映画「ファーストキス 1ST KISS」公式サイト

映画「ファーストキス 1ST KISS」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は「花束みたいな恋をした」や「怪物」など多くの話題作を手がけた坂元裕二が脚本を担当し、「ラストマイル」「わたしの幸せな結婚」で演出力に定評のある塚原あゆ子が監督を務めたオリジナルの恋愛映画である。これだけ聞いても、ちょっとむずむずするくらい期待が高まるのではないだろうか。筆者としては“どうせ泣かせるだけのタイムトラベルものでしょ?”と思いつつも、実際に観てみれば予想を裏切る展開が次々と飛び出すわ、役者陣のセリフ回しは妙に生々しく胸に刺さるわで、あっという間に2時間が過ぎてしまった。

松たか子と松村北斗の世代を超えた(?)ラブストーリーには、意外にもコミカルな味つけがあり、笑いと涙とモヤモヤがじわじわ押し寄せる。特に「カルテット」や「大豆田とわ子と三人の元夫」で坂元作品にハマった人には、この独特の会話劇と人間模様がたまらないはずである。果たして、なぜ過去へ飛んだヒロインは再び夫に恋をするのか? そして未来は変えられるのか? そんな気になる見どころを、本記事では惜しみなく明かしていこうと思う。

映画「ファーストキス 1ST KISS」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「ファーストキス 1ST KISS」の感想・レビュー

ここからは映画「ファーストキス 1ST KISS」の核心に踏み込んだ感想とレビューを遠慮なく繰り広げるので、まだ鑑賞前の人はご注意願いたい。もっとも“映画館で観る前にあえてネタバレを吸収する”という層が近年増えているらしいので、そういう人はぜひ最後まで読み進めてほしい。筆者は2度観たうえで、さらにパンフレットまで熟読したので、もはやこの作品の虜となってしまったのだ。

1. 坂元裕二×塚原あゆ子というタッグの期待値

坂元裕二といえば、「それでも生きてゆく」「最高の離婚」「カルテット」「大豆田とわ子と三人の元夫」など枚挙にいとまがないほどの人気ドラマ脚本家であり、映画でも「花束みたいな恋をした」「怪物」などを手がけている。一方、塚原あゆ子はドラマ「アンナチュラル」「MIU404」「ラストマイル」などで巧みな映像センスを見せつける気鋭の監督である。そんな二人が初めてガッツリとタッグを組むと聞いて、「そりゃ面白いに決まっているだろう」と大方のファンは思うに違いない。もちろん、筆者もその一人だった。

実際に完成した映画は、脚本に坂元節が濃厚に漂い、塚原監督が生きた人間の息づかいを映像で鮮やかに切り取るという、期待通りの掛け算が成立していた。ここで “化学反応” という陳腐な言葉を使いたくなるが、それを飛び越えて、もはや観客をまっすぐ感情の深いところまで運んでくれる“時空を超えたラブレター”のような作品に仕上がっていると感じた。

2. 松たか子が演じるヒロイン・カンナの魅力

主人公の硯カンナを演じるのは松たか子である。坂元脚本とのタッグでは「カルテット」や「大豆田とわ子~」などで抜群の好相性を見せ、すでに信頼感抜群だ。今作では45歳のカンナと、15年前の若かりし駈(夫)に出会ってしまう “タイムリープ妻” というユニークな役どころ。

普段はふわっと柔らかい雰囲気を漂わせている松たか子だが、本作ではちょっと気だるそうな表情を見せるシーンが多い。夫を亡くしてなお「気持ちのやり場がわからない」という戸惑いを抱える女性が、突然手にしたタイムトラベル能力にテンパりつつも興奮する。その心の揺れをコメディタッチに描きながら、同時に深刻な喪失感をにじませるという高度な演技をやってのける。これがどうにもクセになる。

また、劇中では過去の夫を前に「こんなはずじゃなかったのに……」と動揺したり、「やっぱり駈が好きだ」と再確認したりと、アラフォーの揺れる乙女心がけっこう露骨に描かれている。ちょっと泣けて、ちょっと笑えて、時には視聴者が「おいおい、そんな無茶しなくても……」とツッコミたくなる行動に走るのが、非常に“坂元作品らしい”のだ。松たか子自身がコメディを上手にこなせるからこそ、くどくなく、リアリティある愛おしいキャラクターに仕上がっていると思う。

