映画「366日」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作は、沖縄出身バンドHYの名曲「366日」をモチーフに制作された恋愛映画である。人気俳優陣による切ない演技と、美しいロケーションで描かれる純愛ストーリーが話題になったが、果たしてその評判は本当なのか。
筆者としては、良いところもあれば「ん?」と思う点も多々あると感じた。いや、純愛モノなのに別れたり再会したり、挙句の果てにMDが今さら登場してくるとは時代錯誤も甚だしい。とはいえ、主題歌である「366日」がシーンに流れると、やはり青春時代のアオハル感がぐっと胸に刺さるのは悔しいところである。演技力については一部高評価がある一方、ストーリー展開の強引さを指摘する声も。
世間では「心打たれた」「涙した」という声が続出しているが、そんな称賛ばかりをうのみにしてよいのか。ここでは、映画「366日」にどんな魅力と欠点があるのかを徹底的に掘り下げていく。ネタバレに容赦はないので、これから見る方はご注意を。
映画「366日」の個人的評価
評価: ★★☆☆☆
映画「366日」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作「366日」は、そのタイトルからしても分かるとおり“1年+1日”という特別な時間を象徴しているわけだが、実際の物語は若い2人の恋愛と、その後の別れや再会を描いている。しかし正直に言ってしまうと、あまりにベタな展開が多すぎて、2時間超の上映時間でも「おいおい、大丈夫か?」とツッコミを入れざるを得ない場面がいくつもあった。
まず、主人公の湊が音楽の夢を追うために沖縄から東京へ進学し、恋人・美海を残していくところまでは「青春だなあ」と微笑ましく見守れる。しかし湊が母親の死を契機に自分の将来を真剣に考え始める一方で、美海のほうも地元に残るか東京に行くか迷いながら、結局は彼を追いかけて上京。そのあたりまでは王道展開でも許容範囲だと思う。だが「よし、ようやく2人で幸せな東京生活が始まるぞ…」と思いきや、湊が突然別れを切り出して姿を消すという急転直下。いや、もう少し理由をちゃんと語ってやれよとツッコミたくなる。これが“映画的な演出”といえばそうかもしれないが、観客としては「何があったんだ?」と正当な不満を抱いても仕方ないはずだ。
さらに、時は流れて2024年。大人になった湊のもとに突然現れる謎の少女。彼女が「これ、美海さんからの伝言です」とMDを手渡すのだが、そもそも2024年にMDを再生できる環境ってどれだけレアなんだと心配になる。まあ作品側もその点をわりと強調していて、「昔の思い出の象徴としてMDを使う」という狙いは分かるのだが、それがかえって「いまMDかよ!」とツッコミ所を量産してしまう結果になっている。とはいえ、MDを発掘するあの瞬間には昭和~平成生まれの人間には妙な懐かしさがこみ上げるのも事実であるから、作り手の作戦勝ちと言えなくもない。
MDの音声メッセージを通じて浮かび上がるのは、「実は湊が別れを告げたのには切実な理由があった」というドラマだ。そこには母親との思い出や、湊自身が抱えた葛藤が影響しているのだが、個人的にはもっと丁寧に描いてほしかった。あまりに端折って語られるから、映画冒頭で湊が別れを決めた動機としては弱い気がしてならない。いや、そこをもう少し濃厚に演出してくれれば、ラストの再会や美海からの想いに、より一層の説得力が生まれるのに惜しいところである。
とはいえ、この作品、演技力には光る部分がある。湊役の俳優は、陰のある表情をうまく使い分けて、繊細な感情を丁寧に表現していると感じた。美海役の女優も、ピュアだけれど芯のある少女から大人へと移り変わる年齢特有の揺らぎを自然に演じていた。一部で「感情移入できない」という声もあるのは、ストーリー展開に無理があるからであって、役者の芝居が悪いわけではない印象だ。
