映画「映画ネメシス 黄金螺旋の謎」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作は広瀬すずが主演を務め、連続ドラマから続く“奇妙で刺激的な探偵物語”として話題を集めた作品である。従来のミステリーとはひと味違うアプローチが随所に盛り込まれ、ドラマ版を観た人はもちろん、初見でも引き込まれる仕掛けが満載だ。探偵事務所のメンバー同士の掛け合いには独特の空気感があり、かと思えば超常的ともいえる装置が登場して一気にディストピア感を醸し出す。そんなギャップがたびたび炸裂するため、良い意味で“落ち着かない”展開を楽しめるのが持ち味となっている。
主演の広瀬すずをはじめとする豪華キャスト陣の熱演に加え、“ゲノム編集ベビー”という現実味を帯びたテーマにも踏み込み、軽妙さと社会性が同居する独特の世界観を作り上げている。ここでは、その真髄を徹底的に掘り下げつつ、気になるポイントを辛口目線で語っていく。
映画「映画ネメシス 黄金螺旋の謎」の個人的評価
評価: ★★★☆☆
映画「映画ネメシス 黄金螺旋の謎」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作は連続ドラマ『ネメシス』の世界観を土台に、さらに踏み込んだ仕掛けを用意した劇場版である。端的に言えば“幻想と現実の境目を曖昧にする”構成が大きな特徴だ。まず、探偵事務所「ネメシス」の助手である美神アンナ(広瀬すず)が抱える“悪夢”が物語の起点となっている。視聴者としては「その悪夢は現実の未来を暗示するのか、ただの錯覚なのか」という疑問を持ちながら進行を追うことになる。しかし物語が進むにつれ、アンナが見せられる悪夢は、どうやら誰かの意図によってコントロールされたものらしいと気づかされる。
劇中に登場する“人の夢を自在に操る装置”は、現実離れしているが、それゆえに観る側に強烈なインパクトを残す。アンナは毎日のように「仲間が次々に死んでいく光景」を見るため、精神的に追い詰められていく。ところが、その合間にも探偵所長の栗田(江口洋介)や、相棒の風真(櫻井翔)のやり取りは飄々としており、物語のトーンをある意味で軽くしている。だがそこで油断していると、また人が亡くなる場面が夢・現実を問わずに訪れる。コミカルさと不穏さが交互に襲ってくるため、観ている側の心は休まる暇がないというわけだ。
ドラマ版でも示唆されていた“ゲノム編集ベビー”という存在は、本作でより直接的にフォーカスされる。アンナ自身が“遺伝子操作によって生まれた子ども”であり、その研究データが世界各国の富裕層に狙われているという設定だ。実際に近年、遺伝子操作技術の進歩は科学界のみならず一般社会でも議論の的になっている。作品内で描かれる「金持ちだけが優れた遺伝子を手にし、貧富の格差がさらに固定化される可能性」は、あながち絵空事とは言えず、空恐ろしさを感じさせる。そこに“悪夢”というフィクション要素が絡み、現実の倫理問題とエンターテインメント要素が融合した独特の世界観を作り出している。
しかしながら、観ていて「少し強引かな」と感じる点もある。例えば、悪夢の中で頻繁に描かれる惨劇は、何度も繰り返されることで“ショッキングな絵面”を積み上げる一方、「ではなぜそこまで手の込んだやり方でアンナを揺さぶる必要があるのか?」という疑問がつきまとう。もちろん、背後には莫大な資金力をもつ“富裕層”が存在し、アンナとネメシスの面々を精神的に追い込み、研究データを吐かせるのが狙いなのだろう。しかし、それならもっと直接的な方法もありそうだ。劇中では「あえて相手を幻惑することで、確実に研究データのありかを白状させようとする」という理屈は一応見て取れるが、手の込んだ仕掛けに対する説得力はもう一歩欲しかった。そこが本作の“飛躍”とも言えるし、“面白さ”でもあるが、やや設定の都合に振り回される印象がある。
夢の場面では次々に殺害される仲間たちが、現実でも悲惨な目に遭うのかとハラハラさせるわりに、実際に誰が本当に死んでしまったのか曖昧に仕立てるシーンも少なくない。観客の恐怖心や不安感を煽る意図はわかるものの、「もうちょっと整理してほしい」という気持ちになったのも事実である。夢と現実の境界をあえてぼかしてミステリアスな雰囲気を保ちたいのだろうが、結果として“無駄死に”のように見える場面が多く、そこに説明不足を感じる人もいるはずだ。
一方、探偵ミステリーらしい“謎解き”としては、黄金螺旋を利用した地図上の伏線や、バイク集団と謎の組織「窓」の関係が、後半になってようやく一本の筋にまとまる流れは見応えがある。いわゆる「指令を出している黒幕」の正体は早めに明らかになるが、そこから一気に“どこまでが仕組まれた夢で、どこまでが現実世界の陰謀か”を駆け引きさせる後半パートはスリリングだ。連鎖する殺害事件が起こる度に、アンナは「これは本当に起きているのか、それとも見せられている幻想か」と疑い続ける。観客もまた、その視点を共有させられる格好だ。
なお本作最大の山場は、ネメシスの面々が“ゲノム編集ベビーの研究データ”をどう扱うかという結論にある。全世界の富裕層が我先に手に入れたいデータを、あえて“世界中にばら撒く形”で暗号化し、どこの国も単独では解読できない状況を作り出したのは、いかにも奇想天外な手段である。いかに探偵たちとはいえども、クラッキング技術やメディアジャックといった大それた手法を自然にやってのける点にはファンタジー寄りのご都合主義を感じる部分もあるが、そのぶん「本作ならではの大胆さ」が打ち出されていてある種痛快だ。
