映画「紅の豚」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
スタジオジブリ作品の中でも、ひときわ異彩を放つのがこの「紅の豚」である。なにしろ、主人公が豚の姿をした凄腕パイロットという設定からして、子ども心にも「いや、どういうこと!?」とツッコミたくなる。だが、見ているうちに不思議と違和感が消え、「これって実はものすごく深いテーマを扱っているんじゃないか…?」と考えさせられるのが本作の面白いところでもある。大空を優雅に飛びまわるレッド・飛行艇・ユーモラスなライバルたち――これらが生み出す独特の世界観が、観客をあっという間に物語の中へ引き込んでいく。
加えて、アドリア海の景色やノスタルジックな音楽、また強い女性キャラクターの存在感など、作品全体を通して「美意識とは何か」を突きつけられる点も見逃せない。本記事ではそんな映画「紅の豚」について、激辛テイストな視点も織り交ぜつつ、感想・レビューを思う存分語っていきたいと思う。
映画「紅の豚」の個人的評価
評価:★★★☆☆
映画「紅の豚」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作を思い返すとき、まず頭に浮かぶのは「豚」の姿をしたパイロット――ポルコ・ロッソの強烈なキャラクターである。普通、主人公が豚だったらギャグ要員かマスコット的扱いになりそうなものだが、「紅の豚」においてはそうはいかない。顔は豚でも中身はバリバリの人間、しかも元エースパイロットで、女性の扱いはスマート、そして相手が海賊だろうがなんだろうが決して逃げない男気を見せる。いや、彼に男気という言葉を使うのは適切なのかどうか悩むところであるが、間違いなく“漢”の魂を持っているのは確かだ。
ただし、本作の魅力はポルコのキャラクターだけにとどまらない。むしろ、作品全体を貫く世界観と、その背景にあるストーリーが見どころ満載である。舞台は戦間期のイタリア・アドリア海。空賊が飛行艇で暴れまわり、海軍がそこそこ強面で登場する時代を、あえてコミカルかつ美しく描いている点が特徴的だ。ジブリ作品といえば「自然や人々の営みを大切にする」というメッセージが込められることが多いが、「紅の豚」においても“自由”や“美しさ”に対するこだわりが至るところに感じられる。紅く塗られた飛行艇はもちろん、空の青さや海の広がり、そして街並みまでが、何とも言えないノスタルジックな色彩で彩られているのだ。
さらに、ストーリー上で外せないのが、ポルコを取り巻く個性的な女性キャラクターたちだ。幼なじみでホテルを営むマダム・ジーナは、まさに大人の女性の魅力を体現したような存在である。一方、新たにポルコの飛行艇を修理・改良することになる若き技術者フィオ・ピッコロは、まだあどけなさも残るが、逆境をものともしないパワフルな天才少女として描かれている。ジーナとフィオが対照的でありながらも、それぞれがポルコの世界観を支える重要な柱になっているのが面白い。ポルコ自身は「オレは豚だ」とどこか突き放したように生きているが、実は周囲の人々――特に女性たち――の想いに救われている部分が大きい。そこがまた、“ちょいワルおじさん”という言葉では片付けられないポルコの魅力を生んでいるのだ。
さて、この「紅の豚」には確かに“絵になる”格好良さがある。空賊相手に「お前ら、どこまで金が欲しいんだよ」と渋くキメながら戦うシーンや、カーチスというライバルパイロットとの空中戦などは、正直テンションが上がる。ただ、同時に笑いの要素もたっぷりある。空賊たちの間の抜けっぷりや、「え? そんな簡単に騙される?」と思わず言いたくなるコミカルなシーンも多く、シリアスとユーモアのバランスが絶妙だ。加えて、カーチスがちょいちょい滑稽な失態をさらしてくれるのもたまらない。そんな彼らのおかげで、作品全体としての“軽快感”が増しているように思う。
