映画「思い出のマーニー」公式サイト

映画「思い出のマーニー」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作はスタジオジブリ作品の中でも少々地味な印象があるかもしれないが、その分、物語の芯にある人間ドラマの濃さが際立っていると思う。可愛らしい女の子たちが主人公なのに、どことなく不思議で少し切ない雰囲気が漂うのは、制作陣の意図した“ジブリらしからぬジブリ”感覚ゆえだろうか。特に湿地帯や洋館、そして湿度の高い夏の北海道が醸し出す独特の空気感が、妙に心にしみる。何とも形容しがたい幻想と郷愁が同居する世界が広がり、気づけば観る者の心の奥にある“何か”をチクチクとくすぐってくる。

ここでは、そんな少々謎めいた物語とキャラクターたちを遠慮なく解体しながら、思いのまま感じたことをつらつらと述べていくつもりである。とはいえ、結構アツい話題に触れながらも、時々は茶化してみるのも悪くない。後戻りできないネタバレの渦に巻き込まれたくない方は、ここで退散をおすすめしたい。でも、大丈夫。心の準備がある人には、きっと忘れられない映画体験になるはずだ。

映画「思い出のマーニー」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「思い出のマーニー」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作「思い出のマーニー」は、スタジオジブリ作品らしい風合いを持ちながらも、どこか“異端児”な香りがする映画だと感じる。まず、主人公のアンナがジブリ伝統の明るく元気なヒロイン像とは一線を画している。普段は無口で、他人を遠ざけ、自分の殻に閉じこもりがちな少女だ。学校でも友達は少なく、クラスメイトとの交流に積極的な様子もない。いつも俯き加減でため息をついているような彼女は、観る人によっては「なんか暗い」と思われるかもしれないが、個人的にはこの現実感にこそ惹かれた。ジブリといえば、活発な少女が森や不思議な世界で大冒険するイメージが強いが、アンナは“心の闇”を抱えたまま作品世界に存在している。言ってしまえば、あれだけ美しいアニメーションの画面にぺたんと貼りついた陰キャ少女というわけだ。

さて、そんなアンナが、ある事情から北海道の親戚の家に預けられるところから物語は大きく動き出す。舞台となるのは、夏の湿度高めな北海道。とはいえ、緑がいっぱいで涼しげというイメージとは異なり、作中では蝉がうるさいほどに鳴いていたり、湿地帯の水がたぷんたぷんだったりと、「なんだここ、どれだけ湿気を吸わせる気だ!」とツッコミたくなるほどモイストな空間である。そんな場所に放り込まれたアンナは、精神的にもフィジカル的にも蒸し焼き状態になりそうな気配だが、そこに古い洋館が登場し、さらに謎の金髪少女マーニーが現れたことで、アンナの閉ざされた心の扉がギギギと開きはじめる。

マーニーは、まるで海外のおとぎ話から飛び出してきたかのような少女だ。金髪碧眼、白いドレスに身を包み、礼儀正しさと儚さを兼ね備えたキャラクターで、観ているこっちまで「えっ、そんな美少女存在していいの?」と目が覚める。だが、その正体は誰にもわからない。アンナとマーニーの接触も夜の湿地帯や洋館というロケーションが多く、「おいおい、ちょっとホラーじみてるぞ」と冷や汗がにじむ場面もある。もっとも、幽霊的な怖さよりも夢幻的な空気が強く、幽かに感じる恐怖心と同時に妙な安心感にも包まれるのが不思議なところだ。

ここでの物語の肝は、アンナが「他人には見えない少女」と交流しているのではないか、という点にある。実際、洋館のはずれに立ってみても、そこには誰もいないし、建物だって今は朽ちかけている。冒頭で暗い性格だと紹介したアンナが、もしや頭の中で作り出した空想の友達かもしれない…という疑惑が頭をよぎる。しかし作品を観進めると、どうやらそう単純でもない。なぜなら、マーニーはアンナの心を解きほぐすだけでなく、マーニー自身も何やら秘密めいた過去や孤独を抱えている節があるからだ。二人の交流は、互いの傷を舐め合うような危うさと、なんとも言えない純粋さが同居し、観ているうちに「これが禁断の百合展開だったらどうしよう」と少々身構えてしまうほどである。

