映画「借りぐらしのアリエッティ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作はスタジオジブリが手がけたファンタジー作品である。小人の少女アリエッティと人間の少年との出会いが描かれるが、その舞台が庭や家の隅っこだったりするから、こっちまで小人の仲間入りをした気分になる。
アリエッティの視点で見上げる人間や動物は、想像以上の迫力だ。ジブリ作品にありがちな圧倒的美術背景が本作でも炸裂していて、緑の色彩や光の表現にうっとりする。あまりに美しいから目の保養にはなるが、正直ストーリーは賛否両論ある印象だ。盛り上がりにやや欠けるとか、キャラクターの内面描写が少ないとか、いろいろ言いたいことは山積みである。
しかし、ジブリのブランド力があるからこそ期待値が高くなり、そこからくる「思ったより地味…?」というギャップもまたおもしろい。とはいえ、小人世界の描写や優しい色合いは見どころ満載だ。そんなわけで、今回は映画「借りぐらしのアリエッティ」の感想を激辛スパイスをちょっぴり添えながらお届けしたいと思う。
映画「借りぐらしのアリエッティ」の個人的評価
評価: ★★★☆☆
映画「借りぐらしのアリエッティ」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作「借りぐらしのアリエッティ」は、メアリー・ノートンの児童文学『床下の小人たち』を原作としてスタジオジブリが制作した作品である。ジブリといえば宮崎駿監督のイメージが強いが、本作の監督は米林宏昌氏。宮崎監督は企画や脚本に携わっているため、作風にしっかりジブリらしさが宿っているのは間違いない。とはいえ、いわゆる「宮崎アニメ」独特の迫力やスケールの大きさとは少し趣が異なるのも事実だ。まずはストーリーから振り返ってみよう。
物語は、病気療養のために叔母の屋敷を訪れた少年・翔(しょう)が登場するところから始まる。翔は心臓に病を抱え、手術を控えた状態である。そこで、古い屋敷にひっそり暮らす小人の少女アリエッティと出会う。彼女は両親とともに、家の床下に住み、人間の生活用品をこっそり“借り”にいく小さな住人だ。小人世界の掟では「人間に見られてはいけない」と厳しく定められているが、翔は思いがけずアリエッティの姿を目撃してしまう。そこから二人の奇妙な交流が始まり、友情とも呼べるような絆が芽生えていくわけだ。
ネタバレ込みで言ってしまえば、物語の展開自体は比較的シンプルである。アリエッティたちは人間に存在を知られることを恐れつつ、しかし翔が徐々にアリエッティを気遣うようになる。一方で、家政婦のハルというキャラクターが登場し、小人の存在を知り、その生態を暴こうと躍起になる。このあたりのコミカルかつスリリングな展開は、まるで「小人と猫と中年女性の鬼ごっこ」を見ているかのようで、ちょっとしたハラハラ感が味わえる。しかし同時に、ハルの動機が「ただの好奇心」なのか「屋敷の秩序を乱す者への排除行動」なのか、イマイチはっきりしないところがある。そのため、悪役としての彼女の存在感が中途半端に感じられるかもしれない。
本作はタイトルに「借りぐらし」とついているように、小人たちは必要最小限のものをこっそり人間から借りて暮らしている。その暮らしぶりの描写が非常に細やかで魅力的だ。たとえば、砂糖のかけら一つでも小人にとっては大きな塊であり、糸一本を使ってピンチを切り抜ける姿はなかなかハラハラさせられる。ジブリといえば背景美術が圧巻で、本作もその美麗さは健在である。木々の葉、草むらの影、水滴のきらめきなど、アリエッティ視点で見る世界は私たちが普段見ているものと同じはずなのに、まるで異世界のように新鮮な魅力がある。背景美術だけでも十分に「借りぐらしのアリエッティ」のレビューとして語る価値があるだろう。