ただし、その軽快さの裏には、戦争や時代背景の暗さが確実に横たわっている。ポルコがなぜ豚の姿になったのか、そして彼がどういう過去を抱えているのか――これは映画の中盤以降で少しずつ明かされるポイントだが、夢のように美しい天空と海の世界に、実は重い現実が混在しているという事実が大きなテーマになっている。要するに、あの豚面は単なるギャグ要素ではなく、ポルコが“人間としての誇りや痛み、そして罪悪感”を背負って生きている証と見ることもできる。作中でその背景が100%クリアに説明されるわけではないが、そこがまた想像力をかき立てられて面白い部分だ。
監督の宮崎駿氏はもともと飛行機マニアとして有名であるが、いかにも“好きなものを好き勝手に詰め込みました!”という熱量が「紅の豚」からは伝わってくる。実際、飛行艇のメカ描写や、空中戦のシーンには並々ならぬこだわりが感じられるし、同時にそんなディテールへのこだわりが「浪漫のかたまり」を生み出しているようにも思う。作品を鑑賞しているだけで、なんだか自分まで空を飛んでいるかのような開放感を味わえるのは、このディテールの積み重ねがあるからこそだろう。
もっとも、本作を観ていて「紅の豚」の感想としてよく語られるポイントの一つは、“大人向けジブリ作品”だという位置づけである。ジブリといえば「となりのトトロ」や「魔女の宅急便」といったファミリー層向けの作品で認知度が高いが、ファンの間では「子どもが観ても楽しいけど、本当のところは大人が見てこそ味わいが深い」という評価を受けることが多い。劇中に散りばめられた社会や戦争に対する批判的な視点、そして人生の哀愁を帯びたポルコの姿――これらは、子どもにはちょっと理解しがたいかもしれない。むしろ、歳を重ねてから観ると「これは痛いほど分かる」「このセリフが胸に刺さる…」という気づきが増えていく作品なのだ。
ただ、“大人向け”と言いつつも、フィオのような若いキャラクターも活躍するし、コミカルな要素もあるので、少なくとも退屈することはまずないだろう。空を飛ぶ爽快感は子どもでも十分に楽しめるし、豚の姿になった主人公という設定自体がネタとしても面白い。だからこそ、観る年代や環境によって捉え方が変わる映画ともいえる。「紅の豚」は、子どもの頃に観た印象と大人になってから観た印象がガラッと変わる、いわゆる“成長とともに味が増す映画”の代表格なのかもしれない。
とはいえ、やはり個人的に気になるのは、ポルコが「自由とは何か」を常に突きつけてくる存在だということだ。彼は国家や軍隊といったシステムから自分を切り離し、「カッコイイと思ったことだけやる」という生き方を貫いている。実際そんな生き方がどれだけしんどいかは想像に難くないが、彼はそれでも“豚”であり続けることを選んでいるようにも見える。もしかすると、その姿勢には「人間に戻るよりも、豚のままで通すほうが誇りが保てるんだ」という覚悟があるのかもしれない。普通に考えれば豚の外見は不便も多いはずだが、そこにはある種の「抗いきれない運命」を抱えつつも、それを受け入れながら自らの流儀を突き通す男のロマンが詰まっているのだ。ここが、意外と観ている側の胸を打つ要因なのではないかと思う。
一方で、ラストの展開は非常に曖昧で、いかにもジブリらしい“余韻”を残して終わる。あの結末をどう解釈するかは、視聴者の数だけ答えがあるのだろう。個人的には、あの一瞬に見えたような気がする“素顔”こそが、本作が伝えたかった“本当の自由”へのヒントなのではないかと感じている。あるいは、まだまだ彼の旅は終わらず、空のどこかを豚の姿で悠々と飛び続けているのかもしれない。いずれにせよ、このラストがあるおかげで、映画を観終わったあともポルコの物語は続いていくような気がしてならない。
総じて言えば、「紅の豚」は“かっこいいおっさん”(豚だけど)と、ユーモラスな仲間たちが織り成す爽快なアドベンチャーでありながら、実は深いテーマを秘めた作品である。人生の酸いも甘いも経験してきたからこそ見える景色が詰まっていて、それをさらりと魅せる演出力がジブリの真骨頂だ。もちろん、観る人によって「いや、そうは言っても豚って何なんだよ!」とツッコミたくなることも多々あるだろうが、それも含めての“味”だと思う。あまりにも作り込まれた世界観と、あえて謎を残しておくストーリー展開が、観終わったあとに「もう一回観たい」と思わせる魔力を放っている。まさに、一度ハマるとクセになる作品なのだ。