しかし、ジブリらしいところは、そうした“百合要素”っぽい雰囲気を漂わせながらも、その先にファンタジックな親子関係や家族の絆の物語が待っている点だろう。いやいや、「家族の絆」と言ってしまうと非常に陳腐に聞こえるが、実際にはもっと複雑でミステリアスな構成になっている。終盤、マーニーの正体が明らかになるシーンは、ジブリ作品の中でも比較的“オチ”がはっきりしている方だと思う。正直なところ、「ああ、そういうことだったのか!」という驚きはあるものの、続けざまに「あれ、でもこれってどうやって成立してるの?」という疑問も湧き起こる。そこが本作の面白いところであり、同時に若干のモヤモヤを残す要因でもある。

結論を先に言ってしまえば、マーニーはアンナにとって家族であり、大切な“絆の象徴”として登場する存在である。つまり、ただの友達でもなく、単なる幻覚でもなく、ある意味アンナのルーツを示すカギそのものだ。それを知ると、今までの二人のやりとりにどんな意味があったのかを考えずにはいられない。「なんだよ、そこはファンタジーで攻め切るんじゃないのか!」とツッコミたくなる部分もあるが、ファンタジーとリアルが曖昧に交錯するからこそ、本作は独特の余韻を残す作品に仕上がっているように思う。

映画を通しての見どころとしては、やはり風景描写の緻密さが挙げられる。北海道の湿地帯や洋館の周囲を流れる風、木々の揺れ、空の色合いなど、どれを取っても「はいはい、これジブリの本気出しましたね」というクオリティで圧倒される。時に幻想的でありながら、現実の自然描写を積み重ねることで、アンナとマーニーが一緒にいる風景が“まるで本当にそこにある”かのような感覚を与えてくれるのが素晴らしい。ジブリ映画において背景美術のレベルの高さはもはや常識かもしれないが、本作では特に“水面の表現”と“洋館の古びた質感”に注目したい。窓ガラスや木の床のきしみ、水辺に映る月光やランタンの灯りなど、細部まで念入りに作り込まれているので、ここは絶対に見逃せないポイントだ。

キャラクター面では、アンナとマーニーの関係性が最大の焦点ではあるが、脇を固めるサブキャラクターたちも地味にいい味を出している。アンナを預かる親戚のおばさんや、その周辺の住人、さらにはアンナと同世代の子どもたちも登場するが、それぞれが妙にリアルで、単なる空気キャラに終わっていないところが興味深い。「アンナの肩の荷をいったいどれだけ軽くしてくれるのか」と思うほど優しかったり、逆に「もうちょっとアンナに厳しく当たってもいいんじゃないか?」と思うほどソフトだったり。観ながら「こういうお節介な親戚、いるわー」とか「こういう無邪気な友達、いたわー」と共感しつつも、そこに北海道のゆったりした空気感が合わさって、独特のファミリアルな雰囲気が漂っている。

そして、本作にはかなり重要なテーマとして“自己肯定感の低さ”が隠れていると感じる。アンナは過去の出来事や家庭環境に対するコンプレックスを抱え、それゆえに周囲との距離を取っている。そのアンナが、マーニーという謎の少女との出会いを経て、少しずつ自分を認めるようになっていく過程こそが、本作で最も大切なポイントだと思う。単に不思議なことが起こるファンタジーではなく、「自分をどう受け止めるか」という普遍的な問題を描いているところが、本作の醍醐味ではないだろうか。だからこそ、ネタバレありきで語ったとしても、この映画を体感する価値は十分にある。視聴後には、きっと誰しもが「自分が本当に必要としているものって何だろう?」と、少し振り返らずにはいられなくなるはずだ。

もっとも、決して手放しで大絶賛かというと、個人的にはそうでもない。例えば、終盤の展開は説明的で急ぎ足気味に感じる部分もある。「マーニーの正体は実は○○でした!」という種明かしは悪くないが、ここまでがゆっくりと丁寧に描かれていただけに、最後だけバタバタっと駆け足でまとめられてしまった感が否めない。もう少し時間をかけて“ああ、そういうことだったのか”と浸りたかったというのが正直なところだ。それに加えて、アンナが自分の心を開いていく過程も、もうひと押し欲しかったというのが個人的見解である。「え、そこであっさり解決するの?」と感じてしまう部分があったので、そのあたりは物語のボリューム配分が惜しいと感じる。

