映画「ばるぼら」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作は稲垣吾郎と二階堂ふみのダブル主演というだけでも話題性十分だが、さらに原作が手塚治虫の同名漫画だというから、期待値はかなり高い。とはいえ、単に「手塚治虫の名作を映像化しました」という枠に収まらず、奇妙な世界観や少し刺激的な描写が盛り込まれた、やや大人向けの内容になっている点が特徴的である。
正直言って、どう考えても万人ウケするタイプの作品ではない。しかし、その分濃厚な作家性やえぐみがあり、観る人をグイッと引き込む不思議な魅力が詰まっている。「ばるぼら」というタイトルからして、普通の映画とはひと味違う雰囲気を醸し出しているわけで、どんなトリップ感に引きずり込まれるかは観てのお楽しみ。そんなちょっとアブナイ香りも漂う本作について、ネタバレ全開で語っていこうと思う。
ここまで読んで「おや?」と興味が湧いたら、ぜひ最後までついてきてほしい。クセが強いが、クセになる。そんな作品世界を堪能できるかどうかは、あなたの好奇心にかかっているのだ。
映画「ばるぼら」の個人的評価
評価: ★★★★☆
映画「ばるぼら」の感想・レビュー(ネタバレあり)
さて、ここからが本番である。「ばるぼら」という作品は、手塚治虫の原作漫画を基に手塚眞監督が映画化したものだ。主演は稲垣吾郎演じる小説家の美倉洋介と、二階堂ふみ演じる謎の女性・ばるぼら。タイトルそのものが彼女の名前を指しているわけだが、どう見ても怪しさ満点の女性が、美倉の前に突如として現れるところから物語は始まる。ここで一番強調しておきたいのは、本作が「常識」や「論理」といったものを大胆に飛び越えた、いわゆるオカルティックかつアヴァンギャルドな世界観を打ち出している点である。観る者によっては「何だこれは?」と困惑するシーンも少なくないが、その不思議さが“ばるぼら”というキャラクターの妖艶な魅力や、美倉が抱える闇を引き立てているようにも見えるのだ。
ストーリーを大まかに説明すると、スランプに陥った小説家の美倉が、ある日、新宿駅あたりでうずくまっているホームレス風のばるぼらを見つける。あまりにも放っておけない雰囲気を醸していたせいか、彼は彼女を家に連れ帰る。これだけ聞くと「正気か?」とツッコミを入れたくなる流れだが、そこはやはり創作者というか芸術家気質ゆえか、好奇心やら優しさやらがごちゃ混ぜになった上での行動であると納得させられる。しかし、家に引き込んでみれば、どうやらこのばるぼら、酒が好きで不思議な発言をするし、さらに言動がどこか超自然的な予感を漂わせている。最初は美倉も戸惑いを隠せないが、彼女の存在が次第に執筆のインスピレーションを刺激し始めるのである。
そもそもばるぼらには妙な力が宿っているらしく、彼女が近くにいるだけで美倉は創作のエネルギーを得たり、不思議なビジョンを見せられたりする。だが、それと同時に彼の精神や日常が少しずつ崩壊していくプロセスが描かれるのがこの映画のキモだ。稲垣吾郎の落ち着いた佇まいや、視線の鋭さが、不気味な雰囲気と相まって「これは普通の恋愛ドラマではないな」ということを強烈に印象づける。二階堂ふみは言わずもがな、あの独特なミステリアス感を醸し出すのが抜群にうまい。彼女の演技は常にどこかフワフワとしていて、しかし時折見せる妖艶さは観る者をゾクッとさせる。そのギャップがばるぼらというキャラクターと相性抜群で、「二階堂ふみってこんな不思議少女役もいけるんだな」と改めて感心する。
物語が進むにつれ、美倉の周辺では奇妙な出来事や幻覚めいた体験が増えていく。どうやらばるぼらは単なるホームレスの女性ではなく、もう少しオカルト色の強い存在であることが示唆される。旧来の日本映画文法でいえば、ここで「ホラー」というカテゴリに収めたくなる気持ちもあるが、本作はホラーでもなければ単純なサスペンスでもない。一言でまとめようとすると難しいが、「芸術家とミューズの関係性をオカルティックに描いた作品」というのが最も近い印象かもしれない。ストーリー自体はかなりシュールで、夢と現実のあいだを行ったり来たりする場面が多い。視覚的にも幻惑的な演出が施されており、観ているこちらとしては「ん? 今のは現実? それとも妄想?」と頭をひねる場面がしばしば登場する。
しかし、その混乱こそが本作の醍醐味だ。正直、物語の途中では「結局ばるぼらって何者なんだ?」という疑問がくすぶり続けるし、ラストに至っても明確な答えは与えられないまま終わる部分もある。だが、この「消化不良感」がむしろクセになる。あたかも悪酔いしているかのような、不穏でどこか艶めかしい後味が、本作のアイデンティティといえるだろう。普通の映画に求められるカタルシスやスッキリ感を期待する人にとっては肩透かしかもしれないが、そこがいいのである。人間の奥底にある欲望や狂気、芸術家特有の自己破壊的な面を、あえて整理せず剥き出しのままにしている点が「ばるぼら」の大きな魅力だ。
また、映像面でも独特の美学が漂っている。暗い室内でのシーンが多く、スポットライト的にキャラクターを浮かび上がらせる演出や、原色を用いたサイケデリックな光の演出など、一種の舞台劇を観ているようでもある。そこに手塚眞監督の個性が存分に発揮されていて、「そもそも手塚治虫の漫画ってこんなに妖艶だったのか?」と改めて驚かされる。もちろん、原作から大胆にアレンジされた部分もあるが、それが逆に現代的な空気を帯びることに成功しており、原作ファンにも新鮮な驚きを与えてくれるはずだ。
