映画「永遠の0」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作は第二次世界大戦中の特攻を扱うという、重厚かつセンシティブなテーマを持ちながらも、どこかエンタメ要素も感じさせる不思議な作品だ。とはいえ「命とは何か」を真っ向から問いかける姿勢は実に真摯であり、多くの観客の心にズドンと響くことは間違いない。戦争映画と聞くとつい敬遠しがちな人もいそうだが、本作は現代の若者が祖父の足跡を辿るというドラマ仕立ての構成により、ほどよいミステリー感やヒューマンドラマ要素が盛り込まれている点がユニークである。
さらにCGを駆使した空中戦シーンが目を引き、ゼロ戦ならではのスピード感は結構アツい。正直、自分は「泣かせる気満々だろ」といぶかりつつ観始めたが、気づけば引き込まれている自分がいた。重すぎず軽すぎず、しかししっかり泣かせる。この絶妙バランスこそ「永遠の0」の強みである。まさに“激辛”を期待していたら、意外と甘い魅力もあるカレーに出会った感覚だ。
では、そんな映画「永遠の0」の真髄をこれから一気に掘り下げていこうと思う。
映画「永遠の0」の個人的評価
評価: ★★★★☆
映画「永遠の0」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作「永遠の0」は、戦争映画でありながら単なる軍事アクションに終わらず、現代を生きる主人公・佐伯健太郎が、特攻で命を落とした祖父・宮部久蔵の過去を探る“回想形式のヒューマンドラマ”としても楽しめるのが醍醐味だ。冒頭から健太郎が「祖父とは血のつながりがない」と知ってショックを受けるところが始まりだが、いきなりのセンセーショナルな事実に「おいおい昼ドラかよ」とツッコミたくなる。しかしここが物語の出発点であり、やがて宮部の生涯を追う過程で、戦時中の人々の価値観や軍隊内での人間模様がリアルに浮かび上がってくるので、意外と飽きるヒマがない。
まず、主人公(孫)の現代パートと、宮部久蔵(祖父)の戦時パートの描写が交互に挟まれる構成で、ストーリーにミステリー要素が加わっているのが面白い。最初は「宮部は海軍航空隊一の臆病者」とまで言われ、「命を最優先して逃げ回っていた」という回想があちこちから出てくる。ここで観客は「え、国のために命を捧げるのが美徳とされる時代に、こんな男がいたのか」と驚くし、「そんな人間がなぜ特攻で死んだのか」という疑問を抱かされる。何せ「生きて帰ることが一番大事」という信念を貫くなら、特攻なんて自殺行為には踏み切らないはずだからだ。ここが本作最大の謎であり、フックになっている。
さらに宮部を知る元兵士たちの証言が食い違うところも巧みだ。「腰抜けでどうしようもない奴だった」と言う者がいる一方で、「誰よりも仲間や部下を大切にし、命の価値を教えてくれた」と称賛する者もいる。この相反するエピソードの数々が、観る者の興味をかき立て、「宮部は結局どんな男なのか知りたい」という衝動にかられる。戦争の悲惨な映像や特攻隊の重い事実とは別に、まるで推理ドラマを追うかのごとく先の展開が楽しめるわけだ。
さて、本作の見どころとしてまず挙げたいのは、CGを駆使したゼロ戦の空中戦シーンである。日本映画のVFXには時として「CGのクオリティが微妙」という評価が下されがちだが、本作の戦闘描写は十分迫力がある。とりわけコックピット視点のカメラワークは臨場感バッチリで、「自分もゼロ戦に乗っているかのような」錯覚を覚える。米軍の圧倒的物量とスペックに押される中でも、宮部の超絶操縦テクや、彼が編み出した“生存戦略”が光るシーンはハラハラドキドキだ。戦争映画としてのスケールを楽しむ意味でも、この空中戦パートだけはもう一度観たいと思わせる完成度である。
一方で本作は、単なる「特攻隊の悲劇」や「反戦メッセージ」の押し付けにとどまらず、「なぜ宮部が最後に特攻を選んだのか?」という問いを観客自身に突きつける。中盤までは「家族のもとに帰るんだ」「死んでも帰る」と豪語する宮部だが、教官を任される中で教え子たちが次々と若い命を散らす現実に直面し、自身の信念との板挟みに苦しむ。死んだ教え子たちへの罪悪感と、自分が無事に帰還するたびに募るやりきれない思い。この苦悩が極限に達したとき、宮部は悲壮な決断を下す。ここに至る心理的変化がやや駆け足感はあるものの、本人の真意をはっきり語らない演出が逆にリアリティを生んでいる。「命を大切に」という信念を捨てたわけではなく、どうしようもない行き詰まりの中で「自ら行くしかない」と思いつめたのかもしれない。
また、宮部が零戦の操縦や戦術的ノウハウに長けているからこそ、特攻を選んだ際には「絶対に一撃を与える」という決意を固めていたのだと推察できる。無駄死にはしない、せめて散っていった教え子たちの無念を晴らす――そんな矛盾を抱えた行為自体が悲しく切ない。しかし、彼は最後まで「生きて帰りたい」と思っていたはずであり、その葛藤を岡田准一が静かに、時に鬼気迫る表情で表現しているのが見事だ。この陰影ある演技は、観終わった後もしばらく頭に焼き付く。
