映画「ミンナのウタ」公式サイト

映画「ミンナのウタ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

白濱亜嵐が出演していると聞いて、まずは「爽やかな青春ドラマか?」などと勝手に想像してしまった人もいるかもしれないが、実際はまさかのホラー要素をたっぷり含んだ作品で驚かされる。最初は「何やら不穏なカセットテープ」が物語の核心にあるらしいと耳にして、古いメディアならではの独特なノイズや雰囲気が不気味に映るのではないか、と期待半分・警戒半分だった。

ところが実際に観てみると、想像以上にドキッとする場面や背筋がゾクッとする演出が散りばめられており、油断していると急にビビらされる。しかもGENERATIONSのメンバーが“本人役”として登場していることで、一見リアルな世界がじわじわと侵食されるような怖さが増幅しているのがまた厄介だ。それでも彼らの掛け合いにはどこか楽しい雰囲気もあり、絶妙なバランスでストーリーに引き込まれてしまう。気づけば作品の世界観にしっかりハマってしまい、意外にも余韻が長く続く一本だったと感じている。

映画「ミンナのウタ」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「ミンナのウタ」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ホラーというと、いきなり血みどろな場面や絶叫ばかりが注目されがちだが、この作品はもっとじわじわと恐怖が増してくるタイプだと感じた。観ていて何より怖さを加速させるのは、やはり“音”の存在である。カセットテープの独特な雑音を逆手に取り、そこに奇妙なメロディーや人間の断末魔が混ざっているだけで想像力が刺激されまくる。「こんな録音が出てきたら嫌すぎる」という嫌悪感と好奇心の入り混じりが、観る者に得も言われぬ緊張感を与えてくるのだ。

物語はGENERATIONSのメンバーが“本人”として登場し、それぞれがラジオ局での収録やライブのリハーサルを行う日常のなかで、謎のカセットテープにまつわる奇妙な現象に巻き込まれていく、という流れになっている。彼ら自身が、現実と地続きのような役柄を演じているため、「もしかして本当に何かあったら怖いかも?」と勝手に想像が膨らむ。そもそもテレビや動画配信などで普段から見慣れた彼らだからこそ、いつもの軽快なトークの裏で起きる怪異が余計リアルに感じてしまうわけだ。

特に印象的だったのは、メンバーそれぞれの“取り込まれ方”の個性だ。真っ先に失踪してしまう小森隼の、ヒロインばりのオロオロした表情や行動は愛嬌があるが、逆にそこに不穏な空気が垂れ込めているのがなんともいえない。いつも元気なイメージの彼が、妙な鼻歌を口ずさんで暗い表情になる場面は、現実とのギャップが凄まじくてゾッとした。続いて白濱亜嵐のリーダーシップが光るかと思いきや、彼自身も奇怪な出来事に巻き込まれていく。ホラー苦手な人からすれば、あの頼もしそうなリーダーが焦る姿だけでも「うわ、もう逃げ場がない!」という絶望感を味わうはずだ。

一方で、関口メンディーの驚きっぷりはある意味癒しの要素でもある。体格がしっかりしている彼が、隅っこでガタガタ震えるような様子を見せるだけで「こんな屈強な人でもダメならもうどうしようもない…」という妙なリアリティを感じてしまう。加えて佐野玲於が時折見せる放心状態や、片寄涼太が追い詰められながらも綺麗に決めてくる姿など、個々のメンバーが持ち味と恐怖体験をセットで披露してくれるのが、ある種の見どころになっているといえよう。

物語の鍵を握る“謎の少女”が、ただ恨みや復讐を抱えているだけではなく、ある種サイコパス的な芸術志向を持っているのも衝撃的だ。生きていた頃から周囲の命や音を収集し、自分の“世界”を作り上げるためなら何でもやる。そんな危うい感性を映像の細部で積み上げていく演出は、昔ながらの日本ホラーを思わせつつ、新しいスパイスを加えているようにも見える。正直、踏み入れたら戻れないタイプの地獄がここにあるというか、「あの鼻歌が耳にこびりつく」なんて状況を想像しただけでゾッとする。

さらに絶望感を深めるのが、作品内で描かれる高谷家の様子だ。普通の一軒家のはずなのに、家族が何かに浸食されているかのような不気味な空気が漂い、時系列すらあやふやになってくる。その異様な世界観に、GENERATIONSのメンバーがひとり、またひとりと消えていく展開は、まさに王道ホラーの手法といえる。ジャンプスケア的なびっくり要素もあれば、「音」の演出によって視聴者を追い詰めるやり方もあって、観ている側としては一瞬も気が抜けない。実際、劇場で観ると終始心拍数が上がりっぱなしだった。