さらに、稲垣吾郎は近年、映画や舞台で自身のアーティスティックな側面を強く打ち出している印象だが、本作の美倉役でその方向性がより際立ったように思う。愛と狂気の狭間で揺れ動くキャラクターを、どこかクールに、しかし時折発作的に取り乱す姿を見せるという絶妙なバランスで演じ切っているのだ。一方の二階堂ふみも、本当に何を考えているかわからない少女(というより魔性の女?)を、あくまで自然体かつ挑発的に体現している。「かわいい」や「きれい」といった単純な形容を超えた独特の存在感があり、鑑賞後に「あのばるぼら、何だったんだ……」と振り返る瞬間が必ずやってくる。
ネタバレという点で触れておきたいのは、ばるぼらの存在が美倉を創作面で高みへ導く一方、その代償として彼の人生を徐々に侵食していく展開だ。いわば「悪魔との取引」のようなモチーフが感じられるが、そもそもばるぼらが悪魔的存在なのか、それとも彼の中の狂気が具現化した幻影なのか、解釈は観る側に委ねられている。物語終盤にかけて、美倉が社会的な立場を失い、正気を失い、果ては魂までも奪われてしまうかもしれないという危うい道を転げ落ちていく描写は、相当に刺激的だ。が、それこそが芸術家の業(カルマ)でもあるように見え、ある種の悲哀と浪漫が入り混じったカオスな魅力を放っている。
色気のあるシーンや怪しげな儀式シーンなど、一般的な商業映画ではあまりお目にかかれないような描写も散りばめられている点も「ばるぼら」の見どころだ。特に二階堂ふみの危うい美しさが際立つ場面は、観る者の好奇心と背徳心を同時にくすぐる。こうした挑発的な要素が苦手な人にはお勧めしにくいが、むしろそういうサブカル&アングラな香りをこよなく愛する人にはたまらない作品になっているだろう。
総括すると、「ばるぼら」は芸術と狂気が混ざり合うスリリングな作品であり、メジャー感とは対極にあるような「通好み」の映画でもある。大衆的な面白さよりも、観る人を選ぶ尖った表現を優先しているため、一歩間違えば「何これ意味わからん!」と敬遠されてもおかしくない。しかし、そこをあえて攻め切っているところに映画としての価値があるのだと思う。個人的には、観終わったあとに奇妙な余韻をじわじわと味わえる作品こそが、後に強烈な印象として残ると考えている。「ばるぼら」はまさにそういった意味での“突き抜けた体験”を提供してくれるのだ。
以上が激辛目線の感想・レビューであるが、一言で言えば「クセが強いが、そのクセがたまらない」。完成度としてはかなり高いと思うし、役者陣も素晴らしいが、その独特の作風ゆえに好き嫌いはハッキリ分かれるはずだ。評価をつけるなら★4くらいが妥当ではないかと思うが、それはあくまで筆者の主観。読者自身が実際に観て、この映画の正体をどう捉えるかが本当の勝負どころだ。もし気になるなら、ぜひ一度この危険な世界に足を踏み入れてみてほしい。何しろ、ばるぼらは予想の斜め上を行く存在なのだ。彼女に魂を奪われる覚悟があるなら、どうぞご自由にどうぞ、というわけである。
映画「ばるぼら」はこんな人にオススメ!
まず、刺激的な世界観やアングラな香りが大好物な人には全力で推したい。普通の恋愛映画やファンタジーに飽き足らず、一筋縄ではいかない作品を求めている方にとっては、まさしくうってつけだろう。
また、稲垣吾郎や二階堂ふみといった個性派俳優の真骨頂を味わいたい人にもおすすめである。それぞれの持つ独特なオーラや演技力が惜しみなく発揮され、二人の奇妙な関係が醸し出す怪しさが癖になっていくはずだ。さらに、芸術や創作に興味がある人、特に「ミューズ」という概念に惹かれる人は要チェックである。
ばるぼらの存在は芸術家にとってのインスピレーションの女神でもあり、破滅の使者でもあるという二面性を抱えているため、その曖昧さが逆に想像力を刺激するのだ。いわゆるハリウッド的なスッキリ感や王道ストーリーを好む人には厳しいかもしれないが、映画を観終わってから「あのシーンは何だったんだ?」と頭を悩ませたい人にはドンピシャだと思う。少し変わった映画体験を求めているなら、迷わずチケットを手に取ってほしい。
好き嫌いこそ分かれるが、当たればとことんハマってしまう。そういう振り切った作品はなかなか貴重なので、一度挑戦してみる価値があるだろう。
まとめ
映画「ばるぼら」は、観る人を選ぶがゆえに強い個性が際立った作品だ。芸術と狂気が交差する不穏なムードや、どこか背徳感を覚えるストーリー展開は、一般的なエンタメ映画にはない刺激を提供してくれる。稲垣吾郎と二階堂ふみの個性がぶつかり合うことで生まれる化学反応は独特であり、彼らが演じるキャラクターの危うさと魅力が画面に濃密に漂っている。
もちろん、「よくわからない」「後味が悪い」という意見もあるかもしれないが、そうした評価を含めて「ばるぼら」の中毒性は底知れない。原作の手塚治虫ファンも、映画オリジナルのアレンジをどう受け止めるかによって意見が分かれるだろうが、その是非もまた作品の魅力を深堀りする余地を与えているのだと思う。決して万人に勧められるタイプの映画ではないが、ハマる人にはとことんハマる。
だからこそ、観たあとに誰かと語り合いたくなる余韻があるわけで、その点で言えば映画としてのエンターテインメント性は満点といえるのではないだろうか。