主題歌の「366日」については、「名曲は強し」と言わざるを得ない。やはりクライマックスで流れると、それまで多少腑に落ちない展開があっても「ああ、やっぱりこの曲はいいな」と感動してしまう自分がいる。ラブストーリーを観ているというより、メロディーを聴いて思い出に浸っているような錯覚すら覚える。しかしこれでいいのか? 映画の本質より曲の力に頼っている感は否めないものの、その“ずるさ”が許せちゃうのもまたエンタメの不思議だ。
とはいえ、ツッコミ所をまとめるとこんな感じだ。
- 湊がなぜそこまで唐突に美海を切り捨てたのか説明不足。
- 2024年にMDを渡されてもそう簡単には再生できんだろうというリアリティの薄さ。
- 20年の時を越えた純愛をうたっているわりには、肝心な葛藤の描写があっさり。
ネタバレ上等で言えば、終盤で湊と美海が再会し、音楽をめぐる想いが交錯するシーンは「はいはい、そう来ますか」というオチである。ベタといえばベタだが、そこに素直に涙できるかどうかは観る人の過去の恋愛遍歴次第かもしれない。高校時代の初恋をまだ引きずっている人なら「分かる! この切ない感じ!」と激しく共感しそうだし、冷めた人には「いや、現実はそう甘くないよ…」と思わず笑ってしまうかもしれない。
全体的にはややストーリーの説得力に欠ける感は否めないが、俳優の演技と音楽の力で「まあ、いいか」と思わせる不思議な魅力がある映画である。評価としては★★☆☆☆(星2つ)をつけざるを得ないが、好きな人はとことん好きになれる作品でもあるはずだ。自分の黒歴史的恋愛と重なる人には、意外と刺さるかもしれないぞ。
映画「366日」はこんな人にオススメ!
まず、恋愛映画が大好物で、多少のご都合主義も「まあ映画だし」と笑って流せる方にはおすすめである。とにかく主題歌「366日」が好きな人や、HYの曲で涙腺が緩んでしまうタイプなら、たとえシナリオが多少荒削りでも音楽シーンだけで十分価値を見出せるだろう。さらに、沖縄と東京という2つの舞台の対比や、時代をまたいだ純愛ストーリーを味わいたい人にはちょうど良い。MDやチェキといったちょっと懐かしいアイテムが登場するので、「ああ、あの頃はこんな風に音楽を聴いていたな」といったノスタルジーに浸ることができるのもポイントだ。
一方で、整合性にうるさいタイプや、ストーリーにリアリティを求める人にはあまり向いていない。登場人物の行動原理がいまいち納得できなかったり、時代設定と小道具の食い違いがどうしても気になったりするかもしれない。ユーモア的に「いや、いまどきMDって!?」と突っ込める度量がある人なら、むしろ楽しめるかもしれないが、「もう少し現実的な描写を頼む!」と真顔で思うならイライラする恐れがある。結局は「音楽に感情を支配されてもOK」「初恋や遠距離恋愛の甘酸っぱさに浸りたい」「少し切ない気分にどっぷりはまりたい」という方にはドンピシャの映画である。もし過去の恋愛を美化したい瞬間があるなら、この作品を観るとさらに気分が盛り上がるかもしれない。
まとめ
映画「366日」は、HYの名曲のパワーと俳優陣の繊細な演技で、一見ベタな純愛ストーリーに深みをもたせようと試みている。
しかしながら、唐突な別れやMDというレトロアイテムの再登場など、時代錯誤感や物語の強引な展開が目立つのも事実である。青春の苦さや甘酸っぱさ、失恋の切なさを思い出させる要素は詰まっているので、「過去の恋を振り返って浸りたい」人には絶妙に刺さるかもしれない。
反面、映画の構成や時代設定の整合性を厳しくチェックする人には「なんでやねん!」とツッコミどころ満載だ。総評としては評価を★2としたが、「いやいや、むしろそこがいいんじゃないか」とハマる人もいるだろう。
賛否両論の分かれ方が逆におもしろいので、気になる方はぜひ一度鑑賞してみてはいかがだろうか。