映画「ミッシング」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
この作品は、幼い娘が行方不明になった家族が主人公でありながら、単なるサスペンスに留まらず、人々の欲や正義、そして社会の闇までもあぶり出している。最初は「石原さとみが主演だから華やかなドラマなのかも」と軽い気持ちで見始めると、あまりの深刻さに腹を殴られたような衝撃を受けるだろう。加えて、メディアの報道や周囲の好奇心が、当事者をどこまでも追い詰める展開は見ていて息が詰まる思いだ。
しかし、本作は終始どんよりと暗いだけではないところがミソだ。人間が崖っぷちに追い込まれたとき、どんな感情があふれ出るかを見せつけ、そこには思わず苦笑してしまう瞬間すらある。深刻な題材を扱いながらも、どこか「生々しいリアル」を突きつけてくるため、不思議と退屈しない。むしろ見終わった後は、心の奥底でじわじわと余韻が広がり、しばらく他の映画に手を伸ばせなくなるかもしれない。
そんな心がざわつく魅力を持つ本作を、実際に観賞して感じたままを激辛スタイルで語っていく。石原さとみの鬼気迫る表情、青木崇高の渋み、そして中村倫也の妙にリアルなテレビ記者っぷりなど、演者たちの熱演も見応えたっぷりだ。これから鑑賞予定の人は、ちょっと気合を入れておくことをおすすめする。では、ここからは容赦なくネタバレ要素にも触れていくのでご注意を。
映画「ミッシング」の個人的評価
評価: ★★★☆☆
映画「ミッシング」の感想・レビュー(ネタバレあり)
あらためて言うが、本作のテーマは「幼い娘の失踪」だ。派手なアクションや大仕掛けのトリックを求めると肩透かしを食らうかもしれない。むしろ作品全体が現実の苦さを追及しているため、終始胸が痛む。石原さとみ演じる母・沙織里は、冒頭からすでに追い詰められた表情を見せ、視聴者を容赦なく苦しみの渦へ引きずりこむ。彼女が「何でもするから娘を見つけたい!」と必死に叫ぶ姿は鬼気迫る迫力だ。だが同時に、ああいう熱意が時には空回りし、逆に周囲とのすれ違いを増幅させることもあるのだと痛感させられる。
さらにやるせないのは、ネット上の誹謗中傷やワイドショー的な報道姿勢だ。母親が一瞬でも娘から目を離していた事実を「育児放棄だ」「自業自得だ」とあげつらう声が作品中で飛び交うたびに、こちらまで心が荒んでくる。SNSには善意もあるが悪意も半端じゃなく混じっている現代。観ていると「これだから世の中ってやつは…」とため息が出そうだ。
物語中盤では、青木崇高演じる父・豊との夫婦喧嘩が増え始める。見ていてつらいのは当然だが、同時に「ああ、こういうことあるよな」と納得もしてしまう。家族が危機に瀕しているときほど、いがみ合いが止まらなくなるのはよくある話だ。とくに、帰ってこない娘のことで神経がささくれ立っている母と、どうにか冷静を装おうとする父の温度差はリアルすぎて、下手なホラーよりよっぽど怖い。
ここで大きな役割を果たすのが、中村倫也が演じる地元テレビ局の記者・砂田だ。最初は「被害者家族を助けたい」という気持ちがあったように見えるが、しだいに上層部からの命令や視聴率の都合で取材内容が歪んでいく。彼自身も良心の呵責を感じているが、一方で職業人としての割り切りも捨てきれない。結果的に、母親に都合の悪い情報まで垂れ流されてネット炎上が加速するという展開は、もう勘弁してくれと言いたくなるほど胸が痛い。
それだけならまだしも、沙織里の弟・圭吾(森優作)の言動がまた事件をややこしくする。口下手な圭吾が失踪当日の行動をしっかり説明できなかったことから「もしかして犯人?」と疑われる流れになるが、これもまたリアルだ。世間の関心が事件の真犯人ではなく、目につきやすい“怪しい人物”に向かうのはよくある話。しかもマスコミは数字を取るためならスキャンダラスな要素を逃さない。結局、圭吾は世間からバッシングされ、本人も自暴自棄に陥る。こうした誤解の連鎖は、善意と悪意が渦巻くネット社会を見事に表していると感じた。
とはいえ、本作がずっと悲惨なだけで終わるかというと、そこにわずかながらの光が差し込むのが救いでもある。娘が行方不明のまま月日が経ち、周囲の関心がどんどん薄れていくなか、父と母にはそれぞれに思いがあることが少しずつ見えてくる。母が表立って行動し、父が裏でサポートにまわる構図は、実際の夫婦の姿にも重なるだろう。お互いの気持ちのぶつけどころがわからなくなっていがみ合う一方で、「それでも子どもを諦めない」という強烈な執着だけが二人を何とか繋ぎとめているのだ。
ラスト付近では、まさかの“事件解決なし”という展開が待っている。犯人もわからない、娘も見つからない。それで本当に物語は終わりなのかと思ったが、本作はそこが肝心なのだと気づかされる。行方不明事件に決着がつかないからこそ、遺された家族がこれからどうやって生きていくのかに焦点が当たる。つまり、「必死に追い求めても得られないことがある人生の残酷さと、それでも続く日常の一歩」というテーマだ。結論を曖昧にしたまま幕を下ろすことで、観る側に問題提起を突きつけているわけである。
この映画、鑑賞後のダメージはそこそこ大きい。ズシンと重い気持ちを引きずってしまうし、「家族ってなんだろう」「世間やメディアの目ってどうにもならないのか」と考えさせられて眠れなくなるかもしれない。しかしそれは、監督の狙い通りなのだろう。観る人に問題意識を強く残し、社会の暗部と向き合わせる。この容赦のない姿勢が、本作の見どころでもある。