激辛視点で言えば、やはりストーリーのボリューム感がやや短めで、もっとポルコの過去や世界情勢を描いてほしかったなという気持ちもある。戦争がちらつく世界に生きる男が豚になった経緯をもう少し深掘りしても面白かったのではないかと思うのだ。あるいは、ジーナやフィオの背景をもう少し見せてもらえたら、ラブロマンス的要素もさらに盛り上がったはずである。だが、それを差し引いてもなお、飛行シーンの気持ちよさとキャラクターの魅力は揺るぎない。むしろ、あえて詰め込みすぎずに「大人の余裕」を感じさせる作りに仕上げたのが、本作の味わいを引き立てる結果になったのかもしれない。
というわけで、今回の「紅の豚」の感想としては“軽妙なエンタメ性と、渋い人生観を同居させた快作”という結論になる。評価こそ★★★☆☆とほどほどだが、それは本作が持つ“とっつきやすさ”と“語り足りない部分”の両方を反映したものでもある。決して凡庸という意味ではなく、むしろ3つ星とは言え十分に観る価値があり、タイミングや視聴者の年齢によっては「これは自分にとっての最高傑作だ!」と化けるポテンシャルがある、そんな作品なのだ。
映画「紅の豚」はこんな人にオススメ!
「紅の豚」は、まず何よりも“人生にちょっと疲れた人”にオススメである。なぜなら、主人公のポルコ自身が一筋縄ではいかない過去を背負いながらも、それをあえて軽口と気障な態度でかわしつつ、豚の姿で生きる道を選んでいるからだ。言い方は乱暴だが、「人間やってらんねぇ!」という瞬間は誰にでもあるだろう。そんなときにこの映画を観ると、「豚のほうが気楽かもしれない」と思うかもしれないし、逆に「いや、やっぱ人間でいたいわ」と再確認できるかもしれない。いずれにせよ、ちょっと自分の悩みが軽くなったような気分になるのだ。
また、ロマンチックな風景や空中戦が好きな“乗り物マニア”や“メカ好き”にもたまらないだろう。飛行艇の細かい描写や大空の描き方は、まさにジブリの真骨頂である。さらに、強い女性キャラクターが好きな方にもオススメだ。ジーナの大人の色気にうっとりするも良し、フィオの突破力に元気をもらうも良し――男勝りの戦闘シーンとはまた違う女性の存在感が描かれているのが魅力である。
また、宮崎駿監督のファンにとっては、監督の“飛行機愛”をとことん味わえるのも見逃せないポイントだ。飛行機シーンの迫力はもちろん、空にまつわる描写やメカニックのこだわりを見るだけで、「ああ、この人は本当に飛行機が好きなんだな」としみじみ思うに違いない。そんなディテールの積み重ねは、時代を超えてなお色あせない本作の魅力をさらに強化している。
要するに、ちょっとユーモアのある大人向けの作品が観たい人、あるいはファンタジー要素があるアニメを気軽に楽しみたい人には間違いなく刺さる一本だと思う。豚の顔を見て「なんだこれ?」と笑いつつも、最終的にはポルコのかっこよさに惚れ込む可能性が高い。そんなギャップを求める人にもオススメである。
まとめ
「紅の豚」は、飛行機好きの宮崎駿監督が“好きなもの全部盛り”で仕上げた、ある意味では大人の遊び心が詰まった映画だ。豚の姿の主人公が、懐かしさと哀愁を背負いながら大空を駆ける姿は、見ていて実に爽快だし、ちょっぴり切なくもある。美しいアドリア海の風景や個性的なキャラたちが醸し出す空気感、そして空賊たちとのコミカルなやり取りは、一度観ればなかなか頭から離れなくなる。
評価は★★★☆☆としたが、それは本作が決して平凡という意味ではなく、むしろ観る側の人生経験によって評価が大きく変動する“幅”があることの裏返しでもある。観るたびに新しい発見があり、子どものときの印象と大人になってからの印象がガラリと変わる、そんな懐の深さが「紅の豚」の魅力だ。豚の姿で生きる男の生き様に興味があるなら、一度はぜひ体験してみてほしい。