映画「風立ちぬ」公式サイト

映画「風立ちぬ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

スタジオジブリ作品として名高い「風立ちぬ」は、宮崎駿監督が手掛けた最後の長編アニメーション(と言われているが、後から復活するのが宮崎節だ)として大いに話題を集めた一作である。飛行機好きのエンジニア青年が主人公でありながら、戦時中というハードな時代背景と恋愛要素が折り重なった物語は、ほのぼのジブリを期待していた人々をいい意味で裏切ってくれる。

夢と現実、理想と責任という相反するテーマを同時にぶち込んでくるあたり、「さすがジブリ、そしてさすが宮崎駿!」と感嘆する一方で、「もっと素直にファンタジーを楽しませてくれ!」とツッコミたくなる箇所も多々ある。筆者自身も鑑賞当初は「難解だけど映像がキレイだからまあいいや」と適当に流していたが、改めてじっくり見返してみると、じわじわと味わい深い要素が満載で驚かされた。

本記事ではそんな「風立ちぬ」に対して、激辛と称しつつも愛のある視点からレビューをお届けする。「平和が一番!」と思わず叫びたくなるような戦争描写や、ある意味で“モラハラ系”とも取られかねない主人公の行動、さらに夢と現実がごっちゃになった演出など、ツッコミどころを楽しみながら味わうことで、本作はより一層深みを増すと確信している。

そんなわけで、以下より本作の魅力や気になるポイントを徹底的に語っていくので、ぜひ最後までお付き合いいただきたい。

 

映画「風立ちぬ」の個人的評価

評価: ★★★★☆

映画「風立ちぬ」の感想・レビュー(ネタバレあり)

さて、ここからは映画「風立ちぬ」の内容にしっかり踏み込んで感想・レビューを展開していく。ネタバレがっつり含むので未見の方はご注意を。とはいえ、ジブリ映画はネタバレされても十分に楽しめる魔力があるので、これを読んでから観ても問題ないとも思う。筆者のスタンスとしては、「前情報があると心構えができるから、かえって楽しめる場合もあるじゃん?」というゆるめの発想だ。ということで、筆者のやや辛口視点も含めつつ、本作の魅力を掘り下げたい。

1. 主人公・堀越二郎の“天才肌”と空への憧れ

本作の主人公である堀越二郎は、言わずと知れた飛行機の設計者がモデルになっているが、実際の史実とは若干違うフィクション要素も盛りだくさんである。彼の夢の中にイタリアの飛行機設計者カプローニが出てきては「飛行機は美しくなければならない」と語りかけるシーンが繰り返し出てくるが、これがなんとも幻想的。ジブリ作品らしい壮大な空の描写も相まって、筆者も一緒に空を飛んでいるような錯覚を覚えた。

ただし、現実世界に戻ると時代は戦争に突入しており、美しい飛行機は戦闘機として利用される運命にある。ここにジブリの二律背反というか、甘くない現実を容赦なく見せつける宮崎イズムが炸裂しているわけだ。

二郎の好奇心と才能は間違いなく天才的だが、その発明が戦争に利用されることへの葛藤はどうなのか? 筆者個人としては、彼があまりにも冷静に割り切っているように見えてしまい、そこがちょっと引っかかる。戦争は嫌だと言いつつ、仕事である設計は淡々と進めてしまう辺り、理想と現実が渦巻く中での葛藤をもっとぐりぐり見せてほしかったのが本音である。

2. 恋愛パート:菜穂子との儚くも切ない時間

意外にもこの映画、恋愛要素が大きなウェイトを占めている。戦時中に病気がちな菜穂子と恋に落ち、文字通り“命がけ”の結婚生活を送るわけだが、これがまた切ない。菜穂子は結核を患っており、自分が二郎の夢を邪魔しているのではないかと気にするシーンは涙腺を刺激する。しかも、見ている側としては「ああ、この子、最後は…」と察してしまう展開だ。

ジブリ映画のヒロインといえば元気いっぱいなキャラが多いイメージだが、本作はそうではない。むしろ静かに、そして深く愛し合う二人の姿がある。そこに挟まれる“空へのロマン”と“生きることのはかなさ”が同居する感じは、なんとも言えず胸を締めつけられる。少し意地悪に言うと、正直「今はそんなことしてる場合じゃなくね?」とツッコミたくなる場面もあるが、それでも二郎と菜穂子がお互いを想い合う姿は美しい。

