので、詳細は控えておく。ただ、この映画のラストは、ひとことで説明するのが難しい味わい深さがある。希望に満ちているようで、どこか切なく、でもやっぱり少し温かい。そんな余韻が心に残るのだ。

映画「ジョゼと虎と魚たち」は一度観ただけでは語り尽くせない魅力を持っていると思う。青春映画と呼ぶにはビターすぎるし、恋愛映画と呼ぶにはコミカルすぎる。しかし、そのどちらでもあり、どちらでもない。まるで「ジョゼ」という存在そのものを映し出すかのように、多面的で、一筋縄ではいかない映画である。そこにこそ、★★★★★をつけたくなるだけの理由があるわけだ。いろんな感想があっていいが、個人的には「もっと早く観ておけばよかった」と思わせる一本だった。

もしまだ観ていない人がいるならば、ぜひこの「ジョゼと虎と魚たち」のレビューを参考に、自分なりの視点で作品を味わってほしい。たとえ辛口要素があっても、見終わった後にはほろ苦さとほんのりした甘さが混ざり合い、「ああ、人生って不思議だな」としみじみ思うはずだ。これは漫画でもアニメでもなく、生身の人間が演じるリアリティがあるからこそ、この作品の世界観が際立っているのだろう。映画が終わるころには、ジョゼや恒夫が確かにそこに存在しているかのような親近感すら覚える。そんな不思議な魅力に満ちた作品であると断言したい。

映画「ジョゼと虎と魚たち」はこんな人にオススメ!

まずは恋愛映画が好きだけど、ただ甘々なだけだと物足りない人にオススメしたい。なにせ本作は、車椅子生活を送るジョゼと大学生の恒夫の恋愛模様が描かれているのだが、いわゆるお花畑全開のロマンスというわけではない。むしろ、現実の厳しさや人間の弱さ、そしてちょっとしたブラックジョークが入り混じり、普通のラブストーリーとは一線を画す存在感を放っている。さらに、「自分の殻を破りたい」「今までの価値観をひっくり返すような体験をしたい」と考えている人にもぜひ手にとってほしい。なぜなら、この映画の登場人物たちは、それぞれが抱える事情を一歩ずつ乗り越えようと奮闘しているからだ。その姿は時にコミカルでありながらも、観る者の胸を打つ。

また、妻夫木聡のファンにはもちろん必見である。彼の演じる青年は、ときにヘタレで、人情に厚くて、でもどこか抜けている。そんな絶妙なキャラクターが本作の世界観と化学反応を起こし、一度観たら忘れられないインパクトを与えてくれるのだ。そして、車椅子生活というハンディキャップを抱えながらも、自分の世界を堂々と守り、外に飛び出そうとするジョゼの姿には、妙に元気づけられる部分がある。社会や人付き合いに疲れてしまった人ほど、この作品のちょっぴり毒のある笑いと、心に沁みる優しさに癒やされるはずだ。従来のラブストーリーや青春映画とは一味違った刺激を求めるなら、「ジョゼと虎と魚たち」は間違いなくおすすめの一本である。

まとめ

本作「ジョゼと虎と魚たち」は、一見するとファンタジックなタイトルに惑わされがちだが、その内容は現実の恋愛や人間模様をえぐるように描きつつ、観る者を温かく包み込む力を持っている。

甘いだけじゃなく、苦味もしっかりと効かせた物語構成によって、一度観ると「もうちょっと味わっていたい」と思わせる中毒性を放っているのが特徴だ。妻夫木聡の愛嬌と根性が絶妙にブレンドされた演技が、ジョゼという不思議な存在にそっと寄り添い、時に振り回される姿が何とも愛おしい。人生の酸いも甘いも、そしてちょっとしたスパイスも味わいたい人にはうってつけの映画だと言っていい。

少々古い作品ではあるが、そのテーマの普遍性は今でも多くの観客に訴えかける力があるので、まだ観ていない人はぜひ一度手に取ってもらいたい。きっと、二人の織りなす世界に引き込まれ、その余韻がしばらく抜けなくなるはずだ。