だが、怖いだけでなく、メンバー同士の掛け合いや探偵役とのやりとりにちょっとした軽妙さも感じられるところが個人的に好きだ。特にマキタスポーツ演じる権田が、事件を解決しようと奮闘しながらも妙に世俗的だったり、家族問題を抱えていたりするのが人間くさくて面白い。彼がカセットを逆再生してトンデモない音声を聞き出してしまうくだりは、お約束だけに「そこはやめとけ!」と思いつつ、つい見入ってしまった。

最終的な結末は、一応大団円…かと思いきや、実は後味の悪さがぬぐえない演出が忍ばせてあるのもホラーとして秀逸だ。ライブ会場の熱気とともに、あの不気味なメロディーがどこまでも増幅していくかのような余韻を残す。観客側が「もしかすると、これって観ている自分も巻き込まれるのでは…?」と勝手に身構えてしまうのが恐ろしい。いわゆる“映画を観た人全員呪われる”的な手法は昔からあるが、今回はJ-POPのライブ演出と絡めることで、また違った意味でのリアルさが漂っていた。

ここまで散々怖さについて語ってきたが、映像は美しく、俳優陣の演技にも力が入っているので、ホラーが多少苦手でも楽しめる余地はあるはずだ。むしろあまり慣れていない方が、存分にヒヤヒヤ感を味わえるかもしれない。逆にホラー慣れした人なら、清水崇監督らしい演出や“呪怨”を思わせる空気を「なるほど」とニヤリとしながら見ることができるだろう。もちろん、ラストにうっすら残る嫌な予感は誰の心にもひっかかるはずで、怖さのあとに訪れる妙な中毒性が観終わった後も長く尾を引いてくる。

要するに、白濱亜嵐をはじめとするGENERATIONSメンバーのファンにとっては、新鮮な彼らの姿を楽しむ機会にもなりつつ、本格ホラーとしても十分に成立している贅沢な作品だと感じた。ライブシーンのカッコよさと恐怖の交錯が独特で、「現実と地続きのような恐怖」を強く味わえる。劇中で何度もリフレインされる“あの歌”が、いつの間にか頭にこびりついて離れなくなる恐れもあるので、観る際はそれなりの覚悟が必要だ。そうはいっても、得られる刺激とインパクトは大きいので、怖いもの好きにはたまらない体験になりそうである。

映画「ミンナのウタ」はこんな人にオススメ!

まず、ホラーというジャンルに興味はあるが、やたら残酷なものはちょっと…と敬遠してしまうタイプの人に向いていると思う。本作の場合、血飛沫が飛び散るようなシーンよりも、音や雰囲気で追い詰められていく恐ろしさがメインなので、目をそらしっぱなしになるような惨劇は少なめだ。むしろ「見えない恐怖」に脳を揺さぶられたい人はワクワクできるかもしれない。

また、GENERATIONSが好きな人はもちろん、彼らの存在をそこまで知らなくても楽しめる作りになっている。なぜならストーリー自体がしっかり恐怖体験に特化しているので、「アイドル映画」的な甘さはほぼ感じない。その代わり、彼らの素の魅力が随所に滲み出ていて、ファンであればあるほど「ああ、あの場面のリアクションが普段の彼ららしいな」とクスッと笑えるはずだ。そこが単なる偶像崇拝に終わらない面白さを生んでいるといえよう。

さらに、日常の中に潜む不安をゾクッと味わいたい人や、作品を観終わったあとに「もしかして自分も巻き込まれているんじゃ…?」と勝手にドキドキしてしまう感覚を楽しみたい人にも合う。本作はただお化けが出るだけの単純な怖さではなく、パブリックな空間(ラジオ局やライブ会場)と、私的な空間(自宅やホテルの部屋)がひそかに侵食されていく様子が描かれるので、観終わった後に妙な妄想が広がってしまう。そういう想像力を働かせていろいろ考えたい人にはぴったりだろう。

まとめ

本作を観てまず感じたのは、「音が怖いってこんなに破壊力があるのか」という点である。古いカセットテープの不気味なノイズや逆再生の奇妙さが、観る者の神経を逆なでするように迫ってくる。

そこに加えて“少女の霊”が秘めたサイコパス的要素が合わさることで、何層にもわたる恐怖が襲ってくるのだ。ただし、ひたすら暗いわけではなく、GENERATIONSの掛け合いや探偵役の存在によってテンポの良さが保たれているのもポイントだろう。ときにコミカルな空気が混じるおかげでメリハリがつき、最後まで飽きずに観続けられる。

とはいえ、観終わった後にふとした物音に敏感になったり、頭の中であの鼻歌がこびりついたりする恐れがあるのが本作の恐ろしさ。もしこの作品の世界に巻き込まれる覚悟があるならば、ぜひ体験してみてほしい一本である。