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映画「OUT」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

少年院から出所した不良青年を主人公に据え、怒涛の抗争と友情を描いた作品である。品川ヒロシ監督が“昔取った杵柄”とばかりに、不良ワールドを熱く盛り上げているのが特徴だ。かつて『ドロップ』を監督し、自らの経験を投影させた作品を送り出してきた人だけに、本作ではさらにパワーアップした“ケンカ上等”の空気が全編を覆っている。

主演は『夏、至るころ』で静かな青年を好演した倉悠貴。今回は一転、血気盛んな不良役として暴れまわる姿が見ものだ。彼が演じる井口達也は「狛江の狂犬」と呼ばれたほどのワルだったが、少年院からの出所後は叔父叔母の経営する焼肉屋で更生をめざす。しかし、一度火がつけば止まらない性分は相変わらず。結局、千葉の暴走族「斬人(キリヒト)」に関わることになり、爆羅漢(バクラカン)という危険な集団との抗争に巻き込まれていく。

その世界観を盛り上げるのは、乱闘シーンの連打と、仲間を信じて突き進む熱い心だ。「バカだけどクズじゃない」というセリフが何度も登場するが、そこにこの作品の肝があると言っていい。荒れているように見えて、仲間を大切に思う姿勢は揺るがない。本物の怒りとは何か、そして“守るべきもの”とは何か——それを一切の遠慮なく描いたのがこの映画の真骨頂である。笑える場面の連続ではあるが、腹筋より先に涙腺が緩む可能性大。まさしく激辛テイストのアクション青春劇といえるだろう。

映画「OUT」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「OUT」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作の物語は、まず主人公である井口達也の“再出発”から始まる。少年院を出たてで、保護観察中の身。そもそも戻る地元すらなく、西千葉の叔父叔母の家にやってきたところから物語が動き出す。ほとんど根無し草のような達也がたどり着いた焼肉屋「三塁」は、いかにもアットホームな雰囲気で、叔父も叔母も彼を温かく迎え入れてくれる。

とはいえ、一般社会の目からすると「前科持ち」で「元不良」である達也を厄介者扱いする空気が少なからずある。警察の保護観察官・石戸は、達也を完全に“問題のある若者”としてしか見ておらず、とにかく大人しく生活してくれればそれでいい、という姿勢を隠そうともしないのだ。

一方で、そんな達也を気遣ってくれる人々もいる。叔母は「根はいい子だ」と言い切り、叔父は「バカだけどクズじゃない」と、どこか誇らしげに達也を紹介する。その言葉に達也自身は少し照れながらも、悪い気はしていない様子だ。こうした“温かい理解者”の存在が、達也の人生にとって何よりの救いになる。しかし、ここで終わったらただのほのぼのドラマ。もちろん、そうはいかない。

ある日、達也はコンビニ前のバイクをじっと見つめてしまい、たまたまそこにいた安倍要(千葉で名を馳せる暴走族「斬人」の副総長)と一触即発のやり取りをする。といっても、保護観察中の達也は下手に暴力をふるうわけにはいかず、相手が殴りかかってきても「相撲で勝負しよう」と言い張るのだ。喧嘩なら即アウトだが、相撲ならギリギリセーフという、妙な理屈も達也らしさといえる。この一戦は達也が勝ってしまい、要は達也に奇妙な興味を抱くことになる。

要は喧嘩で負けたことをあまり気にする様子もなく、むしろ達也のキャラが気に入ったらしく、わざわざ焼肉屋まで顔を出すようになる。達也も「うっとうしいな」と思いながらも、同じ匂いを感じるのか、要に対して完全に拒絶するわけではない。保護観察中の身としては距離を置くべき存在と分かっていながら、魂が沸き立つものを抑えきれないのが達也の性格でもある。

さらに、要が属する「斬人」というチームが、どうもただの暴走族とは違い、仲間を家族のように大切にしているらしいところも達也を惹きつける要因だ。少年院に入るまで達也はゴリゴリの不良だったため、“抗争”や“縄張り”といった話題に血が騒ぐのは避けられない。そもそも真っ直ぐ帰宅して大人しくバイトに励むような性格ではなく、同じ境遇や熱をもつ連中がいるならば、そっちに首を突っ込みたくなる。こうして、達也は斬人を通じて一歩一歩“表の世界”に戻り始めるわけだ。