一方で、そこまで含めてもなお、観終わった後には何とも言えない余韻が残る。この余韻は“全てが解決してハッピーエンド”という爽快感とは違い、「ああ、人生いろいろあるけど、まあいいか…」としみじみ思わせるようなものだ。アンナが最後に示す笑顔は、単に“嬉しい”とか“良かった”ではなく、“悲しかったことや辛かったことも含めて、自分の人生だ”と受け止めたうえで出てくる笑顔のように感じるのだ。その微妙な機微を表現できる点こそ、ジブリ作品が長年培ってきたアニメーション技術と脚本の妙だろう。ひょっとすると、この映画は「青春の一ページ」や「ファンタジックな家族愛」などのキーワードでは片付けられないほど、多層的なテーマを含んでいるのかもしれない。

最後に、本作を鑑賞する際に注意したいのは、“自分の感情移入の度合い”だ。アンナの鬱屈した性格に共感するかしないか、あるいはマーニーをただの不思議少女と見るか、それとも自分の心のどこかにも存在している“理想の友達”と見るかで、この映画の印象は大きく変わってくる。もし途中で「なんか暗いし地味だな…」と感じても、マーニーの正体がわかるまではぜひ粘っていただきたい。あの洋館での幻想的な光景や、ラストの種明かしを体験したときに初めて「ああ、こういう話だったのか」と理解できるはずだ。観る前と後では作品の意味がガラリと変化するタイプの映画なので、油断ならない。そういう点で言えば、“大人のジブリ”というキャッチコピーもあながち間違ってはいないと思う。

以上のように、映画「思い出のマーニー」は、湿度たっぷりの幻想的な風景の中で、少女の内面世界をじっくりと掘り下げていく作品である。もしかすると、冒険活劇や魔女や巨大な怪物が出てくるわかりやすいジブリ作品を期待する人には地味に映るかもしれない。しかし、その地味さこそが本作の魅力だ。複雑な人間関係や自己肯定感の低さが織り込まれたストーリーを受け止めながら、最後にはほんのりと温かさを感じることができる。決してガツンと胃に来るスパイス満点の激辛料理ではないが、後から効いてくる独特の辛みがある映画だと言えよう。評価は星3つに落ち着いたものの、気にはなる味わい深さが詰まった一作であることは間違いない。

映画「思い出のマーニー」はこんな人にオススメ!

まず、大前提として本作は“主人公の心の揺れ動き”を丁寧に追いかける作品であり、そこに惹かれる人にとってはドンピシャである。自分の気持ちが上手く言葉にできず、一人で落ち込んでしまう…そんな内向的な性格に心当たりがある人は、アンナの言動に共感して胸がちくちくするかもしれない。あるいは「自分の昔の姿を見ているようだ」と思うかもしれない。加えて、ファンタジー要素よりも心情描写やミステリー的な構成に興味がある人には刺さりまくるはずだ。マーニーという不可思議な存在の真相を探りつつ、舞台となる北海道の洋館を巡るうちに、いつの間にか自分の過去やトラウマを重ね合わせてしまう……そんな“内面探索型”の鑑賞が好きな方にはぜひおすすめしたい。

また、ジブリ作品らしい美しい背景美術が好きな人や、自然風景に癒やされたいと思っている人にとっても見逃せない。まるで風が画面の中から吹き抜けてくるような臨場感があり、色合いや照明効果も独特だ。湿地帯や洋館の独特の空気感が、まるで異世界と現実を繋ぐ架け橋のような役割を果たしていて、ファンタジー好きにもたまらない魅力だろう。アクションや明快なサクセスストーリーを求める人には少々物足りないかもしれないが、“しっとり系”の作品を楽しめる人にとっては最高の癒やし空間になると思う。とくに夏の夜の静かな時間に視聴すれば、蚊取り線香の匂いと相まって“儚い思い出”にどっぷり浸ることができるだろう。そんな意味で、心の奥底をそっと揺さぶってくれる、少々大人向けのアニメ映画としておすすめしたい。

まとめ

映画「思い出のマーニー」は、そのタイトルからもわかるように、“思い出”と“心の機微”が大きなテーマとなっている。冒険やファンタジーに満ちた従来のジブリ作品とは少し異なり、ゆったりと流れる時間の中で主人公アンナが自分自身を見つめ直し、マーニーの存在を通じて大切な真実にたどり着く物語だ。観終わった後には、不思議な余韻とともに「自分にとって本当に大切なのは何だろう?」と、知らず知らずのうちに考えさせられてしまう。

派手なイベントや大きな見せ場は多くないが、その分、細かな感情の変化や美しい背景描写がしっかりと心に残る。気づけばアンナとともに、湿気たっぷりの湿地帯をさまよい、そして自分の中に眠る切ない思い出の扉を少しだけ開いているかもしれない。そういう味わい深い体験ができるのも本作の魅力である。