映画「PERFECT DAYS」公式サイト

映画「PERFECT DAYS」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

人生に疲れ果てた大人に向けた映画かと思いきや、意外にも「静かに自分を見つめ直す」みたいな雰囲気がビシバシ伝わってくる作品である。だが、そういう落ち着いた作品ほど腹ペコの深夜に観ると、ついラーメン二郎を思い出してしまうのは筆者だけだろうか。都会の片隅で孤独なトイレ清掃員が淡々と過ごす日常は、ショッキングな展開こそ少ないものの、妙にクセになる“うま味”がある。と同時に、まるで人知れずじわじわ病みそうな気配も漂うのがなんとも絶妙だ。

本作は世界的に有名な監督が、日本という舞台を新たな切り口で切り取った意欲作である。見る人によっては「なかなか動きがなくて退屈だ」と思うかもしれないし、「いやいや、こういう静かな映画が良いんだよ」と思うかもしれない。そんな賛否両論もろとも、どっちに転んでも不思議と後味が残るのが「PERFECT DAYS」の不思議な魔力だ。いわばスルメ映画的な趣で、じわじわ噛めば噛むほど味が出てくるタイプと言えよう。シンプルかつ奥深い物語構造には隠し味がしっかり仕込まれているので、心の準備をしたうえで鑑賞するといいかもしれない。

映画「PERFECT DAYS」の個人的評価

評価: ★★★★☆

映画「PERFECT DAYS」の感想・レビュー(ネタバレあり)

「PERFECT DAYS」の感想として率直に言うならば、これは“トイレ清掃員が実は最強の癒し系ヒーローだった”という物語……ではない。そもそも、本作の主人公は超人的なスキルや秘密の過去など持ち合わせていない、ごく普通のおじさんだ。だが、その“普通”こそが妙に心をザワつかせる。トイレを磨きつつ、一日一日を淡々と過ごす主人公の姿からは、グルメ映画にも負けない“生活の匂い”が立ち上がってくる。ネタバレを恐れず言えば、この男の人生は決して派手ではない。むしろ地味である。にもかかわらず、見終わった後にどうにも捨て置けない余韻が残るのだ。

まず魅力的なのは主人公の“隠れた人間味”である。彼は一見して寡黙な職人肌だが、掃除道具を扱う姿にどこかカリスマ性さえ漂っている。最初は「単に掃除が上手い人」という印象なのだが、繰り返し彼のルーティンを見せられるうちに、そのルーティンこそが彼の人生哲学そのものに思えてくるから不思議だ。早朝に家を出て、トイレの床を磨き、ゴミを拾い、汚れを落とす。その工程はもはやアートレベルの美学に感じられる。これが観客をして「このオジサン、実は悟りの境地にいるのでは?」と妄想させるポイントなのだ。

ストーリー展開としては、決してアップテンポなエンタメ要素があるわけでもないし、事件らしい事件は起きない。最大のハプニングは、たまに変わった客がトイレに入ってくることぐらいだろうか。ネタバレとしては、主人公がかつて抱えていた人間関係の断絶がちらっと垣間見えるシーンがあり、そこから観客は彼の過去を想像することになる。どうやら普通のサラリーマン時代があったようだが、今はトイレ清掃という仕事にやりがいを感じているらしい。ただ、何がきっかけでこの仕事を選んだのかは詳しくは描かれない。むしろ監督は意図的に説明を省き、想像の余地を残している印象である。

ここで一つ気をつけたいのは、やたらと精神論に走りすぎて「いい話」を強調しすぎると、本作の味わいを損ねかねないという点だ。「PERFECT DAYS」のレビューを語るとき、大事なのはこの映画が持つ“空白”の部分を楽しむこと。主人公の日常には一見なんの刺激もないようでいて、ちょっとした雑草のような風景、街中の看板、周囲の人々とのちょっとしたやりとりが織りなすモザイク状の世界が美しく描かれている。それらに意味があるのかないのか、下手をすると「ぜんぜんオチがない!」と突っ込みたくなるが、そこを気にせず身を委ねると、不思議なほど心が軽くなる。まるでシンプルな朝食を噛みしめるような感覚だ。

撮影面で言えば、都会の喧騒がやけに心地よく映し出されるのもポイントだ。大都会のど真ん中のトイレなんて、普通はストレスしか感じなさそうだが、本作の画作りはそのイメージを逆手にとっている。むしろ日々更新されていくビル街や広告の中で、小さなハミングのように存在する主人公が際立つ。街はどんどん変化していくのに、主人公のルーティンは毎日変わらない。現代社会のせわしなさと、彼の不動ぶりとのコントラストがシュールな笑いを誘うと同時に、観客に「安定って悪いことじゃないのかも」と思わせてくれる。

もちろん、映画としての“スパイス不足”を感じる人もいるだろう。アクションもなければ恋愛ドラマもほとんどない。サスペンス的な謎解きがあるわけでもない。あるのは男の日常と、ちょっとした人間模様のみである。はっきり言えば地味だ。だが、逆に言えばその地味さこそが日常のリアリティを強調しているとも言える。誰もが想像する“自分がこれから先に年老いていく姿”を、少しだけ先取りして見せられているような感覚があるのだ。