3. 松村北斗が演じる夫・駈(かける)の存在感

松村北斗は「SixTONES」のメンバーとして知られるが、俳優としても「レッドアイズ 監視捜査班」「カムカムエヴリバディ」「夜明けのすべて」など多方面で評価を得ている。本作ではカンナの夫・硯駈を好演しているが、これがまた見事にハマっていた。

駈は大学研究員で古生物学を専攻し、教授(リリー・フランキー)から可愛がられ、同時にその娘(吉岡里帆)から想いを寄せられてもいる。青年としては真面目で少し不器用、そしてなぜか15年後には妻と不仲になってしまう。にもかかわらず過去を知るカンナを一目見て惹かれてしまう……という、ファンタジックでありながらも生々しい心の揺れ動きを演じ分けている。

特に松村北斗の台詞回しには、そこはかとない“切なさ”と“誠実さ”が混在している。松たか子が演じるカンナとのテンポの良い掛け合いは、「これ本当に年の差あるの?」と思うほど自然だった。実際は10歳以上離れているはずなのに、なぜか同級生のような距離感に感じられるのが不思議である。それでいて物語終盤には、夫としての懐の深さや15年後の運命を知る悲壮感がにじみ出てきて、観客をぐっと泣かせるのだから恐ろしい。ファンならずとも、「松村北斗って演技うまいんだな」と唸る人が多いのではないだろうか。

4. “過去を変えて現在を変える”という王道ファンタジー設定

タイムトラベルものはよくあるが、本作はそこに “夫婦の倦怠期をやり直す” という要素をかぶせてきた。このアイデアこそ、本作の最大のオリジナリティではないかと思う。

カンナが過去に戻るたびに「駈が死なないようにするにはどうしたらいいか?」と試行錯誤を重ね、結果的に「いや、そもそも私と結婚しなければ彼は死なないかも……?」という、いわば“自分自身が最大の障害”説に気づいてしまう。この皮肉が非常に面白い構造になっている。

しかも、いざ夫を救おうと過去をいじると、未来では思わぬ歪みが生まれてしまうという点も見逃せない。何度行っても何度やり直しても、結局どうやっても駈の死は回避できるのかできないのか。あるいは回避したら回避したで、別の人命が失われたり、駈がまったく違う人生を歩むことになったりと、カンナの行動が周囲に大きく影響を及ぼす。この “因果応報” な展開は、ファンタジーでありつつも人生のリアルさをうまく表現しているように感じられた。

5. 坂元節のセリフが炸裂する会話劇

筆者が思わずニヤニヤしたのは、やはり坂元作品名物のセリフ群だ。

「恋は盲目だけど、結婚は盲目にすらなれない。むしろ解像度が上がってしまう」
「嫌いなところを探し合うのが結婚なら、好きなところを発見し合うのは恋愛なのかもしれない」
「結婚が長くなると、正しさでぶつかり合うようになってしまう」

といった具合に、やや皮肉めいた名言が次から次へと飛び出すのだが、キャラクターが言うからこそ説得力があり、同時に笑いのツボを突いてくる。坂元作品が好きな人なら「うわ、また言ってる!」とワクワクするポイントだし、そうでない人でも「あるある、わかるわかる」と頷くはずだ。

しかも主人公が過去と現在(未来?)を行ったり来たりするので、そのセリフが少しずつ意味合いを変えていくところも面白い。たとえば、最初はただの “倦怠期あるある” みたいに聞こえたセリフが、過去の駈と出会うことで “新鮮な言葉” に変化したり、現在のカンナの心情が微妙に変わることで “痛々しい後悔” に響いたりする。セリフ自体にタイムリープ的な重層構造がかかっているのがニクい演出だと思う。

6. サブキャラたちの存在感と見どころ

メインの二人を取り巻くキャラクターたちも実に個性的だ。リリー・フランキー演じる大学教授の天馬市郎は、一見いい加減そうでありながら、じつは駈にとって大切なメンターでもある。さらにその娘を演じる吉岡里帆が、これまた純粋な想いを駈に寄せており、カンナのライバル的存在として登場するのがなかなか燃える展開だ。

