映画「護られなかった者たちへ」公式サイト

映画「護られなかった者たちへ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は、東日本大震災後の仙台を舞台に、“護られなかった”人々が織りなす社会派サスペンスである。と聞くと「お、ちょっと重たいテーマか?」と思うかもしれないが、実際に鑑賞してみると期待どおりの重厚感に加え、複雑な人間ドラマがしっかり詰まっている作品であった。もっと言うと、「みんなそれぞれツライこと抱えすぎだろ!」とツッコみたくなるほどの波乱続き。とはいえ、あまりにもヘビーすぎるかというと、そこには役者陣の熱演やストーリーの起伏がバランスよく配置されていて、飽きずに最後まで見入ってしまう魅力がある。

ただし、観賞後には心のどこかにずしりと重量感が残ることは間違いないので、気軽にポップコーン片手に「ヘイヘイ映画楽しもうぜ!」とはいかない。むしろ「ポップコーンなんて食べてていいのか、オレ……」と真顔になってしまうほどのテーマ性の強さだ。だが、重いテーマの作品こそ“人間とは何か”を再確認させてくれる醍醐味があると思うので、ちょっとばかり心の準備をしてから劇場や自宅のソファに腰を下ろすのをおすすめしたい。そんなわけで、今回はこの「護られなかった者たちへ」に激辛コメントを交えつつ、しっかりとレビューしていこうと思う。

映画「護られなかった者たちへ」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「護られなかった者たちへ」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからは完全にネタバレありなので、まだ観ていない人は注意してほしい。とはいえ、重厚なストーリーゆえに事前知識が多少あっても十分楽しめる(というか心をえぐられる)作品であることは保証する。本作では、東日本大震災後の仙台を舞台に、生活保護にまつわる闇と、それによって引き起こされる事件が軸となる。殺害された被害者たちはなぜか皆、生活保護を担当していたケースワーカーであり、それぞれが妙に“ある男”とつながりを持っていた。物語は彼が犯人なのかそうでないのか、果たして何が真相なのか、というサスペンスを中心に進んでいく。

まず注目したいのは、主演の佐藤健(劇中では名前が異なるが、便宜上ここでは俳優名で語らせてもらう)の存在感である。「あれ、るろうに剣心の時みたいに剣を振り回してはいないの?」と期待する向きもあるかもしれないが、今回はまったく違う。もう心身ともにボロボロの男を熱演しており、その姿には涙腺が刺激されまくりである。さらに物語が進むにつれて「こいつほんとに殺人なんてやったのか?」という疑問が積み重なっていくので、目が離せない。

その一方で、事件を追う刑事役として登場する阿部寛(これも俳優名)は、ものすごい安定感で突き進む。阿部寛といえば大抵の作品で「仕事はできるけどちょっと不器用」みたいな役が多い気がするが、本作でもそのスタイルは健在だ。捜査に没頭しながらも、どこか人情に厚い刑事として佐藤健演じる“容疑者”に対峙していく。その過程で浮かび上がるのは、震災で傷ついた人々が抱える“見えない痛み”であり、それが生活保護の受給や申請にまつわる問題点とリンクしていくのだ。

映画としてのテンポはお世辞にも軽快とは言えない。むしろ重苦しい空気が全編を覆っているが、その分、社会の不条理がこれでもかと突きつけられてくるので、メンタルが強い人ほど「うわぁ、きつい」と思いつつも没入感を味わえるはずだ。たとえば、役所の対応の不親切さや、生活保護申請者への偏見のまなざしなど、普段ニュースで聞くだけではわからない“人間ドラマ”がしっかり描かれる。正直「俺、この場にいたら逃げ出したいわ」と思うシーンがいくつもあったが、その逃げたくなるほどのリアルさがまた本作の魅力でもある。

さらに、被害者として描かれるケースワーカーたちもただの“いい人”というわけではなく、いろいろと事情を抱えている。「おいおい、生活保護のお仕事ってそんな闇抱えてるの?」と疑いたくなるが、映画では敢えてそこを誇張している面もあるだろう。一方で「担当になったからには最後まで向き合いたいんだ」という熱意を持っている人もいるので、まったくの“悪”というわけでもない。そうした善悪のグラデーションが本作のサスペンス要素をより一層引き立てているのだ。

さて、本作の肝心の謎解き部分については、終盤で一気に真相が明かされるが、これがまた何とも言えない後味を残してくれる。犯人や動機については、単純な「こいつが悪いから殺人したんだ」という話ではなく、「こうなるまで誰も気づいてあげられなかったのか」という社会全体への問いが突きつけられる展開となっている。震災による被害と、その後の暮らしの再建を支える制度のはずの生活保護が、逆に人々を苦しめてしまう状況。その歪みが連鎖反応的に広がってしまった結果が一連の事件だった、という構図だ。

個人的には、ラストシーンで見せる佐藤健の表情にグッときた。そこにはやりきれない悲しみ、後悔、そして微かな解放感のようなものが同居している。「これって本当にハッピーエンドなんだろうか」と自問自答したくなるが、同時に「あぁ、そこに一筋の光はあるのかもしれないな」と思わせられる演出になっているのがニクい。映画を見終わった後に「あれはどういう意味だったんだろう?」といくつも頭の中で問いが回転するあたり、本作の重厚感は“観客の中に残り続ける作品”としてのパワーを持っていると感じた。

もちろん、激辛ポイントもある。まず、ストーリーが社会派すぎて「エンタメ要素」を期待すると若干肩透かしを食らうかもしれない。アクションやスカッとする展開はあまりなく、どちらかというと地味に伏線を張りながら登場人物たちを描写していくタイプの作品だ。そのため、テンポの遅さを退屈に感じる人もいるだろう。自分としては、このじわじわ感がむしろリアリティを醸し出していると思うので楽しめたが、「サスペンスはド派手な方が好き!」という人には合わない可能性がある。