それから忘れてはならないのが、宮部と妻・松乃の絆である。松乃は戦地にいる夫をひたすら待ち続け、彼からの手紙を希望の糧にして生きる。とはいえ、この夫婦のエピソードは単なる美談に終わらず、戦後の松乃の再婚など「残された家族がどう人生を歩んだか」という側面に踏み込む点に本作の強みがある。宮部の死後も、松乃が遺族の立場を越え、自分自身の人生を掴んでいく事実は、悲劇の中にも一筋の光を感じさせる。さらに、その再婚が宮部と深い因縁のある人物だったというオチは、まるで「運命がめぐり合わせたドラマ」のようであり、感動と驚きをダブルで味わわせてくれる。
その後を生きる孫の健太郎が祖父の生き様を知り、「祖父を臆病者だと誤解していたが、実は誰よりも命の価値を知る勇気ある男だった」と悟る流れも胸にグッとくる。祖父の行動はかつての若者たちを救い、妻と子を想い続け、そして現代に生きる健太郎にまで影響を与える。つまり「亡くなった人の想いは時を超えて受け継がれる」というテーマが本作の根底にあるのだろう。タイトルの「永遠の0」が示すように、宮部の生き方は死をもって終わらず、家族や知人、そして未来を担う世代に脈々と語り継がれていくのである。
もっとも、映画を観ながら「特攻という行為を美化していないか」「もっと厳しく戦争批判をすべきではないか」と気になる人もいるだろう。本作はあくまでエンターテインメント性を有しつつ、当時の軍や社会の理不尽を織り交ぜて描いているが、あまり“政治色”を出し過ぎると娯楽作として重たすぎるというジレンマもあったと推測される。だからこそ「事実を歴史ドキュメンタリーのように詳述するより、登場人物のドラマを主体にした」という判断は、映画としては正解だったと思う。もちろん本作だけでは語り尽くせない歴史の闇や真実は多々あるが、「きっかけとして戦争を知る」には十分説得力のある出来映えだ。
総評として、「永遠の0」は戦争の悲惨さを描きながらも、一方で家族愛や人と人との絆を紡ぐ希望の物語としての力強さがある作品だ。予想外に空中戦の迫力も高水準で、俳優陣の演技も熱い。特に宮部を演じる岡田准一の静かな情熱、そして現代パートを担う三浦春馬の好演は多くの観客の涙を誘ったといえる。評価は★★★★☆だが、あともう少しだけ宮部の内面変化を丁寧に描いてくれれば、星五つ満点でもおかしくないと思ったほどである。とはいえ、尺の都合もあって難しいところだろう。
いずれにせよ「自分ならあの状況でどう振る舞うのか」「家族や仲間を守りたいと思う気持ちはどう実現されるのか」を、己の胸に問いかけざるを得ない作りになっている点が素晴らしい。特攻という過酷な歴史上の出来事を、ここまでエンタメとヒューマンドラマとして消化し、多くの観客に届く形で提示できたのは見事だ。涙を誘うだけでなく、観終わった後に「今をどう生きるか」を考えさせてくれる数少ない映画でもある。どんなに時代が変わろうとも、人が命をつなげていく尊さに変わりはないのだと強く思わせる作品である。
映画「永遠の0」はこんな人にオススメ!
本作「永遠の0」は、戦争映画にあまり馴染みがない人にも断然オススメしたい。どちらかというと「重苦しい昔の話なんて無理」と敬遠してしまうタイプこそ、本作のエンタメ性やミステリー的な要素に驚くはずである。祖父の秘密を探る現代パートにはコミカルな場面もあり、過剰演技も相まって妙にクセになる“ちょっと濃いめ”のキャラが登場するのがポイントだ。真面目一直線ではなく、時に「まじかよ!」とツッコミたくなるシーンもあるため、固い内容が苦手な人でも案外スイスイ観られる。
また、家族愛や仲間との絆、そして「生きる意味を探す」人にもこの映画はうってつけだ。特攻という極限の状況下で、なお生還を望む男の姿は、時に滑稽に見えるかもしれないが、実は誰もが持っている「生きたい」「大切な人を守りたい」という普遍的な願いに通じるものがある。さらに、宮部の教え子たちとの関係を通して、「先人が後の世代に託す想い」や「世代間のバトンリレー」が胸を打つ要素となっているため、親や祖父母を思う気持ちに共感しやすい人にも響くだろう。
戦争映画と聞いただけで気が重くなる人もいるかもしれないが、「永遠の0」は映像的にも日本映画としてはかなり見応えがあり、涙を誘うだけでなく胸をスカッとさせるアクション的カタルシスさえある。涙腺の弱い人はもちろん、「CGや戦闘機シーンにワクワクしたい」「家族や仲間とのドラマにホロリときたい」といった幅広いタイプの人にオススメできる。「自分も大切な人を守るために頑張りたい」と思わされる前向きなパワーがもらえる作品なので、「観終わった後に少しでも元気になりたい!」という人にもピッタリである。
まとめ
本記事では映画「永遠の0」の感想・レビューを思う存分語ってきたが、やはり「家族愛」「生への執着」「死と隣合わせの若者たち」など、多くのテーマが盛り込まれている分だけ奥行きが深い作品だと感じる。CGを駆使した空中戦からほろりと泣けるヒューマンドラマまで、戦争映画の枠を超えた総合エンターテインメントといえるだろう。
かといってお気楽路線でもなく、特攻という重たい歴史的事実を丁寧に扱っているため、鑑賞後には「平和の大切さ」をあらためて考えさせられる。まさに★★★★☆の価値ありだ。まだ観ていない人はもちろん、以前観たけれどディテールを忘れてしまった人も、ぜひ改めて味わってみてほしい。きっと何度目かの視聴でも、新たな発見があるだろう。