ここで描かれる恋愛模様があるからこそ、「風立ちぬ」は単なる“戦争と飛行機の映画”に終わらず、多面的な魅力を放つのだろう。

3. 戦争描写のリアリティと隠し味的な不快感

ジブリ映画はファンタジーというイメージが強いが、「風立ちぬ」は戦時中の不穏な空気がリアルに描かれている。空襲シーンや焦土と化した街並みなど、従来のジブリ作品よりも生々しい。しかも、あまり直接的な血や暴力が映るわけではないが、背景に漂う恐怖感がひしひしと伝わってくる。こうしたリアリティは、本作が“夢と現実”を往来する物語であることを強調していると思う。

夢の中は美しい飛行機が悠々と舞い踊る一方、現実には国は戦争にのめり込んでいく。ここで感じる「どうしようもない閉塞感」こそが、本作が伝えたかったものではないかと推測する。正直、この雰囲気を「つらい」「重い」と感じる人は多いだろう。だが、そこにこそ鑑賞後の余韻があり、戦争や平和の尊さを改めて考えさせられる効果がある。また二郎が設計する戦闘機が後に歴史的に有名な零戦へとつながる点も重要で、作品全体に隠し味的な不快感を伴いつつ、ひとつの真実を突きつける仕掛けになっている。

4. 宮崎駿監督のこだわりと“それ必要?”な長尺

これはジブリ作品全般に言えることかもしれないが、宮崎駿監督はとにかく細部にこだわる。飛行機のエンジン音を人の声で表現するなど、実はスタッフが声でエンジン音を吹き替えしているという話は有名だが、「いや、そんなところに力を入れなくても…」と思わず苦笑してしまうほど。背景美術やキャラクターの所作も丁寧に描かれており、美術館レベルの映像美が画面に詰め込まれている。

一方で、「そこはもう少し省略できない?」と感じるようなシーンも正直ある。例えば長めの夢の中でのカプローニとの会話などは、意図はわかるがダレる可能性も高い。しかし、この“冗長に見える部分”こそが宮崎作品の味わいだとも言えるので、文句をつけつつも実際にはじっくり眺めて楽しんでしまう自分がいる。

5. 夢と現実の入り混じる演出の妙

本作では、二郎の夢のシーンと現実のシーンが入り乱れる構成になっている。初見だと「これ現実? 夢? どっち?」と混乱するかもしれないが、そこがポイントでもある。

二郎にとって飛行機は夢そのものであり、同時に現実でもあるのだ。戦時中という厳しい状況下でも、自分の理想とする飛行機を作りたいという強い願いが、彼を夢の世界へと誘う。夢の中に登場するカプローニは言わば「もう一人の自分」であり、道しるべのような存在だ。こうした演出は、単なる歴史ドラマや恋愛映画とは違った“ジブリ的ファンタジー”を醸し出す。

一方で、戦時中にこんなに夢見がちで大丈夫なのか? とツッコミを入れたくなるのも事実だが、そこは「宮崎駿マジック」と割り切ったほうが楽しめる。

6. 物議を醸す“タバコシーン”と喫煙描写

「風立ちぬ」といえば、主人公をはじめキャラクターがやたらタバコを吸っている印象が強い。特に菜穂子の前でもプカプカ吸う姿には、「それはさすがにどうなの?」と現代の倫理観からすると引っかかる部分がある。だが当時はそこまでタバコに対する規制意識が強くなかったことを考慮すると、ある意味リアリティを追求しているとも言える。筆者としては、良いか悪いかはともかく、時代を象徴するディテールだと感じた。

現代っ子が見ると「え、病人の前で吸うの? マジ?」とショックを受けるかもしれないが、そこも含めて時代背景を考える素材になるだろう。激辛視点で言えば、「さすがに吸いすぎじゃないか?」と思わなくもないが、そこが当時の空気感なのかもしれない。

7. 感情移入とツッコミが共存する不思議な世界

以上のように、「風立ちぬ」はジブリ作品の中でもかなり異色だといえる。ファンタジー的な演出もあれば、戦争のリアルな影もあり、恋愛要素まで詰め込まれている。見終わった後、「これ、いったいどんな映画だったんだ?」と一瞬混乱するかもしれない。