森七菜が演じるのは、2.5次元舞台の美術スタッフとしてカンナの後輩にあたる世木杏里。これがまた若いのにやたらと大人びた物言いで、時にカンナを諭すような言葉をかける。そのしっかり者ぶりが笑えるし、「もっと出番をくれ!」と言いたくなるほど愛らしいキャラである。

そして個人的に注目したのは、竹原ピストル扮する宅配便配達員の存在感。彼の出番は正直多くはないのだが、どこか飄々とした雰囲気で要所要所に現れ、そのたびに不思議な安堵感を与えてくれる。まるで「タイムトラベル」なんていう非日常を、日常の側から眺める解説者のように見えた。こういう脇役がシブく輝くのも、塚原監督がドラマで培ってきた配役力と演出力の賜物だと思う。

7. 物語の終盤、涙と笑いのコントラスト

クライマックスに近づくと、当然カンナが選択しなくてはならない“ある決断”が迫ってくる。15年前の駈と再会し、もう一度恋に落ちるカンナは、何度も過去を変えようと奮闘する。だが、その先には夫との未来が訪れるのか、それとも夫は結局死を免れないのか。

このあたりの展開は賛否両論あるかもしれない。タイムトラベルものとして突っ込みどころがゼロとは言えないし、「もっとこうすればいいじゃん!」という意見もあるだろう。ただ本作の肝は“論理的整合性”よりも“感情”に重きを置いている点ではないかと思う。どんなに頑張っても人の寿命や運命を変えられないかもしれない。だけれども、そこに確かにあった愛情や思い出は、タイムリープをしようがしまいが無駄にはならないのではないか。

終盤のあのチャペルシーンでのプロポーズは、筆者も不覚ながら少し泣いてしまった。というのも、その前までの会話シーンがやたらコミカルで、ちょっと意地悪なやり取りもあり、「お互い未熟なままだなあ」と思わせたあとに、二人が切実な本心をさらけ出す。坂元脚本の王道パターンではあるが、やはり心を鷲掴みにされる。

さらにエンディングへ向かうときには“あの15年間”をどう受け止めるか、カンナと駈それぞれの愛の形が浮き彫りになる。この余韻に、劇場内は静かな涙や鼻すすりがちらほら。筆者の隣に座っていた人はぐしゃぐしゃに泣いていたし、筆者もマスクが少し濡れた。

8. 主題歌への賛否と余韻のまとめ

一部レビューで「主題歌が合わない」との声もあったが、個人的には“ミスマッチだからこそエンドロールで一気に現実に戻される”という感覚が悪くなかった。もっとしっとりした曲だったら、確かに最後まで泣きじゃくってしまったかもしれない。しかし映画を見終わった後、ちょっと頭をクールダウンさせるにはあの曲調も悪くないのでは、とも思った。

もっとも、“松たか子か松村北斗が歌えばよかったのに”と思う気持ちもわからなくはない。ファンであれば、二人がデュエットなんかしたらギャン泣き必至だろう。ただ、そこは大人の事情があるのだろうと勝手に納得した。

いずれにせよ、本作のメインディッシュは「時間をさかのぼってまで愛をやり直そうとするカンナの執着心」と「わざわざ過去からのアプローチで、夫の死を回避できるかもしれない期待と恐れ」という二重構造だと思う。そして、観終わったあとには「今隣にいる人を大切にしよう」「いつ何が起こるかわからないから、悔いのないように伝えたいことは伝えよう」というメッセージがそっと胸に残る。要するに、一言でいえば“人生のリセットはできないけど、やり直す意思はいつでも持っていい”ということだ。こうしたテーマが夫婦や恋人の観客にはどストライクではないだろうか。

結局のところ、本作はタイムトラベルというファンタジーを通して“夫婦の愛や人生観”を語るドラマだと感じた。笑うにしろ泣くにしろ、観て損はない。逆に言うと、「論理的に破たんしている!」と声を荒らげる人は、“愛や感情を語る作品”に細かいツッコミを入れてしまうタイプなのかもしれない。そういう人でも、松たか子と松村北斗のやり取りはきっと見応えがあるはずだ。

正直に言って、「花束みたいな恋をした」で感じた切なさや、「怪物」で突きつけられた鋭い視点とは、また違う余韻がある。ゴリゴリに泣かせる作品というよりは、“笑えて、泣けて、でもどこか心が前向きになる”という温かい仕上がりではないだろうか。劇場を出たあと、つい売店でかき氷を食べたくなったり、帰り道に「もしもあの時ああしていたら……」と自分の過去を振り返ったり、そんな“小さなタイムリープごっこ”をやってみたくなる。