ネタバレをさらにかいつまんで述べるなら、本作の終盤で主人公がある人物と再会する場面がある。ここで彼の過去に触れるわずかな情報が提示され、観客は「実はああいう人生があったからこそ、今彼はこんなに落ち着いているのか」と腑に落ちるかもしれない。ただ、それすらもさらりと流され、すぐに通常営業に戻る。普通の映画ならそこをドラマティックに盛り上げるところだが、「PERFECT DAYS」はまるでシャンプー後の髪を自然乾燥させるがごとく、一切ドライヤー的な演出はしない。まさに静かなる激辛映画である。観る人によっては「もっと盛り上げろ!」とツッコみたくなるが、そこを敢えて外すのがこの作品の流儀なのだろう。

さらに言えば、音楽の選曲も独特だ。あえてスローテンポな楽曲が多用され、耳馴染みのある曲がどこかで流れてきたと思ったら、すぐにシーンが切り替わる。これがまた「ちょっとわざとらしくない?」と思わせる反面、主人公の感情の揺れを暗示しているようにも感じられる。結局、映画のタイトルどおり“完璧な日々”なんてものは存在しないのかもしれないが、いま目の前にある“なんてことのない日常”が、実は一番尊いのではと気づかせてくれる。そういうメッセージを届けようとしているのかもしれない。

本作は観る人の状態によって評価が大きく変わる映画だ。疲れ切ったサラリーマンが観れば「明日も頑張ろうかな」という気持ちになるかもしれないし、バリバリ仕事をこなしている学生が観れば「いや、もっとガツガツ生きてもいいんじゃないか」という別の感想を抱くかもしれない。いずれにしても、わずかなエピソードの変化を丁寧になぞるような時間が、現代人には必要なのだと教えてくれる作品だと思う。激辛評価を下すなら、“スパイスの効き方がやや控えめすぎて物足りない”という声は確かに理解できる。だが、その分だけ噛めば噛むほど味が出るスルメ感があるのも事実だ。

よくあるヒューマンドラマのように、泣けるシーンや大オチが用意されているわけではない。にもかかわらず、エンドロールが流れたあとに深いため息とともに「あれ、案外こういう人生も悪くないかも」と思わされる。そんな作品である。決して派手な味付けはしていないが、静かに心をえぐられたい人や、人生のひと休みを味わいたい人にとっては、最適な一杯ならぬ“一作”となるはずだ。ここまで読んで「いや、もっと刺激が欲しいんだけど」という方には申し訳ないが、たまにはこういう映画に身を委ねてみるのも悪くない。映画「PERFECT DAYS」は、あなたにとっての“小さな発見”を提供してくれるかもしれないのだ。

映画「PERFECT DAYS」はこんな人にオススメ!

まず、忙しすぎて自分の時間を持てないビジネスパーソンにはぜひおすすめしたい。朝から晩までスマホとパソコンに追われ、気づけばカフェイン中毒寸前、そんなストレスフルな状況にいる人ほど「主人公のように地味だけど規則正しい生活って、意外といいかも…」と心がほぐれる可能性が高い。逆に、アクションと爆発音ばかり追いかけている方にとっては“凪”のような時間が退屈に感じるかもしれないが、そこをあえて乗り越えると、日常の風景が一変して見えるはずだ。

また、人間関係に疲れてしまった方にもおすすめだ。主人公は基本的に一人で黙々と働いているが、それでもさまざまな出会いを少しずつ経験していく。そのさじ加減は絶妙で、社交的すぎず、孤立しすぎず。観ているこちらは「これくらいの距離感がちょうどいいんじゃない?」と思わず納得してしまう。さらに、映画のテンポが穏やかなので、休日にのんびりソファで観たい人や、コーヒー片手にリラックスしたい人にもハマりやすい作品だろう。

とはいえ、誰しもが即ハマる保証はない。特に、バリバリのエンタメ思考で、常に衝撃の展開を求めるタイプには向かないかもしれない。しかし、人生の合間に立ち止まる瞬間を求めている人や、静かだけれどじんわり効いてくる映画を観たい人にはうってつけだ。いわば、人生の合間にしっかりと“休符”を入れたい人にはぴったりの作品である。

まとめ

映画「PERFECT DAYS」は、派手さこそないが、じわじわと効いてくる“スルメ映画”である。主人公が黙々とトイレを清掃する姿には、不思議と一種の芸術性が感じられ、日常のルーティンがこんなにも味わい深くなるのかと驚かされる。

ストーリーには大きな起伏はないものの、その分だけ観る人の想像力をかき立て、静かに心を揺さぶる力を持っているのだ。忙しい現代社会の中で、ひと呼吸おいて自分自身を見つめ直すきっかけになるかもしれない。

そんな小さな発見と癒やしを提供してくれる「PERFECT DAYS」は、一見地味ながらも奥深い味わいを秘めている。一度観ただけでは掴みきれない部分が多いが、あえて二度三度と噛むことで、その良さをより深く感じるだろう。