ただ、ストーリー面においては、物足りなさを覚えるかもしれない。まず、翔とアリエッティの関係が急速に深まっていく過程がややあっさり描かれている。翔はどちらかといえば孤独で無気力な少年として描かれているが、アリエッティという小人に出会い、わずかながら生への意欲が芽生える…そのはずの心情変化がものの数分で進んでしまう感がある。ついでに言えば、アリエッティ側も最初こそ「人間に見られてはいけない!」と必死に逃げ回るのに、一度見られた後は割とあっさり会話をしてしまう。このあたり、もう少しドラマチックに演出してくれてもよかったのではないかと思う。
しかし、ハートフルな部分も間違いなく存在している。翔が自分の手術への恐怖や自分の未来への不安を抱える中、アリエッティという“小さな”存在がむしろ彼の“大きな”支えになっていくところは感動的だ。自分より小さい相手を守ってあげたいという気持ちが、翔の人間性を少しずつ解放していく。と同時に、アリエッティ側も「人間は怖い」と思っていたが、翔の優しさに触れて「彼は違うかもしれない」という小さな希望を抱く。その両者の視点が交差する瞬間こそ、本作の最も美しい部分である。
また、アリエッティの母ホミリーや父ポッドといったキャラクターも魅力的だ。ホミリーはちょっとおっちょこちょいで、母親らしい温かさと小心さがいい味を出している。ポッドは落ち着いた性格で、頼れる父親像を体現している。家族としての絆と小人コミュニティのアイデンティティは本作の核心とも言える。人間世界の脅威が迫る中、それでも自分たちの生活スタイルを守り抜こうとする家族愛は、見ていてしんみりさせられる。一家が新天地を求めて旅立つ決意をする終盤のシーンは、静かだが力強い意志が感じられ、余韻を残してくれる。
ビジュアルの素晴らしさはもちろんだが、音楽もまたいい仕事をしている。フランスの歌手・セシル・コルベルが歌う主題歌は、不思議と懐かしさを誘うメロディでありながら、異国情緒を醸し出す。ジブリ作品の音楽といえば久石譲氏のイメージが強いが、本作はあえてそこから離れることで作品の世界観を際立たせているように感じられる。ただし、その分インパクトに欠けると感じる人もいるかもしれない。いずれにせよ、この柔らかな音楽がアリエッティたちの小さな生活を包み込むようで、僕としては好感を持った。
さて、ここまで褒めつつも、激辛スパイスを振りかけるならば、やはり「物語のメリハリ不足」という点は否めない。ジブリの長編作品と比べると、盛り上がりのピークが小さく、一気にドカンとくるクライマックスシーンがない。悪役に相当するキャラクター(ハル)も、何か歯車がかみ合っていないというか、動機の弱さが目立ってしまい、緊迫感に今ひとつ欠ける。そのため、映画を見終わった後、「きれいだったけど、特に大事件は起きなかったな…」という印象を持つ人もいるだろう。とはいえ、このしみじみとした余韻こそが本作の真骨頂と捉える向きもあるのかもしれない。小さな存在が大きな世界で必死に生きている。その事実そのものが切なくもあり、愛おしくもある。この微妙な“しみじみ感”をどう評価するかで、本作への満足度は大きく分かれるだろう。
アリエッティは勝気で明るい少女として描かれているが、やはり家を出ざるを得ない状況に対する不安や人間を恐れる気持ちを抱いている。翔は心臓の病気によって命の儚さを意識せざるを得ず、半ば死を覚悟している節がある。この対比がもう少し丁寧に描かれていれば、作品全体のテーマがより明確になったのではないかと感じる。小さな命でも必死に生きるアリエッティ、大きな身体を持ちながら心が弱っている翔。この二人の価値観が衝突しつつ共鳴し合うドラマを想像していたら、少々肩透かしを食らうかもしれない。しかし、その薄味さ加減がむしろ優しい映画体験として生きているのも事実なのだ。