最後まで観ると、このタイトル『ファーストキス 1ST KISS』がなぜついているのかもしっくりくるはずだ。ネタバレを承知で言ってしまえば、“何度出会っても初めてのキスを交わす”というシチュエーションに心臓がバクバクする。冒頭で「いやいや、結婚して15年も経ってたらもうキスなんてしないでしょ」と思っていた筆者も、エンドロールには「ああ、また最初のキスをやり直したいな……」なんて不思議な余韻に浸っていた。そう考えると、本作は単なるラブストーリーではなく、“夫婦がもう一度ファーストキスを取り戻すまで”の物語と言えるのだろう。

映画「ファーストキス 1ST KISS」はこんな人にオススメ!

結論から言うと、“人間関係における後悔や未練がちょっとでもある人”には強くオススメしたい映画である。特に夫婦やカップルで鑑賞すれば、観終わった後にお互いの気持ちをじっくり語り合えること請け合いだ。

なぜなら、この映画は“過去をやり直せば今が救われるのか?”という問いかけを軸にしているからだ。たとえば、長年連れ添ったパートナーがいる人なら「もしもあの時、ああしていたら今はもっと円満だったかも」と思ったことが一度はあるだろう。あるいは片思いのまま終わってしまった人がいるなら「もしもっと素直に気持ちを伝えていたら、違う未来があったかも」と考えたことがないだろうか。そんな“もしも”をファンタジーの力で描き出し、あり得ないはずの選択肢を観客の前に提示してくれるのが本作だ。

とはいえ、本作はただの甘々なラブストーリーではないので、恋愛映画が苦手な人でも観やすい。むしろ、タイムトラベルがもたらすエンタメ感や、坂元裕二特有の軽妙な会話の応酬があるおかげで、肩ひじ張らずに楽しめるはずだ。ヒロインである松たか子が、意外にコミカルな表情を見せるのもポイントである。

また、仕事に追われて「大切な人との時間を後回しにしてきた……」と反省している人にも刺さる要素があると思う。劇中の駈は、研究の道を追うか、愛する人を優先するかで揺れながら15年を過ごしている設定だ。そんな夫を間近で見続けたカンナは、過去をやり直すなかで自分自身の生き方まで見つめ直さざるを得なくなる。何となく自分の人生に迷いがあるとき、この映画を観れば「本当は何を大切にしたいのか」という問いかけが突き刺さるに違いない。
さらに“松村北斗のファン”にとっては言わずもがな必見だろう。過去の駈も、未来の駈も、いろんな表情が一度に味わえるのはなかなかレアだし、“薄幸な青年”役をやらせると彼は妙にハマる。松たか子との絶妙な掛け合いで、ときめきと切なさが同時にやって来るので、もしかしたらリピート鑑賞したくなるかもしれない。

要するに、“過去への後悔を抱えている人”、そして“いま隣にいる人を見つめ直したい人”はぜひ見てほしい。そして観終わった後は、食事でもしながら「あの時点でこうしていれば変わったかな」「もしタイムトラベルできたらどうする?」なんて会話をしてみると、きっと盛り上がるのではないかと思う。

まとめ

映画「ファーストキス 1ST KISS」は、“もし過去に戻れたら”というベタな発想を、夫婦再生の物語として描ききった異色のラブストーリーである。結婚して15年も経てば、お互いの嫌な部分が4K画質で見えてくるなんていう笑えるセリフもあれば、過去に戻ってもう一度「好きだ」と言われる瞬間に胸が締め付けられるような切なさもある。松たか子と松村北斗の組み合わせは意外かもしれないが、その意外さこそ本作の新鮮味を生んでいるのだろう。

結論としては、タイムリープ要素に突っ込みどころはあっても、最終的に我々の心に残るのは「大切な人の存在」や「今をいとおしむ気持ち」なのだと感じた。人生にはやり直せないことが多いからこそ、もし過去に戻れたらどうする? という問いが胸を打つのである。観終わったあと、「泣くもよし、笑うもよし、感慨にふけるもよし」の三拍子がそろった不思議な余韻が味わえると思う。是非、劇場や配信でチェックしてみてはどうだろうか。