ただ、その混乱こそが本作の面白さであり、何度も観返すことでじわじわとハマるタイプの作品だろう。主人公の二郎に対して「もう少し菜穂子を大事にしてあげて…」とか、「戦争にはもう少し抵抗してもいいんじゃないか?」とか、ツッコミどころが少なくない。

だが、そこに突っ込みつつもどこか共感してしまうのが不思議だ。二郎の純粋な空への憧れと、菜穂子との儚い愛の物語に心揺さぶられるからこそ、鑑賞者は「なんでだよ!」と文句を言いながらも見入ってしまうのだ。

8. 総括:激辛だけど愛がある

本作は、宮崎駿監督が長年温めてきた企画だけあって、その完成度は非常に高い。戦争というシリアスなテーマを扱いながら、映像の美しさとロマンチックな雰囲気を併せ持つ独特の作風が特徴的だ。激辛視点で見ればツッコミどころは多いし、時代背景ゆえのモヤモヤや主人公の葛藤不足など、いろいろ言いたくなる要素もある。

だが、それらをひっくるめて「風立ちぬ」という一本の映画は成り立っている。むしろ完璧すぎないからこそ、この映画は語りたくなる、議論したくなる魅力を放っているように思う。戦争に翻弄されながらも自分の理想を追い求める二郎の姿は、現代社会に通じるパワーがあるし、儚い恋愛が物語に彩りを添えている点も見逃せない。

結局のところ、「風立ちぬ」は見る人によってさまざまな受け止め方をされる作品だろう。だが、そこがいい。筆者的には激辛点をつけつつも★4を与えてしまうほど、なんだかんだで魅了されているのだ。

 

映画「風立ちぬ」はこんな人にオススメ!

まず、戦争を背景にした人間ドラマに興味がある人にはドンピシャだと思う。といっても血生臭さ満点の戦争映画ではなく、あくまで主人公は飛行機の夢を追う青年なので、むしろ「歴史の教科書で見るような時代だけど、ピュアな心もあるんだな」と感じられる作品である。また、ロマンチックな要素や切ない恋愛模様に惹かれる人も要注目だ。菜穂子との静かな愛の描写は、ジブリとは思えないほど大人っぽく、かつノスタルジックな余韻を残す。さらに、ビジュアル面にこだわりのある人にもおすすめできる。飛行機や空の描写はもちろん、美しい田園風景やインテリアなど、細部に至るまで緻密に描かれている点は、映像作品として一見の価値がある。

一方、「ジブリ=子ども向け」というイメージを持つ人には若干ハードルが高いかもしれない。戦争の話が絡む分、テーマも重く、一部のシーンではかなり胸を締めつけられるだろう。ただし、大人の視点でジブリ作品を味わいたいという人にとっては、むしろうってつけだ。宮崎駿監督の“本気”を存分に感じられるうえ、議論したくなるテーマが次々と浮かんでくるのは、映画好きの血が騒ぐに違いない。夢と現実、理想と責任、そして愛と死…こうした要素を一作で楽しみたい人には、「風立ちぬ」はもってこいの一本だろう。

 

まとめ

以上、映画「風立ちぬ」について激辛気味に感想・レビューをお届けした。結論としては、突っ込みたくなるポイントや賛否が分かれる描写も多々あるが、それも含めてジブリの奥深さを感じさせる作品である。きらびやかな夢の世界と、重苦しい戦争の現実を交互に見せつけられるうちに、「人生ってうまくいかないけど、それでも夢を見たい!」という気持ちを思い出させてくれるのが印象的だ。監督が宮崎駿ということもあり、とてつもなく丁寧に作り込まれた映像体験を味わえるのも大きな魅力である。

もしこれから鑑賞するなら、多少のネタバレは気にせず、むしろ「どこにツッコミを入れようかな?」くらいのラフな気持ちで挑むのがおすすめだ。戦時中の悲惨さが見え隠れする一方で、ヒロインとの淡い恋愛模様や飛行機への飽くなき情熱など、バラエティに富んだエッセンスをぎゅっと詰め込んでいる。激辛ポイントはあれど、最終的には「やっぱジブリってすごい!」と唸らされる作品だと断言したい。