とはいえ、ひとつだけ救いを感じるのは「誰一人として完全な悪人がいない」点だ。砂田も曲がりなりにも記者としての責務を果たそうとしている。弟・圭吾も本来は姉を助けたかっただけであって、最初から怪しさ全開の悪役ではない。そして母も父もそれぞれ不器用ながら、娘のために必死なのだ。みんなが何かしらの思いを抱えていて、その行き着く先が空回りを招いている構図には、涙が出ると同時に思わず苦笑いもしてしまう。
劇中の石原さとみは、今までの華やかなイメージを覆すほどの形相を見せる。彼女の美貌を楽しみにしている人にはもしかすると衝撃かもしれないが、「女優・石原さとみ」としての凄まじい熱量を堪能できるはずだ。青木崇高の静かだが芯のある演技も味わい深く、夫婦間の緊迫感が作品の重厚さを増幅している。そして中村倫也は、どこか冷静ぶりながらも優しさを捨てられない記者を絶妙に表現しており、そのバランス感覚が秀逸だ。
ネタバレを許容してもなお、この映画が突きつける「子どもが見つからないままの日常」は簡単には受け入れがたい。だが、そうした“着地点のなさ”こそが本当の地獄であり、実際の行方不明事件でもよくある話だというリアルさに目をそらせないのが本作の真骨頂だと思う。作品の中で特に印象的だったのは、母親がライブに行っていたことを責める声に対して、「親だって人間だ。24時間すべて完璧に見張れるわけがない」と言わんばかりに沈黙するシーンだ。こういうリアルな人間臭さが逆にグサリと刺さる。
本作は重厚さもあれば苦さもあり、それぞれのキャラクターが抱える思いがぶつかり合いながら着地点がないまま突き進んでいく。結末で完全解決を望む観客には消化不良かもしれない。しかしながら、「どんな形でも見失ったものに対して人はどう向き合い、生き続けるのか」というテーマを丹念に描いている点では、見応えがある。現実をえぐるタイプの作品が好きなら観て損はないだろうし、「石原さとみをいろんな意味で見直すきっかけ」にもなると思う。
観終わったあと、筆者はしばらく茫然としてしまった。「こんなに辛いのに、なぜか目が離せない」と感じたのは、そこにありのままの人間ドラマが詰まっていたからだろう。ここまで徹底して真実に迫ろうとする映画なら、ある意味“ほろ苦い名作”と呼ぶにふさわしい。とはいえ心にガツンとくるので、精神が弱っているときにはあまりおすすめはしない。元気なときにどっしり受け止めるべき作品だ。
映画「ミッシング」はこんな人にオススメ!
まず、社会問題に切り込む作品に興味がある人にはピッタリだ。行方不明事件を軸にしてはいるが、同時にメディアが抱える報道倫理やSNSによる攻撃性がリアルに描かれているので、そういったテーマに関心のある人は見応えを感じるはずだ。さらに、家族の形や夫婦のあり方について考えさせられる場面も多い。派手な事件解決のカタルシスを求めるより、「人間の闇や弱さを掘り下げるドラマ」が好きな人に向いている作品でもある。
また、俳優陣の渾身の演技を味わいたい人にとっても一見の価値がある。石原さとみが見せる母親としての迫真の表情は、華やかさのイメージとは真逆の重苦しさを放っていて意外性バツグンだ。青木崇高との夫婦役でぶつかり合うシーンは、テレビドラマではあまり見られない壮絶さに満ちている。中村倫也の記者役も、良心と仕事の狭間で苦悩する姿が目に焼きつく。高い演技力を堪能したい向きには絶好の機会だろう。
さらに、「心が揺さぶられる物語」を求める人にとっては、この作品ほどガツンとくるものはなかなかないと思う。終盤に至っても事件の決着がつかず、ずっともやもやとした状態が続くのだが、逆にそこが醍醐味だ。世の中には解決できないことがたくさんあるのだと再認識させられ、「それでも生きていかなければいけないのか…」という複雑な思いに引きずり込まれる。この鬱々とした空気に耐えられる人なら、作品を最後まで見届けたあとに、独特の達成感を得られるのではないだろうか。
一方で、スカッとする展開が大好きな人や、わかりやすい勧善懲悪を期待する人には不向きかもしれない。事件は闇の中、家族は苦しいまま、それでも時は進むという展開に、もしかすると消化不良を起こすかもしれない。ただ、本作は「失われたものが見つからないままでも、どう人生を続けるのか」を問いかけるため、そこにこそ真の価値があるといえる。重いテーマと真摯に向き合う覚悟がある人には、ぜひ一度体験してみてほしい。
まとめ
本作は、失踪という取り返しのつかない事態が起きたとき、人はどう行動し、どれだけ絶望し、それでも何を支えに生き抜くのかを描いている。犯人探しというより、家族や周囲の人間関係が崩れていく様子こそが最大の見どころだ。とくに、母親を演じた石原さとみが徹底的に追い詰められていく演技は衝撃的であり、見ている側も「もうやめてあげて!」と叫びたくなるほどだ。だが、そんななかでもわずかに光がさす瞬間があり、人間の強さと脆さを同時に思い知らされる。
結末は娘が見つからないまま閉じるが、その事実こそがまさに作品の主張だろう。人生には理不尽がゴロゴロしていて、どんなに必死でも解決しないことがある。だが、それでも今日という日を生き続けなければならない。自分だったらどうするだろうか、と深く考えさせられる。この苦さを抱えつつ、なお一歩ずつ前へ進む登場人物の姿は、けっして遠い世界の物語ではないと思わせる。胸が痛みつつも最後まで目が離せない、そんな作品である。