ところが、斬人と対立する集団・爆羅漢(バクラカン)はかなり危険度の高い連中で、ドラッグや恐喝など手段を問わない悪事を働いている。彼らのやり方は「仲間は金儲けの駒、気に入らない奴は叩き潰す」という筋の通らなさ。斬人とは正反対だ。そんな爆羅漢が斬人を潰す気で蠢き出す。しかも、よりによって要が彼らの奇襲を受けて重体に陥ってしまう。

ここで、達也は激昂するが、警察の保護観察官や世間の目があるなかで、どこまで“暴力”に手を染められるのかという葛藤が生じる。一方の斬人総長・丹沢敦司は「やられた仲間を放っておけるわけがない」と爆羅漢との全面衝突を決意。ただでさえ荒れた空気が一気に爆ぜる寸前に達する。達也が踏みとどまるか否か、ここが大きな山場となるのだ。

そうして始まる大抗争では、斬人幹部たちの個性豊かな戦闘スタイルが炸裂する。木刀を使う者、総合格闘技を思わせるテクニックを駆使する者、ひたすらパワーで押し切る者……。彼らの信念は「仲間を守る」という一点に尽きるため、容赦のない乱闘はある意味で“愛のカタチ”ともいえる。その流れに飲み込まれるように、達也もついに殴り合いの渦中へ飛び込む。ずっと「喧嘩をすれば少年院に逆戻り」というリスクを抱えていたが、それでも譲れないものがあるのだと改めて自分に言い聞かせるわけである。

一方で、要だけでなく、仲間たちまでボロボロにされる姿を目の当たりにすると、達也の“本能”は一層燃え上がる。かといって、相手の喉元にナイフを突きつけるような真似はしない。どこかに「線を越えたら自分が本当のクズになる」という自制心が働いているのが興味深いポイントだ。実際、爆羅漢のリーダー格である下原一雅が拳銃を持ち出したとき、達也は言葉でやめさせようとする。暴力的なのに、そこには妙な道徳観がある。これこそが達也の魅力だ。

しかも、途中で斬人メンバーの中には裏切り行為を働かざるを得なかった者もいる。家族を人質に取られ、強迫されてしまう弱みをつかれたのだ。こういう生々しい人間模様も描かれるからこそ、本作はただの“喧嘩祭り”には収まらない。なぜ不良同士が殴り合っているのか、そこにどんな事情があり、どんな気持ちが宿っているのかがじっくり伝わってくる。

そして忘れてはならないのが、与田祐希演じる皆川千紘という存在。かつて斬人の先代総長だった兄を喪い、「もうこれ以上、大切な人が死ぬところを見たくない」という強い思いを抱えている。彼女はアイビーボウルというボウリング場でバイトしながら、いつ喧嘩が始まるかわからない危うい空気に果敢に飛び込んでいく。その度胸は達也にも負けていない。厳しい表情で「喧嘩するなら警察呼ぶからね」と一喝し、ズカズカと割って入る姿には思わず感心してしまう。

こうした人物たちが入り乱れる中で、流血、轟音、そして汚れながらもぶつかり合う拳と拳。その果てに何が残るのか。本作を見れば、それは“仲間を信じる心”と“誇り”であると分かる。世間のルールからはみ出しがちな彼らだが、アウトサイダーだからこそ守れるものもある。どれだけ暴れようが、最後に大事なのは「俺たちは仲間だ」という結論なのだ。

さらに品川監督ならではの見せ方として、ふとした会話や間に“クスッ”とさせる味付けが散りばめられている。そうした軽妙さがあるからこそ、怒号が飛び交う世界の中にもどこか人間らしい愛嬌が感じられる。達也がブチ切れて相手を倒す場面でも、周囲の人間関係が見えるからこそ“ただ怖いだけ”にならない。

クライマックスの大乱闘では、丹沢敦司がリーダーの威厳を見せ、要を倒した連中にガチで仕返しをかます。達也も一線を越えない程度に相手をぶっ飛ばす。けれど、一歩間違えたら命を落としてもおかしくない危うさが漂っている。そこに割って入る警察のサイレンも、いつ出てくるか分からない。