最終的にアリエッティ一家は新天地へと旅立ち、翔は手術への一歩を踏み出す。互いの世界は交わりきれないまま別れてしまうが、淡い絆は確かにそこにあった。あの短い交流が、翔にとって生きる意欲になったし、アリエッティにとっては「人間にも優しい人がいる」という希望の光になった。まさに儚い一期一会である。派手さや劇的な展開を求める人には向かないかもしれないが、静かに心が満たされるような体験を求める人には刺さる作品ではないだろうか。
こうした余韻重視のストーリーに物足りなさを感じるか、それとも美術と音楽、そして小人たちの日常描写の可愛らしさに心打たれるか。そこが評価の分かれ目だと思う。僕としては、もうひと味ガツンとくる要素が欲しかったのは事実だが、それでも小人の暮らしを丁寧に描く姿勢や、ジブリの美麗な背景、そして儚い絆の物語には素直に心惹かれた。評価は★★★☆☆としたが、それは「悪くはないけど、すごく良いとも言えない」という意味合いの3つ星である。しかし、それでもアリエッティの活き活きとした表情や、庭の草むらの美しさ、ポッドやホミリーの愛嬌は強く印象に残っている。結局のところ、ジブリが生み出す作品には常に独特の“ぬくもり”があるのだろう。
総括すると、本作は「ジブリの新境地を開拓した作品」というより、「ジブリが大切にしてきた“小さなものへのまなざし”を改めて浮き彫りにした作品」だと感じる。小さな存在が大きな世界で健気に生きる姿を見て、自分が普段当然だと思っている環境やサイズ感を見直すきっかけにもなるかもしれない。また、翔のように閉じこもった心を抱えている人が小さな勇気をもらう物語としても機能している。以上の点を踏まえて、改めて「借りぐらしのアリエッティ」の感想としては「もう少し盛り上がってほしかったが、美術とキャラクターの魅力で十分に楽しめる一本」というのが僕の結論である。
映画「借りぐらしのアリエッティ」はこんな人にオススメ!
まず、華々しいアクションや超展開を期待する人にはあまり向かないだろう。本作はゆったりとしたペースで進み、ド派手なバトルシーンや世界の危機みたいな要素は皆無に近い。むしろ、自然の美しさや小人たちの微細な暮らしを感じることが好きな人にこそオススメしたい。小さな存在が一所懸命に生きている姿にほっこりしたい人なら、アリエッティの世界観にスッと入り込めるだろう。
また、日常の大切さを再認識したい人にもオススメである。見慣れた庭先の風景や、家の中のちょっとした段差や隙間が、小人の視点では巨大で圧倒的な冒険の舞台に早変わりする。そうした発見は、大人になりすっかり平凡に思えていた生活にも新鮮さを取り戻すきっかけになるかもしれない。ストーリー自体は淡々としているが、その分、画面の端々から受け取れる美術や効果音に耳を傾ける時間がたっぷりある。「観察好き」「細部フェチ」の人にはたまらないはずだ。
さらに、心がちょっと疲れている人や、大きな決断を前にして一歩踏み出す勇気が欲しい人にも、アリエッティと翔のやりとりが響くかもしれない。お互いに不安や恐れを抱えつつも、一歩ずつ前を向く姿はささやかながら勇気をくれる。人生にちょっとした優しいエッセンスを求める人にとっては、心を癒やしながらも前を向かせてくれる、そんな優しい作品と言えるだろう。
まとめ
総じて、「借りぐらしのアリエッティ」はジブリらしい美しい映像と、ちょっぴり儚い物語が魅力の作品だ。とはいえ、アクションや強烈なドラマが少ないため、人によっては「物足りない」と感じるかもしれない。評価は★★★☆☆としたが、それは美術面の素晴らしさやキャラクターの可愛らしさを考慮しつつ、ストーリーのメリハリ不足が気になった結果である。
しかし、小人たちの生活をつぶさに眺められるだけでもファンタジー好きにはたまらないはずだし、庭や家の片隅を“冒険”に変えてしまう発想は、まさにジブリの真骨頂でもある。小さな世界に思いを馳せたい人や、優しい余韻にひたりたい人にはうってつけの映画と言えるだろう。やや地味ながらも心に残る珠玉のファンタジーを体験してみてはいかがだろうか。