また、震災に関する描写や、生活保護制度の不備がクローズアップされるため、観る人によってはトラウマや嫌悪感を刺激されるかもしれない。リアルな社会問題に向き合う映画であるがゆえに、娯楽としては重すぎると感じることは否めない。そんなときは、ストーリーにツッコミを入れたり、登場人物の気持ちを想像してみたりすることで自分なりの見方を工夫するといいかもしれない。

一方で、役者陣の熱演は見逃せない。佐藤健と阿部寛だけでなく、助演陣も相当な実力者たちが揃っているので、どこを切り取っても「この演技、やべえな」と唸ってしまうシーンがある。特に、悲しみを抱えている登場人物がふと見せる微妙な表情の変化は、スクリーンいっぱいに伝わってきて見応えがある。こうした演技合戦が全編にわたって行われているので、シリアスな展開でも飽きることなく最後まで観られるのだ。

ストーリーの結末は賛否両論かもしれない。犯人の動機や真相が明かされた後、「でもそれって解決になってるの?」とモヤモヤが残る部分は正直ある。しかし、そこが逆に“護られなかった者たち”の悲哀を際立たせているようにも思える。誰もが幸せになれるわけではない現実の残酷さを、これでもかと突きつけるからこそ、「じゃあ自分に何ができるんだろう」と考えさせられるわけだ。エンドロールが流れ始めたら、どっと疲れが押し寄せるかもしれないが、同時にどこかで「これが今の社会の一面なんだ」と腹落ちする部分もあるのではないだろうか。

総じて本作は、「明るい気分で映画を楽しみたい」という向きには向かないかもしれない。しかし、社会問題を真正面から捉えつつ、ヒューマンドラマの奥深さを体験したい人にはドンピシャな作品である。筆者としては、「みんな今こそポップコーンは封印して、たまにはこういう映画を観てみるのもいいんじゃない?」と思わせてくれる意味で非常に意義深いと感じた。その後に軽いコメディ映画をはしごしたくなるかもしれないが、それもまた映画の醍醐味というものだろう。

とはいえ、個人的評価は星3つ、すなわち★★★☆☆である。めちゃくちゃ面白いかと言われると、どうしても「重たい」のひと言が頭をよぎる。しかし、決してつまらないわけではなく、むしろ骨太の良作だと思う。「もうちょっとテンポが良かったら星4ついってたかも……」というジレンマを抱えつつも、鑑賞後に何か心に残る体験をくれる作品としては貴重である。アクション満載でもなければ、ファンタジー要素も皆無だが、社会派ドラマを堪能したい人なら存分に満足できるだろう。

映画「護られなかった者たちへ」はこんな人にオススメ!

本作をおすすめしたいのは、まず社会問題をテーマにした映画が好きな人である。「現実から目を背けずにエンタメを楽しみたい!」なんていう、ちょっとMっ気のある人には特に向いているかもしれない。また、東日本大震災後の地域社会がいかに困難を抱えているか、そのリアルに触れたい人にはぜひ観てほしい。ポップコーン片手にワイワイ盛り上がる娯楽映画とは程遠いが、だからこそ得られるものがある。あるいは、ミステリー好きの方にも注目してもらいたい。殺人事件の犯人を追いかける展開自体はサスペンスとして面白いし、伏線の貼り方もそこそこ巧みだ。心の闇と社会の闇が複雑に絡み合うストーリーゆえ、結末を知った後にもう一度見返すと「なるほど、そういうことか!」と再発見するシーンが多いはずだ。

さらに、「役者の演技をたっぷり堪能したい」という人にもぜひおすすめしたい。佐藤健や阿部寛だけでなく、脇を固めるキャストが皆、どこかにか弱さや熱量を秘めたキャラクターを演じているので、思わず「頑張れよ!」と声をかけたくなる瞬間が多い。映画を観るときに「感情移入しやすい人」や「登場人物と一緒に苦悩を体験したい人」にとっては、かなり感情を揺さぶられる体験になるだろう。落ち込んだ日の夜に見ると心がズシンと重くなるが、逆に言えば、それだけ作品世界に入り込めるパワーを秘めた映画だと言える。社会派サスペンスと人間ドラマが見事に融合した一作を求める方にはうってつけである。

まとめ

「護られなかった者たちへ」は、決してライトなお祭り映画ではない。むしろ「おいおい、こんなにも暗くて重いテーマ大丈夫かよ?」と思うほどヘビー級の作品である。しかし、だからこそ記憶に深く刻み込まれる力を持っている。鑑賞後は心が沈みつつも、「いや、これが現実なんだよな」と考えさせられたり、登場人物たちの選択に想いを馳せたりする時間が増えるはずだ。その意味では、ただ観て終わりではなく、何かを問いかけてくる映画だと言える。

自分としては、「もうちょっと気楽に見られる仕掛けがあってもいいんじゃない?」と思うところもあったが、そこをあえて排除するからこそ、本作独特の張り詰めた世界観が際立つのだろう。緊張の糸をずっと持続させる演出はなかなか骨が折れそうだが、役者陣の熱演がその難易度の高い作業を支えている点も見逃せない。もし次に観るなら、覚悟を決めて、落ち着いた部屋でじっくり向き合いたい。観終わった後は、きっといつもより真面目に「自分にとっての正義」とは何かを考えてしまうことだろう。そんな映画に出会えるのは、ある意味で幸運だと思う。