アンナの友人であるジャーナリスト・凪沙の正体にはショッキングな側面がある。仲間のように見えて、実はバイク集団を操り、富裕層に対する武力的な報復を目論んでいたという展開は、登場人物の善悪を一筋縄では割り切れなくしている。凪沙は貧富の差に憤りを覚えていたとはいえ、過激なやり方に染まってしまったために命を落とし、アンナは「それでも私は生きていく」と決意せざるを得なくなる。このやるせなさもまた、格差社会を反映した重たいテーマとして残る。
そして肝心の探偵事務所ネメシスの雰囲気は相変わらずの軽妙さがある。所長の栗田は終始のほほんとしているようでいて、要所ではアンナを支える父親役をこなす。風真は天才的な推理というよりは、ちょっと抜けたキャラクターでありながら、最後に思い切りの良い作戦を仕掛けて全てを解決へ導く。過激な設定と穏やかな掛け合いが同居している点こそ、本作の真骨頂だろう。まさに「奇妙だけれど、つい見入ってしまう」という独特の味わいがあるのだ。
全体を通してみると、ドラマ版をそこそこ覚えている人のほうが楽しめることは確かだが、劇場版から入っても興味をそそられるネタが多いと思われる。ゲノム編集ベビーをめぐる倫理的な問題提起は現実味があるし、“夢”を操る装置という設定は一種のホラー要素とも言えるほどのインパクトがある。そこへ探偵ドラマらしいコミカルさを挟むバランスが絶妙かどうかは意見が分かれるかもしれないが、「刺激たっぷりのミステリーを観たい」という人には十分アピールする仕上がりだ。
一方で、突き詰めると「富裕層vs貧困層」という構図や「ゲノム技術の利権をめぐる争い」は、すでにさまざまなSFや社会派作品で描かれてきたテーマだけに、“夢の装置”というギミック以外の新鮮味をもう少し見せてほしかったとも感じる。あえて複雑さを求めず、わかりやすい善悪図式を提示して勢いを重視しているようにも見えるので、好みが分かれる部分だろう。とはいえ、サスペンスやアクション、摩訶不思議な仕掛けの連打による娯楽性という観点で言えば、最後まで退屈させない魅力を備えている。
本作は「夢か現実か」を巧みに交錯させて生まれる怖さと、探偵事務所ならではの掛け合いによる朗らかさが一体となった“混合ミステリー”だといえる。キャストの演技も粒ぞろいで、広瀬すずが不安と決意を抱えながらも強さを見せるところ、櫻井翔が妙に軽いノリで最後の大博打に出るところ、江口洋介がアンナを温かく見守る姿はどれも愛嬌がありつつ厚みを感じさせる。さまざまな要素をぎゅっと詰め込んだ結果、「ちょっと盛り込み過ぎでは?」と思う点があっても、強い印象が残る作品に仕上がった点は大いに評価できる。もしドラマ版の設定を忘れていても、今回の劇場版であらためて“探偵事務所ネメシス”の物語に飛び込んでみる価値は十分にあるだろう。
映画「映画ネメシス 黄金螺旋の謎」はこんな人にオススメ!
夢と現実が交錯するようなサスペンス展開が好みの人には刺さるだろう。繰り返される悪夢の中で仲間が惨殺される様子を目にしつつ、それが現実でも起こり得るかもしれないというスリルは、ホラーやサイコスリラーの要素ともリンクしている。次に、探偵ドラマらしいコミカルな掛け合いを楽しみたい人にも合っている。栗田と風真、そしてアンナの三人がどこか調子を外したようなやり取りを繰り広げる場面では、重苦しい展開の合間にふっと和ませてくれる空気がある。本格推理とは少し異なるが、探偵事務所の活躍を眺めるのが好きな人にはオススメだ。
さらに、格差社会やバイオテクノロジーに興味を持つ人にも一見の価値がある。ゲノム編集ベビーというテーマは、遠い未来の話ではなく現実の医療・倫理でも既に議論されている要素だ。本作では、それがもし闇ルートで流出し、富裕層が独占した場合にはどうなってしまうのか、という仮説を提示している。そこには刺激的でありながらも現実感のある警鐘が含まれていると言えよう。また、ドラマ版『ネメシス』を視聴してきた人なら、登場人物同士の過去の因縁や繋がりがより深く味わえる。逆に未見の人がいきなり本作を観ても、「アンナにこんな秘密が!?」と驚きながら物語世界にのめり込めるはずだ。要するに、サスペンスと探偵ストーリー、そして近未来的な題材による社会派テイストの混合を楽しみたい全ての人に向けた“刺激多め”の娯楽作である。
まとめ
劇場版「映画ネメシス 黄金螺旋の謎」は、連続ドラマからの流れを受け継ぎつつも、夢を操る装置やゲノム編集ベビーといった要素を一気に盛り込み、よりスケールアップした物語に仕上がっている。探偵事務所ネメシスの面々は従来のライトな掛け合いを維持しているが、その背景には格差社会がもたらす深刻な問題や、遺伝子操作の未来に潜む危うさが存在し、想像以上に重たいテーマを抱えているのがポイントだ。
悪夢の連続による不気味な空気と、日常的なコミカルさがぶつかる作風が独特で、観る側のテンションを上下に揺さぶり続ける。突っ込みどころはあるものの、色々なテイストをまとめて味わいたい向きには十分楽しめる作品ではないかと思う。ドラマ版ファンはもちろん、本作だけでも奇妙で魅惑的な世界観を堪能できるので、興味があればぜひ挑戦してみてほしい。