最終的には、真っ白になるまで殴り合った末、仲間たちの絆がより強固になるという展開だが、後味が軽いどころか、むしろ苦味が残るほどの激しさだ。しかし、その苦味がこそばゆいほど爽快でもある。達也は間違いなく“不良”なのだが、人の痛みや思いを理解しようとしている節がある。そこにこそ、観客が感情移入できる余地があるのではないか。

結局、映画「OUT」は、表面的には“ヤンキー映画”に見えて、内側には血の通った人間ドラマがぎっしり詰まっている。暴力は決して推奨される行為ではないが、本作では「なぜ彼らが殴り合わなければならないのか」という問いが繰り返し浮かび上がる。誰かにとって必要な戦いであり、守るべきものがあるからこそ拳を振るう。そこに一定のロマンを感じる人もいるだろう。

もちろん、そんな殴り合いに共感できず、「何だこの世界は」と呆れる人もいるかもしれない。だが、それも含めて“青春”というものの不条理さを描ききっているのが魅力だ。ケンカに次ぐケンカでボロボロになっても、決して揺るがないメンタルと絆が、彼らを支えている。真似はしないほうがいいが、見ている側は彼らの生き様に妙な清々しさを覚えるはずである。

本作は「不良上がりの更生」と「仲間を守る暴走」の二律背反が見どころだ。世間から見たらろくでなし。しかし、本人たちは自分の生き方を曲げない。彼らはバカではあるが、クズではない。要が病室で「腹減った」とぼやくラストシーンには、一連のバトルが終わったあとの不思議な温かみを感じさせる。たとえ荒れた過去があっても、新しい一歩を踏み出す余地はあるのだと教えてくれる。

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映画「OUT」はこんな人にオススメ!

まず、喧嘩シーン満載の“青春もの”が好きな人には文句なしでオススメだ。腕っ節に物を言わせる展開が続く一方で、それぞれのキャラクターに“守りたいもの”や“譲れない何か”があるのがポイント。むやみに暴れているだけではなく、彼らなりの信念がうかがえる。そのぶつかり合いが痛快だし、意外と胸に染みるのである。

次に、不良漫画やヤンキー映画に馴染みがない人でも楽しめる構成になっているのが嬉しいところだ。まっさらな状態で見ても、「こういう世界観があるのか」と新鮮に感じられるはずだ。派手に暴れているようでいて、重要なのは人と人とのつながり。普段は口下手な連中が、仲間のためなら命を張るという姿に惹きつけられるだろう。

また、普段は真面目に見える役者がガラリと印象を変えて演じているのを見るのが好きな人にも刺さる。倉悠貴がここまで荒々しい役をやるのはギャップ大だし、醍醐虎汰朗の総長ぶりも妙にハマっている。それぞれの役者が肉体を仕上げて挑むアクションは気合十分で、迫力が伝わってくる。

さらに、ただ殴り合いの映像を見たいだけでなく“人間らしさ”を味わいたい人にも勧めたい。不器用な彼らが、仲間や家族、さらにはそこに関わる周囲の人々を守ろうとする姿は心を揺さぶる。青春の痛々しさや熱さを思い出したい人、あるいは見守る立場として「不良も案外捨てたものじゃない」と感じたい人にはうってつけだろう。

要するに、本作は荒っぽいアクションだけでなく、登場人物の背景やドラマにスポットを当てた群像劇でもある。若さゆえの破天荒さと、大人の事情を見返してやるという意地が、意外な形で化学反応を起こす。そういうピリピリした熱量が欲しいと思うなら、この映画は文句なく心に刺さるはずだ。

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まとめ

映画「OUT」は、一見するとただのヤンキー映画かと思いきや、奥には仲間を思う気持ちと、自分を信じる意地がぎゅっと詰まっている。警察や世間の冷ややかな視線のなか、それでも拳を下ろさない若者たちの姿には、何かしら応援したくなるものがある。生々しい暴力描写も多いが、それが逆に“人間くささ”を際立たせていて、見終わる頃には不思議と熱いものがこみ上げてくるのだ。

戦う理由がなければただの乱闘だが、彼らは守りたい仲間や家族がいるからこそ立ち上がる。そこには単なる無軌道さだけではなく、一本筋の通った仁義を感じるはずである。もちろん、真似はできないし、しないほうがいい。しかし、何かに夢中になったあの頃の勢いを思い出したい人にはピッタリといえる。もしかしたら、観終わったあとに「あいつらも、そんなに悪いもんじゃないな」と感じるかもしれない。